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無能な三十路ニートだけどヘイシーズが仕事くれた

2日目

―朝―


俺は城から離れた城壁の近くで目を覚ました。

夜中、城門のある大通りの一角であのまま蹲って泣いていると、やってきた娼婦に、『そこはあたしの縄張りなんだけど…』と言われて『ごめんなさい…』で歩き出した俺。『えぐっ…えぐっ…』としゃくりあげながら、大通りを城に沿って東に歩いて、突き当たった町全体を取り囲む城壁の下で眠っていた。


まだ時間的には日が出たばかりで早いが、行く所もやる事もないので城門まで移動しよう。浅野や同僚の誰かが出てこれば、何か知ってるかもしれない。


しばらく待っている間に気付いたが、この町の人は朝が早いらしく、日が出たばかりだというのに井戸汲みしている少女や登城する兵士などが散見される。



俺は昨日の経験から、道に立ってると兵士に追い立てられると思い、人の邪魔にならないように城門が見える昨日の位置を確保。

ここを縄張りにしている娼婦も当然にすでにいなくなっていた。



俺がいる場所は建物と建物の間のくぼんだ場所であるため、囲まれてる建物の各家庭で朝ご飯を用意し始めたのか俺の座る一角までおいしそうな匂いが立ち込めてくる。

その匂いに煽られて、腹の虫がぐうとなる。そこで、昨日の夕方から何も飲み食いしてない事に気付いた。


水でも飲もうかと思い、先ほどの少女が使っていた井戸に近づくが、そばにいたゴツイ男に睨みつけられ追い払われた。どうやら浮浪者は井戸を使えないらしい。

それに涙でぐしょぐしょでさらにキモくなってるであろう俺の顔を見て、とても嫌そうな顔をされた。こんな事なら夜中にこっそり飲んでおけばよかった。



俺は、どうしても水が飲みたくてたまらなかったので、ここから離れたくはないが、水を飲むため城門の前でT字路になっている大通りをさっきまで寝ていた東に向け移動する。昨日寝る時に気付いたのだが、火事への備えか大きな水瓶に水が入っているのを見つけていたのだ。大きな水瓶の中の水は蓋がしていないこともあって、枯葉などが底に溜まっている…飲んでも大丈夫なんだろうか?ものすごく不安だが、ためしに両手で水を掬い、一口飲んでみる。…ウマい!生臭い池の水の味を想像していたのだが、冷たいミネラルウォーターのような味がしたため、がぶ飲みする。



水を飲み、城門のそばの監視スペースに戻った俺は、昨日俺の上着を盗っていった浮浪者を発見。奴は城門から横に10メートルほどの位置に陣取って座っていた。


あいつのせいでシャツだけで寒い一晩を過ごすことになったので、文句を言うなり、取り返すなりすればいいのかもしれないが、反撃されると怖いので何も言えなかった。





動きがあったのは、昼少し前、城門の奥がにわかに騒がしくなり、何事かとみていると、俺と同じような現代の格好をした男性が屈強な兵士に担ぎ上げられて連れ出されてくる。


同僚が来たと思い、近づいて話しかけようとするが、よく見ると明らかに茶髪に革ジャンのリア充。同僚ではないようなので遠巻きに様子見をすることにする。なんでかっつうと、俺は元ヒキの人見知りなんで。あとあいつの名前を知らないのでリア充と呼ぼう。


どうやらリア充は城の中で気に喰わないことがあったらしく、『これはどう言う事だ』『お前ら絶対に後悔させてやるからな』など兵士に怒鳴り散らしつつ、ポカポカ殴りつけているが、兵士は意に介すことなく門までやってくると外にリア充を放り投げた。重力で負の二次関数に沿った放物線を描いて地面に落ちるリア充。昨日の俺を見てるようでリア充に親近感が湧く。

連れてきた兵士は門の外にリア充を投げ出すと城に戻っていく。リア充は起き上がると怒り狂い城門に突撃したが、走り込んだところを門番に殴られて綺麗なカウンター状態に。門番のパンチを支点に90度綺麗に体を回転させ、倒れた所を暴れ出さないようそのまま肩を右足で踏みつけられ動きを止められた。


すげえ痛そう…しかもあの靴、鉄でできてるから骨折れちゃうよ


気の毒なリア充は鉄の籠手で殴られた鼻が血だらけの噴水状態でもう完全にグロッキー。

兵士が足をどけた後も、倒れたまま全然動かなかった。

どう見てもスポーツマンタイプのリア充がこれなんだから兵士どれだけ強いんだよ…


兵士はしばらくリア充の様子を見ていたが、そのうちにもう一人の兵士に向かって首を振り、仕方ないねと言うように首を竦ませ。


持っていた槍を逆手に取ると。


そのままリア充の胸にどすっと突き立てた…………えっ?


やだなあ、俺疲れてんのかな。見間違えてねえ?

(つд⊂)ゴシゴシ


…槍が…

(;゜ Д゜)


刺さっとる!

(((( ;゜ Д゜)))


口からごぼごぼ血を吹きながらビクビク震えるリア充。

どう見ても致命傷です。本当にありがとうございました。


口を開け、呆然と見守る俺。

血を吐いて痙攣するリア充。

門の所定位置に戻り談笑する兵士×2。

大通りを流れて横切る血を何事もないかのように避けて歩く通行人達。

瀕死のリア充の靴を奪おうと足にまとわりつく浮浪者。



ちょwwwコレ何ww?

目の前で人間死んでんだけど。

画太郎で言ったらでバタンキュッなんだけど。

英語でsayしたらBatanQ!

関西風に言うたら人が死んでんねんで!

あっ僕。引きこもりだから知らなかったんですけどコレ新しいコントですか?

ええそうです。あそこの兵士達も芸人で芸名はヘイシーズ。

ですよねー。




……現代日本では考えられないような状況に直面し、しばらく意識が混濁し半狂人化していた俺だったけど、気が付くと、リア充は動きを止め、浮浪者は靴を持って去り、俺はヘイシーズに手招きされていた。




ヘイシーズに呼ばれた俺は、弱小動物のサガかその場を一歩も動けなくなっていた。

意識が飛んでる時に少しずつ近づいてたのか俺とリア充の距離は1メートル。

ヘイシーズとの距離は2メートルほど。

その2メートルは俺が進むはとてつもなく遠い。

そして逃げるにはとてつもなく短い。


それでそこにぼけっと突っ立ってる。

頭真っ白……何も考えてない真っ白…


俺がそのまま動けなくなってることに気付いたのか、ヘイシーズが近づいてきて、

俺の肩を叩いたり、頬を軽く張ったりして正気を取り戻させる。


ああ、と気づいて愛想笑いすると、ヘイシーズ様は

「この死体を墓地まで運んでくれ。礼は払う」

と仰られました。


墓地でございますか。わたくしめが運ぶんですか?

しかしながら旦那様方、わたくしめは墓地の場所を知りませぬ。

ああ、なら町の外に放っておけばいいと。

それに身に付けている物は好きにしていいと?

そう言われて、自分が死体処理という仕事を請け負おうとしているのに気づきました。





死体処理という仕事。

さすがに抵抗があり、だんまりしてしまう俺。


ヘイシーズは俺がまだ死体を怖がってると思ったのか、リア充の着ていた革ジャンを剥ぎ取り、笑顔で俺に着せて、「な、もう死んでるから怖くないぞ」と背中をポンポンと叩き、落ち着かせてくれる。


断るべきだ。こんな事願い下げだ。

何より、こいつらは人殺しだ。

言え、言うんだ。断るって言うんだ。

そう思った俺が口を開いた時、リア充から剥いだ革ジャンについてた血が、『つつっ』と俺の右腕を伝って流れていく。



結局、口から出た言葉は

「わかりました旦那様」


という、愛想笑いのこもった見下げ果てた一言だった。







ヘイシーズから薄汚れた布を貰った

俺はリア充を東の城壁の外に運ぶため、薄汚れた布の上にリア充を載せると落とさないようにズルズル引きずって運んで行った。

途中、通行人の綺麗な女性の俺を見る目がゴミを見るみたいで辛かった。

東門から来たおじさんたちはすれ違う時に明らかに嫌そうに俺を避けた。


恥ずかしいのと辛いのを誤魔化すため、俺は自分をキリストだと考えた。

リア充は十字架で俺は磔にされるためゴルゴダの丘に登ろうとしているのだ。

そのためにリア充を運んでいるのだ。

人々の目は蔑みじゃなくて憐憫なのだと考えた。

そういうプレイだと考えた。

いざそう考えると、リア充からはぎとった革ジャンに付いていた血が袖から落ちていくのが、俺が拷問を受けていたみたいで興に乗った。

そう考えていたら、半分ほど行ったところから辛さはあんまりなくなって。

城壁を出るころにはまるで英雄になったかのような気分だった。


ヘイシーズには外に放っておけばいいと言われたけど。

リア充から剥いだ革ジャンがリア充の払った埋葬料に思えてきて落ちていた木切れを使って穴を掘った。


リア充が死んだのは昼前だったはずだけど、終わった時には夕方だった。

穴に入れる前に、リア充の服をどうしようか思ったけど、血まみれのシャツ以外は埋葬料としてもらうことにした。

リア充も埋めてもらったんだから文句は言わないと思った。


埋葬を終えて、城門に帰るとヘイシーズのリア充を殺した方が俺を待っていた。

交代の時間は過ぎていたけど、俺の帰りを待っていてくれたらしい。

リア充を埋めてきたと伝えると、ありがとう、と感謝されて見たことないコインを10枚ほど貰った。

いくらぐらいの金額かわからないけど、わざわざ俺を待っていたほどだから適正な金額なんだろうと思った。


俺は礼を言って、監視ポイントに戻った。

ヘイシーズはそのまま家に帰って、しばらくしたら門は閉じた。


門が閉じて、人通りが無くなると、リア充の事を考えて涙が出てきた。

『俺は昨日も泣いたのに、今日も泣くんだ』と思った。

血の乾いた布にくるまり、我慢して声を殺して泣いた。


気が付くと、ここを縄張りとしている娼婦が俺に背を向けて立っていた。


俺が急いで場所を移ろうとすると、泣いている俺を憐れんだのか『そこにいていいよ』と言われた。

彼女の顔を見ると、今日、俺が昼にリア充を運んでいるときにゴミを見るような目で見ていた女性なのが分かった。


あんなに綺麗なのに娼婦だったんだと思った。

俺は彼女が男に買われていくのを見届けると泥のように眠った。



俺のステータス

???


持ち物

Eシャツ&パンツ…体力+1

Eスニーカー  …敏捷+3

E革ジャン   …防御+5

Eチノパン   …体力+2

E革ベルト   …魅力+1


血だらけの布  

謎コイン×10

(死んだリア充の糞尿まみれ品)

ジーンズ    …防御+3

ボクサーパンツ …腕力+1


用語等


リア充…リアル(現実)が充実している人の事

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