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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レティルブルグの戦い (歴史の分水嶺編)~
28/89

Give me the tools, and I will finish the job.  手駒をくれたらやってやる

前回のあらすじ




YAKUZAが騎士と切り合ってるのを

一番近くでかぶり付きで見てた。



それが、不評だったので俺達は久しぶりに本家の作品に出てた


そんな感じだったと思う。


――― リーダーという立場―――――――――――――――



 光が消え、応戦していたヤクザがその場に倒れ込むと同時に、騎士たちが私たちを捕まえに部屋に一斉に入ってきた。さっきまでいたヤクザの舎弟を盾にしようとしたが、いつの間にか窓を破って逃げている。私もそこから逃げようとしたが、回り込まれてしまい、ソファーのクッションを手に取って振り回して抵抗したが、あっけなく押さえつけられた。姫がその後ろにも居るぞ。とソファーを指したから、折角隠していたエリーまで連れ出された。そして並んで立たせられた二人。男達にじろじろ見られて、腐った親父共がお好きな女の品評会みたいだ。



 しばらく奴らは遠巻きにジロジロと私たちを見ていたが、輪に加わって見ていた小男が近くに来て、私の顔を確認するそぶりを見せていたかと思うと、『ボグッ』っといきなり私のお腹に拳を叩き込んだ。


 「おまえ、シスじゃねえか。昔は逃げた娼婦をかくまったり、俺を無視して直接モトマノと交渉したりと、よくもいろいろコケにしてくれたな。」


 そう声を荒げて、苦しむ私を嬉しそうに見つめる小男。どうやら、私の顔見知りだったらしい。私には記憶にないが、おそらくかつて私たちに上納金を要求しに来たチンピラの一人だろう。


 小男はまだ足りないとばかりに、両肩を掴まれて倒れる事の出来ない私の鳩尾に、再度拳を叩き込む。口中に広がる苦い味と共に、私の体が内容物を嘔吐する音が少し混ざってた荒い吐息が辺りに響いた。


 「で、肝心のゾンビを操ってる方法は何だ?」

 その疑問に答え、私は顔を上げると、胃液交じりの唾を吐きかける。


 お返しに横っ面に叩き込まれる小男の拳。

 肩を押さえつけていた騎士の手も外れる勢いで吹き飛ぶ。


 そのままソファーに倒れ込んだところを馬乗りにされた。


 「喋れ。」

 「いやだ。」


 再度殴られた。


 私は殴りつけてくる小男から両手で顔を守ろうとしたけど、あっけなく押さえつけられ、馬乗りになった男の足の下に手を挟まれる形で座られる。防御できなくなった私の上から小男は再度質問するが、ガン無視する。せめてもの抵抗と、時間稼ぎをするべく首と体だけで暴れ続けた。


 そのまま暴れていると、じゃじゃ馬にロデオするかのような状態になった小男がマウントポジションのまま、両手を使って私に制裁を加え始めた。顔を守れない上に、体重が載せられている拳がまともに鼻に当たり、つい、反射的に短い悲鳴をあげてしまう。生理的な反応で目に滲んだ涙が頬を伝う前に次の拳が振り降ろされるのが見えて、つい怯えた声を上げてしまった。私の目の端でエリーが私の声を聞いて、泣き出しそうになっているのが見えた。


 あの子がおびえるから、悲鳴を上げちゃいけない。

 そう思った私の顔をめがけて、振り降ろされる小男の拳は、すでに私の鼻血で真っ赤に染まっていた。





――― 卑怯で貧弱な私―――――――――――




 目の前で殴られるたびに、お姉ちゃんから短い悲鳴が聞こえてくる。そのまま何回か殴られると、お姉ちゃんは『じたばた』を止めて大人しくなった。

 そうしたら、殴るのを止めた男がまた私の事をきいた。

 おねえちゃんは顔から鼻血を出してて、それでも小さく『アタシがやってる…』と言って、わたしをかばってくれた。



 「じゃあ、証拠見せろよ。お前、昔はそんな能力無かったろ。」


 言われたおねえちゃんはおじさんを睨みつけたけど。

 その顔は鼻血が飛び散っててまっかだった。


 おじさんは怒って『ちっ』とすると、また殴ろうとした。

 けど、殴る前に、『待ちなさい』と大きなお爺さんの声がして、おじさんが止まった。


 わたしはお姉ちゃんを助けてくれるかと思ったけど。


 お爺さんは『手ぬるい。』と一言だけ言うと、ナイフを出しておじさんに手渡した。

 お姉ちゃんはナイフを見て暴れ出したけど、ナイフを向けられてまた大人しくなった。


 「なー…お前もさ~、今後の商売のこと考えろよ。『ズタズタ』になっちまったら、お前の『本業』さえできなくなるぞ。」


 そうおじさんは言った。けど、おねえちゃんは怖がっても口をきかない。


 おねえちゃんの『本業』ってなんだろう。たしか、本業ってお仕事の事だ。アニャお姉ちゃんはシスおねえちゃんを連れて来た時に、お仕事が一緒だって言ってたけど、私はアニャお姉ちゃんのお仕事を知らない。前に家まで迎えに来たお客さんに聞いたけども、困ったように笑って教えてくれなかったんだ。だから、シスおねえちゃんのお仕事もわからない。


 でも、おねえちゃんが私をかばうと『ずたずた』?になってお仕事ができなくなるらしい。そしたら、おねえちゃんはお金が稼げなくなっちゃう。私やお兄ちゃんみたいに誰かに養ってもらうしかなくなるんだ。それ、困るんだろうな。


 わたしはそうやって、お姉ちゃんのお仕事を考えて、2人を『ぼんやり』で見ていた。さっきまでは怖かったけど、なぜか今はあたまも『ぼんやり』だ。


 私達の様子をみたお姫さまが『娘、話した方が良いぞ。』と言ってきたけど、お姉ちゃんは無視した。私はどうしようか迷ってた。迷ってたら、お姫さまが小さく、疲れてる時のため息をついた。それを聞いて、お爺さんがおじさんに命令した。


 「やらない脅しは脅しにならん。さっさとやれ」


 お爺さんのその声に戸惑いながらも、おじさんはナイフをお姉ちゃんの胸に滑らした。皮が切れて、血が流れた。それでもお姉ちゃんが無視していると。お姉ちゃんの左目の下にナイフの切っ先が突き立てられた。料理で指を切った事を思い出して、すごくびっくりした。


 ナイフが刺さったら、さすがにお姉ちゃんも驚いたのか、『んんっ』と声が漏れた。そしてゆっくりとチーズを切り取る時みたいに耳に向けて頬を切り裂いていったけど。お姉ちゃんは何も言わなかった。ナイフがするっと滑って。血が噴き出した。


 「俺のシスさんに何すんだ!顔に跡が残っちゃうだろ!」


 流れ出た血が痛そうで、私がおじさんたちに何か言おうとしたら、叫び声が聞こえた。




――― 遅れてきた主人公――――――――





 俺が叫ぶと、いきなりみんなの目が俺に注がれた。

 …しかし、全員が俺の事を忘れていたようで、みんなかなりビビってた。どうやら、俺は彼らに存在を認識されていなかったらしい。たまたま一番近くに居る姫でさえ驚いた顔をしていたし、俺を一番知っているはずのマネージャーさえ、ナイフ片手に俺を部外者を見るような目で見ている。…ってか、お前は覚えてなきゃおかしくね?さっき俺を蹴り倒したばっかりじゃねえか。くそう、暴行しても絵にならないおっさんだからって無視しやがって。



 ひょっとしたら叫ばずに倒れていれば、俺だけは助かったのかもしれない。



 しかし、降って湧いた俺が叫んだことで、シスさんへの暴行が止まった。

 そうポジティブに考えよう。これは兎にも角にも状況の好転である。

 このまま俺がこの場の主導権を握る事を考えるんだ。


 このまま俺に注目を集中させて、シスさんたちの安全を確保するため、脳の回路をフル回転させてこの最悪の状況からどう逃げ出すか、考えを張り巡らせる。…が、わからん!当初、保護してくれるはずだったヤクザは死んで転がってるし、エリー達、すでに掴まってんだもの。俺は縛られてるし。



 とりあえず、部外者でない事を示すため、全員に挨拶をしよう。

 それには、まず立ちあがろう。


 そう思って、生まれたての仔馬の様に足を踏ん張るが、後ろ手に縛られてる俺はケツが上がるのみでなかなか立てねえ。


 焦った俺がふと上に目をやると、姫は道端のゲロを見る目でそんな俺を見ていた。


 なんでそんな目で見るのか疑問に思ったが、良く考えると最近のキャバクラ通いで急上昇した俺の【不快様相】のせいだ。レベルが上がった時に、パッシブスキルは強制的にアクティブ状態になってしまうのだが、スキルブレスレットで非アクティブ化の操作をするのを忘れていたのだ。


 おそらく姫の俺に対する第一印象は最悪だろう。レベルの上がった【不快様相】の効果がどれほどかわからんが、おそらく今まで生きてきて、女性に抱かれた全ての第一印象の中でもトップレベルに最悪の筈だ。それに、下半身パンツだし。


 そして俺は尺取虫の様にケツを上げた状態で、ゲロを見る姫と視線が合ってしまった。


 本来なら、立ってから挨拶するのが望ましいのだが、視線が合ったらしょうがない。その恰好のまま、


 「あっどうも。わたくし、オーマと申します…」


 とかつて浅野に紹介された会社の新人研修で1日だけ習った挨拶をしたが、華麗に無視された。やはりかなり悪い印象をお持ちになられたようだ。


 そのまま、黙って立ち上がるため一人で格闘してたが、俺は全然立てなかった。




 そして、数十秒も経つと待てなくなったのか、白菜ジジイが俺の上着の襟首を引っ掴んで、子猫をつまみ上げるかのように俺は持ち上げられた。




――― 尋問―――――――――――



 爺は俺を吊り下げると白菜の時とは違って鷹揚に俺に質問をしてきた。


 「お前何者だ?」と。


 爺の言葉に、俺は『……お探しのゾンビマスターです。』とだけ答える。

 何でそう答えたのか。有体に言えば、単なるカッコつけだ。

 あのままシスさんがゾンビマスターだと突っ張り続ければ、彼女は何をされるかわからん。

 それにエリーも暴行されるシスさんに耐えられずに、自分の正体を喋ってしまうだろう。今だってここから見えるぐらいに、怯えているのだ。目の焦点が合ってないし。

 それに、俺は男だ。しかもブサイクなおっさん。シスさんと違って、あのドSな小男も拷問する気が起きないだろう。少なくとも、しばらくは。…たぶん。


 それに、もし拷問を受けたとしても、俺だと言い張れば嘘もホントになる。よしんば、あいつらが信じなかったとしても、俺が時間を稼げば、逃げたヤクザが仲間を連れてくるかもしれない。さっきからシスさんが『だんまり』を決め込んでいたのも、それが狙いだったんだろう。



 俺がそう覚悟を決めると、

 姫が「本物か?」と尋ねてきた。かなり胡散臭そうに。



 「はい……いや、ごめんなさい。嘘です。カッコつけてました。」


 姫の横でジジイが右手で背中から大剣を引き抜き、握ったのを見て、俺は肯定しかかった言葉を慌てて変えた。プランAは変更だ。死んだら元も子もないのだ。これはしょうがない。想定の範囲内である。


 「本当の事を言え」


 「僕は単なるヒモです。」


 自信満々な顔をした俺の答えに、ハァ?とした表情を見せるセレブ達。そりゃそうだ。俺でもこの状況でこんな事言われたらハァ?となると思う。でもこれは事実なんだ。事実ならどれだけまじまじと見られても自信を持った顔をしている事が出来る。こうやって嘘をつかずに、はぐらかして時間稼ぎをする。これがプランBである。


 俺の答えを聞いた爺は左手で俺を吊り下げたまま、呆れた顔で右手の剣を床に振り降ろす。


 おそらく脅しだろうが、そんなものを振り回したって、全然怖くない。ナイフみたいに体を刻むこともできないから、俺をいたぶって拷問することもできんのだ。つまり、まったく脅しになんかならないことに気付いていないんだろうか。所詮は白菜で追い返されたジジイだなwもう、姫様の護衛は止めて、老人ホームで余生を過ごしてはどうかね?ww



 ジジイの振り降ろされる大剣を見ながらそんな事を考えていると、たまたま振り降ろされる場所にヤクザの死体が落ちてた。そして、大剣が当たった瞬間、ヤクザの体は水風船を割ったみたいにはじけ飛び、勢い余った肉片が跳ね、しぶきの様に『ぽたぽた』と俺に降りかかった。



 「知ってる事を話…」「ごめんなさい!そこのエリーと言う幼女がゾンビを操る屍役術っての使いました!金儲けするだけが目的で、術を使った対象はもうすでにゾンビになってた奴だけです。エリーは言われた通りやってただけで、あの子に悪気はないんです。許してください!」


 白菜ジジイが脅しを言い終る前に、俺はすべてをゲロっていた。そして、爺は俺の目を見つめ、嘘を言っていない事を確認すると、左手を放し、大剣を背中に背負いなおす。掴まれていた襟首を自由にされた俺は『どさっ』っと床に落ちて、姫とジジイの足元で土下座をするような恰好になった。



 「アンタ…ドコまで使えないのよ!せめて5分ぐらい時間稼ぎなさいよ!」


 シスさんが顔を鼻血と切り裂かれた左ほほから噴き出る血で真っ赤に染めながら叫ぶ。

 その横で、正体をばらされたエリーはロリコン騎士に肩を掴まれた状態で不安そうに俺を見ていた。



 「だって…だってぇ」半泣きで呟く俺。


 だって、大剣振り降ろされた死体。原型留めてないもん。大剣は切れ味悪いのか、死体の肉がステーキに使うタイプじゃなくて、ハンバーグに使うタイプになってんだもん。



 「あー!もうサイアク!!黙ってて損した!!ちくしょう…絶対に傷跡残る…ちくしょう…痛いし…もうヤダァ…」


 小男に馬乗りにされながら愚痴を言い続けるシスさん。女性が顔を傷つけられたんだからショックだろう…せっかく彼女が頑張っていたのに、台無しにした自分のふがいなさに情けなくなってくる。俺に何ができるとも思わんけど、せめて彼女の支えになってやりたい。


 「大丈夫です…せめてのお詫びに、俺が責任取りま」


 その言葉を言い終る前に、俺のこめかみに鋭い衝撃が走った。同時に首が伸ばされる感覚と、冷たい感覚が俺の左顔いっぱいに広がる。



 ―とても、うるさいぞ。―



 俺の耳が天使のようなその呟きを拾った時、俺の目に映るのは横向きになった壁と、そこから生えている片方だけの綺麗な白い具足がだった…違う。これ壁じゃなくて横向きになった床だ。片方しか見えない白い具足は姫の足で…ってことは…


 俺は姫に踏まれていた。それも頭を具足で。


 あまりの事にあっけにとられ、言葉を失ったシスさんと俺。

 ただ、一人だけ冷静だったエリーが『あっ』とだけ驚きの声を漏らしたのが聞こえた。



 姫は俺達が黙り込んだ後も、駄目押しの様に俺を踏む足を『ぐりっ』と動かした。金属でできた具足が俺の頭皮をねじり、鋭い痛みが走る。が、外見からは想像できない『姫』の暴挙にあっけにとられている俺はショックのあまり、苦悶の声も上げられなかった。


 その態度が良かったのだろうか。

 姫は俺達が大人しくなったのを確認すると「ふむ」と呟き、俺から足をどかす。


 そして、『姫』は「全員連れて行くぞ」と簡単な命令を下すと、踵を返し、白菜ジジイと共に部屋から出て行ったのであった。






――― もう一人の異邦人―――――――――――――




  ―あァ、どいつもこいつもクソだ




 その部屋で俺は男と一緒に話をしていた。

 部屋の内部には掃除道具やカート。洗濯籠や洗濯機が雑然と積まれている。

 部屋の中には俺達しかいないが、石造りの室内は妙に湿っぽい。


 そこに裸にベッドシーツだけを羽織った女がドアを開けてやってきて、話しに加わってきた。近づくとまだ男臭い匂いが残っており、それが俺の鼻を突いた。


 俺はお湯につけてあった布巾を絞って手に取ると女に渡しながら、話を続ける。


 …システムを起動させた様子はない事。

 やはりまだ認証をクリアにできないらしい事。

 与える情報はどうでもいい事ばかり。

 それでも男は一字一句聞き逃すまいと耳を傾けている。


 女に合う下着を、そばの籠に積まれている、洗濯済みの衣服の中から選び出しながら男が答える。


 「こっちはゾンビウイルスの特効薬が見つからん。ドクターの部屋近くの清掃の際に探って入るんだが、下手に近づきすぎると感染させられそうで効率が悪すぎる」


 この男は未だに『ボス』からの指令を律儀に守るつもりらしい。

 特効薬の確保はボスからの至上命令だったが、その優先度はここ1週間、町を闊歩している理性のあるゾンビの登場で劇的に低下している。本来の目的であった治安回復が理性あるゾンビによってなされた以上、特効薬の入手はウイルス散布に対する対抗策としての価値しかない。しかし、フィフテヌティアが城を落とした時点で彼女がウイルスの散布をするメリットはほぼ無くなっていると見てよい。


 事実として、ボスの息がかかった連絡役がここ2・3日で気にしていたのはシステムの事ばかりだ。それをこの男は分かっていない。いや、分かってはいるのだろうが、ボスに対する盲目的な忠誠が男の幅広い思考を阻害しているのである。



  ―だから、俺は忠誠や尊敬なんてものを信用してはいない



 それでも、男の話を我慢して聞いていると、シーツを脱ぎ捨てて体を拭いていた女がゾンビという言葉に反応した。


 「ゾンビ?さっきの男が言ってたけど、ボスの所から密告者が出たらしいって。なんでも、ゾンビのコントロール方法を教えに来たらしいってさ」


  コントロールだと?

  ゾンビウイルスについてか?理性ゾンビの方か?

  気になって質問するが、詳細はわからないそうだ。



 続けざまに指示を出そうとしたところ、ドアを開けて入ってきた男が、女を連れていった。どうやら、外で待ちくたびれて、服を着させる時間も嫌だったようだ。


 まあいい。

 彼女は優秀な方なので、細かい指示を出さずともそれなりの成果を上げてくれるだろう。



 男からついでに掃除を頼まれたので同僚と食堂に行く事にする。


 廊下を歩いていると、窓から中庭を歩くフィフテヌティアが見えた。相変わらず純白の鎧をつけたまま、多くの騎士に囲まれて颯爽としている。


 つい一か月前には追われる立場だったのに、この城を落として以来、もうすっかり天下人気取りだな。



 気に食わない。そのブロンドも、純白の鎧も。

 神に愛されたと言われるその顔立ちも。

 生まれからして、平民とは違うとでも言いたげな尊大な態度も。


  ―なんとかあの地位から引き摺り下ろしてやりたいものだ。


 権力者を見るだけで湧きあがる生来の衝動を言葉に変えると

 俺の背筋をどす黒い蛞蝓が這い登っていくように悪意が堰を切って流れ出す。



 苦汁を与え、あの尊大な女を地べたに引き摺り下ろし、砂を噛ませたい。

 街中を引き回し、命乞いをする姫を『実につまらない』死に方をさせてやりたい。

 お前の座っている席を奪い取り、血族全員に至るまで撫で切りにしてやりたい。



 が、今の俺では足りないものが多すぎる。

 それに、居なくなってほしい最有力だとはいえ、今いなくなられては困る。

 物事を起こすには時勢が味方する必要がある。


 そう冷静に思うと、俺の背筋を這い上る悪意はゆっくりと沈んでいった。



 ふと見ると、姫に続く騎士たちの後ろを、縛られた子供や女が『ギャーギャー』喚きながら歩いていた、なんだか威勢がいい女だ。攫ってきたのだろうか?姫自ら人攫いとは珍しい。


 あまり見ると、不審がられるな。

 窓から離れ、そのまま石造りの廊下を床を見ながら歩く。



 石の廊下から木造の食堂に入ると、騎士たちが女を侍らせて、よろしくやっていた。


 フィフテヌティアの近衛は精鋭だと聞いていたが、内情はこんなものだ。本来、『崇高』な目的を持って集まった集団ほど、権力を手に入れた瞬間、タガが外れたかのように乱れていく。


  ―だから、俺は崇高な事を言う奴は信じない。

 


 騒がしい喧騒に交じり、女たちの嬌声が飛び交う中。

 下着やら何やらが散乱している床の一角で、誰かがもどしたゲロを2人で掃除する。


 機械的に掃除していると、学生時代のコンビニのバイトを思い出した。俺が働いていたのは、少し大通りから裏道に入った人気のない店で、不良がしょっちゅう駐車場で酒盛りをしていて、俺はよくその片付けをしていた。時には人通りが少ない事もあって、裸にコートだけの女が、店の中でカメラで自画撮りしながら小便をしていったりと言う事もあった。


 そうやって、学生の頃の事を思い出していたら。同僚の男も掃除を終えた。



 そして、部屋に戻る途中でさっきの女が部屋から顔を出してメモを渡してきた。キスマークだらけで生々しい。女はすぐに男に部屋の奥に引っ張られてしまった。



 廊下を歩いていると、部隊長と鉢合わせた。

 奴は優雅な振舞いとは対照的に、ボロボロになった女を引きずっていた。


 「ねえ、新しい女を用意してくれるかな。」


 はあ、と頷きながら

 なるべく女を見ないようにする。


 「やはり攫ってきた女ではダメだね。なかなか抵抗を止めないからね。これからは全部、君のところでの調達に変える。」


  いいですが、それなりにコストは割高ですよ。何しろ供給が…


 「わかってる。金なんていくらでも後で払うよ。」


  それでしたら、一度、上に連絡を取って用意いたしましょう。

  大体、三日ほどお時間頂くと思いますが。


 そう話す俺の目の端で女が小刻みに痙攣して小便を洩らすのが見えた。



 「そんなこと言っても、また君なら明日にでも用意してくれるんだろ。」


  いえ、最近ではもう難しいかと…


 「そうか…まあいいや、ついでにこれも片しといて。」





 渡された女をカートに乗せて、城の裏手から墓守に渡す。

 最近では、遊び半分で殺される市民も減り、俺達が死体を埋めるまでもなくなったな。



 理由は…

 今は俺達が手配した娼婦たちが上手く連中をあしらってくれてるから…か。

 

 そう考えると任務とも目的とも違った随分と奇妙なやりがいを感じた。



 墓守と別れた俺達はそのまま道具部屋に戻った。

 俺のベッドに横になりながら、先ほど渡されたメモを見る。

 慌てて書いたんだろう走り書きだ。


 『死人を操る 探しに行った』


 …なるほど。

 さっきの女たちはそう言う事か。


 『上司』に来る前に読まされた資料にあった、レア物を見つけたらしい。

 それも、『味方』側にではなく『敵』側に、だ。

 厄介だ。

 大幅に計画を変更する必要がある。


 どうするべきか、この材料で最も最良の結果を上げるためにはどんな手があるか。

 とはいえ、現状は姫が王手をかけている詰んだ盤面。

 相対するプレイヤーは全員、様子見をしている。

 俺はいまだ盤上にさえ上がることができないでいる。

 正攻、搦め手、ほぼ全てが通用しないだろう。


 それでも、俺は諦める気にはならない。

 どうしても俺は諦める気にはなれない。


 そういろいろと考えていると、外が騒がしくなり、何人もの足音が聞こえてきた。

 こちらに何の用だ?と考える暇もなく。


 ドアが開いて男が投げ込まれた。


 ん、お前…



 ふふっ



  どうやら、神は俺を見放してていなかったらしい。

  俺にこのタイミングで、こんなにも最高の手駒を用意してくれたのだから。


  そして、俺は投げ込まれた男にかつてとまったく同じ言葉をかけたのであった。





    ⇒To Be Continued…









あとちょっとだけメインストーリーやってる人たちの

真面目な話が続きます。


…たぶん、ちょっとだけ。

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