赤毛のねくろまんさー
―どうやら、死人を使って商売をしている奴がいるらしい―
そんな噂が町の生存者たちの間で流れ始めたのは、俺達が市場から戻って3日ほど経った頃だった。
1週間もたった今では、市場でエリーの操るゾンビたちが堂々と仕入れた/集めた商品を生存者たちに売り払う状態。
奴らには俺たちの事を秘密厳守としているため、生存者に操り手の特定はされていない。エリーの操るゾンビは生きていた時の様に愛想のいい事も相まって、わりかし好意的にとらえられてるようで、生存者からは『流通が回復して助かった』との声も聞かれた。
内心どう思ってるかはようわからんが。
そんな状態の中、俺達は、配下(エリーゾンビ。略してエリゾン)にゾンビを倒させて持ってこさせ、その死んだゾンビに魂を戻し、配下にする流れで着々と街中のエリゾンを増やしていった。
「…なんか罪悪感あるんですが、狂ってるとはいえ人殺すんですし」
そう話す俺を女性陣はウザったそうに一瞥すると、こちらを見ずに、背中越しに口をきいてくれた。
「秩序が生まれるだけいいでしょ。私たちが凶暴なゾンビを生み出したわけじゃないんだから。私たちは良い事をしてるのよ!」
「そうだよお兄ちゃんはビビりすぎだよ!もっと現実を見ようよ!」
…毎日運ばれてくるお金と物資に心を汚され、すっかりお金のとりこになったエリー…完全に人格がシスの影響を受けてしまっている…ここ1週間は俺と居るよりもシスさんと一緒に服やらアクセサリーやらを集めては二人で喜んでおり、家事やごっこ遊びをしようとはしなくなった…
そんなこんなで軽く孤立してしまった俺とスジ夫の男組は2人をエリゾン達に任せて、一緒に女神たちを探すことにした。女神か姐さんが帰ってくれば、エリーもシスさんも元に戻してくれる気がしたのである。
途中、街中を行商するエリゾン達と何回もすれ違いながら街中を歩く。
すれ違うのは人間とほぼ変わらないエリゾンばかりで、おかしな動きをする普通ゾンビは見かけなくなった。
エリゾンが狩りを初めて3日もたったころには、すでに通りのゾンビたちはすっかり減って、たまに見かけても狩られるとでも思うのか、人影を見ると逃げるようになっていたのだ。
そうして安全になった通りをぶらぶらと歩く俺ら。大通りを南に向かって、市場に寄ると、エリゾン達が声を張り上げて営業中だった。市場の真ん中のテントでは包帯や酒、香水が集められており、老若男女のエリゾンが群がってた。どうやらエリゾン同士でも需要と供給が生まれて来たらしい。俺も酒をスジ夫に買ってぶっかけてやった。スジ夫も最近は、エリーに相手にされていないため、寂しそうだったからだ。
エリーのスジ夫に対する態度は、例えて言うなら『子供が遊び飽きたおもちゃに関心を示さなくなったような感じ』だろうか。他のエリゾンは腐敗も少なく言葉も喋れるが、スジ夫はだいぶ腐っていて話もできないし、顔もボロボロだからしょうがないかもしれん。
ふう、とため息をついて、スジ夫にかけていた酒を俺も少しだけ飲む。
冬の風が大通りの石畳を吹き抜けていく。
世間の風は俺らみたいな甲斐性ナシには冷たい。
思えばいいもの食べて、楽な暮らしをできた1週間だったけども、なんだかさみしい。
あんまり高価なものを食べれなかったけど、姐さんたちと居る時や、盗ってきた野菜だけのスープをシスさんたちとテーブル囲んで食ってた時の方が食事もウマかった気がする。
俺達は軽く悲しみを感じつつ、市場を離れ、南のギルドに向かって歩いて行った。
ギルドに着いた俺が一応警戒しながらも、バリケードらしきものが横に置いてある入口を抜けると、中にはまばらに冒険者が集まっており、その中には予想外なことにソルド達が居た。
「おっさん!生きてたか!」
そう言って、俺の無事を喜び、肩に手をまわしてくるやんちゃなスーパールーキー達。
あれからどうしていたんだよ。僕たちはいきなりゾンビたちに絡まれて…などなど、怒涛の様に話をしてくる彼らを軽く落ち着かせながら彼らの様子を見ると、全員が所々怪我をしている。どうやらかなりの戦闘を繰り返していたようだ。特に、ウォードは頭に包帯を巻いており、それが赤く滲んでいる。壁役の彼は皆を守ろうと頑張ったんだろうな。
ひとしきり彼らの話を聞くところによると、西門で別れた彼らは早めに馬車から降りたこともあって周辺のゾンビに追いかけられて囲まれてしまい、西の広場に追い詰められた絶体絶命のところを男爵に助けられ、彼が所属する冒険者組織に保護してもらっていたらしい。
「俺のグループはすごいぜ、今ある勢力の中では一番さ」
ソルドは目を生き生きと輝かせながら尊敬する先輩方の話をする。
重戦車の様にゾンビを吹き飛ばす大男。
魔道具を使いこなし、あらゆる事態に対処できる老齢の剣士。
武器マニアともいえる男爵。
町を焼く業火を鎮火させることのできる魔女。
「へえ、すごいな…ところでさっき勢力とか言っていたけども…」
興奮する彼の話を聞いていたが、ある程度彼が落ち着いた所で、一番気になった事を聞いてみる。勢力ってなんなんだろう。そんな派閥みたいなのがあんのか?
「あ~、おっさんはまだ初心者なんだっけ・・・」
そう言って困ったソルドの代わりに、マギーとケミーが分かり易く俺に説明してくれた。
二人のしてくれたすげえ長い話をまとめると。
そもそも、この騒動が起きた原因というのが、よくわかっていないのだが。
ある夕方にいきなり町の南側で発生したゾンビは一晩で町の大部分を侵食していった。それでも寡兵ながらも城は守られていたらしい。しかし、翌朝、南からやってきた騎馬の一団がゾンビを無視して城に突撃し、あっという間に制圧したことで、この町の機能は完全に停止。城を制圧した騎馬の一団も自治をする気がなかったらしく、やむなく力ある生存者が協力してそれぞれに自治を取っている状態。そう言えば城の門がひしゃげていたけど、あれ、攻められたんだな…ゾンビがやったと思ってたが、冷静に考えればゾンビが城を目指すわけないな…
そんでその自治なんだが。
最初に立ちあがったのは意外にも市場の商人集団。
元々、物資と護衛を抱え込んでいた彼らは騒動を沈静化させようと方々に使いを出した。
その使いに答える形で、組織形態の冒険者集団をまとめるリーダーが複数集まり、北西の町で治安維持に乗り出した。対して、南東の歓楽街では折から市場の商人グループに良い感情を持っていなかった事もあって、別のグループを結成。商人グループは事態が事態だけに一時でも和解しようとしたらしいが、何があったのかその日のうちに市場は焼打ちに会ったらしく、商人グループの大部分が散り散りになってしまったとか。
それでここしばらくは北西の冒険者集団・城を占拠している騎馬の一団・南東の歓楽街がそれぞれ好き勝手に縄張りを主張しているのが現状なんだってよ。残った商人の集まった小グループもあるけど。
で、俺の感想。
( ´_ゝ`)「 フーン」
聞いた感じ、俺に1ミリも関係しねえ。
俺の住んでいる所は東門のそば。
北西の冒険者も、南東の歓楽街も、北の城も、南西の市場も離れている。
立場だってニートだから、無関係。
向こうにしたって、無能なニートに協力を求めたりはしないはず。
まあ、本来だったら食い扶持を得るために地面に額をこすりつけて保護して欲しいとでもいうんだろうが、エリゾンが食事を運んでくる今の状態では保護の必要ないし。
だから、俺は親切心で冒険者グループに口利きしてくれるという彼らの申し出を丁重に断った。
「マジかよ…ロックだな…」
予想外の返答に戸惑うソルド。
『ごめんなさいロックじゃないです。女に食わせてもらってます。』
と心の中で謝る俺。
彼の後ろでは少し天然気味のケミーでさえ、不安そうに俺と包帯だらけのスジ夫を見ていた。
「少しでも危険を感じたら、すぐに西町に来てね。こんな危ない時だから、みんなで固まっていた方がいいわよ。それに…最近はゾンビを操って商売してるやつもいるし…」
マギーの言葉に、ぴくっと、耳が反応してしまった。
「ねえ、本当に大丈夫なの?あのお嬢ちゃんだって居るんでしょ?」
心配して気を使うマギーに『そのお嬢ちゃんが商売ゾンビの黒幕です』と心の中で軽く突っ込みながらも
「ああ…こいつと俺がいれば何とか守れるんだ」
カッコつけたことを言って、俺は彼らと別れ、ギルドを後にしたのだった。
俺のステータス
【基本職】ニート 【サブ職業】川漁師
腕力 29(弱い) ↑
体力 24(弱い)
器用さ 16(貧弱) ↑
敏捷 14(貧弱)
知力 66(やや高い) ↑
精神 14(貧弱) ↑
愛情 31(やや弱い)
魅力 19(貧弱)
生命 9(不変)
運 ??(算定経験値がまだ不足:平均より上?)
スキル
【高等教育】Lv.26
【不快様相】Lv.2
【鈍器術】 Lv.11(ゾンビ狩を手伝いました)
【盾術】Lv.13
称号スキル
【空気な存在】
持ち物
E帰ってきてほしい姐さんのバール?(命名:エクスカリバール)
…攻撃+95(使用者能力不足により過小評価です)
E高級ブーツ …敏捷+1・魅力+3
E高級な服一式…魅力+6・体力+5
シスさんがアタシのそばにいるならいい服着な
と言って強制的に着させられた。
一般人の服一式…魅力+3・体力+3
スニーカー
トルテ金貨(現代物)×5
500テル…シスさんからもらったお小遣い。
1日100テル(約10万!)くれる
無くなったの
回転式拳銃 最近は安全なので家に忘れてきました
整備してない弾 ×6 拳銃に入ってます