無能な三十路ニートだけどエリートがお情けの仕事くれた
※この物語はフィクションですが実在の人物に似たような出来事があったような気もしないでもない。
―ああ、こいつは外れだな、連れて行け―
かび臭くて、じめじめした石造りの部屋から引き出された俺は、でかい城の中を引きずり回された挙句、王様にそう宣言されて、『文字通り』そのまま城の外に捨てられた。
石造りの部屋から引きずり出されて、捨てられるまで説明ゼロ。
『ようこそ』とか、『すみませんが…』とかもなし。
言われたのはただ、『こいつは外れ、連れて行け』のみ。
ブラック企業とか圧迫面接とかいうレベルじゃない。
もっと恐ろしい扱いを味わって、自失…ただただ茫然自失…!
白痴…脳みそ真っ白………!
なんじゃこりゃ、何が起こった?
日本語だったから日本だよな?
周りを見渡してみると、明らかに日本より文明レベルの劣った木と漆喰でできた建物ばかりが目だつ城下町で、石畳の地面と合わせると日本と言うよりはファンタジーの世界だ。
『なんだ、これドッキリか?』と考えつつ投げ捨てられた塀の外に座り込んでいると、近くに居た浮浪者がやってきて俺に手を貸して、立たせてくれる。
ありがとうと礼を言いつつ、そのまま立ち上がると、浮浪者は優しく俺の来ていた上着を脱がせ、それを抱えて去って行った。
( ゜д゜)ポカーン
どうやら、窃盗にあったらしい。
あまり治安は良くないようだ。
そんな様子を見ていたのか、茶色の前掛けをした女二人がひそひそ話しながら、気の毒な人を見る目で俺を見つつ通り過ぎていく。
高校から学校と家を往復するだけの日々、大学の3年から30まで引きこもりニートを続けてた俺には人と話すのもかなりのストレスだが、この意味不明状態ではそんなことも言ってられない。なけなしの勇気と匿名掲示板で鍛えた煽り耐性をフル活用して周りに話しかけることにした。とりあえず道行く中世ヨーロッパ風の婦人に『すみません…』と声を掛けてみたが、目も合わせてくれずに歩き去って行く。
ああ、すいませんキモいですよね。ごめんなさいでした。
自分の格好と言えば、三十にして禿げて薄毛の頭に上半身肌着のチノパンですもんね。
よく言われてましたよネットでも。
お前人生オワタwwwテラキモスwwwwって。
そのまましばらく待って話の分かりそうな中年のおじさんに話しかけてみるが、
『今忙しいから、すまんね』
『申し訳ないけど、余裕ないんだ』
等の反応がいいところで、大体はほぼ無視。悪いところではいきなり蹴られた。
何でこんなことになったのか。
そうあれは、俺が久しぶりに家から出たお盆から始まった。
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…おい、大宮!お前大宮じゃないか?
お盆の熱い夏の日。
久しぶりに家から出てコンビニに漫画を買いに行った俺に話しかけてきたのは
幼稚園から大学まで一緒だった幼馴染の浅野雄太だった。
『おまえ、心配してたんだぜ。同窓会にも出ないし。
大学に来なくなって電話した時には、お母さん部屋から出てこないって言うし。』
輝くような笑顔で嬉しそうに言うこいつは俺と同じ某地方有名大学を卒業後、某日本を代表する総合商社に勤め、世界を股にバリバリ活躍するビジネスマンだ。
輝くような笑顔で俺のひきこもりについて話しているが、本人はバカにしてるわけじゃない。
こいつは俺を本気で心配しているのだ。
思い起こせば、小学校や中学で俺がイジメられている時は俺がボッチにならないように修学旅行の班に入れてくれたり、引き籠ってる時は大学のノートを貸してくれるなど何とか卒業できるように手を貸してくれた。俺が引き籠ってからも毎年、唯一年賀状を送ってくるし、海外から帰ってきた時には毎回お土産をもってくる。
俺は部屋から出ないので親が受け取るけど。
要するにいい奴なのだ。社会的には。
ただ俺にとっては、自分が惨めになるからあまり関わらないで欲しいのだけれども。
俺は苦笑いし頭を下げるとコンビニ袋を持って家に帰ろうとする。
そんな様子に気づいたのか、浅野は『ちょっと、携帯番号教えろよ。ない?じゃあこんど自宅に掛けるわ』などと言って、離れた所で待つ友達の元へ戻って行った。どうやらお盆に帰省して、友達と遊んでいる途中だったらしい。すぐに離してくれたのは人見知りな俺に遠慮してくれたようだ。
さすが商社勤務。空気が読める。
そして、俺がそんなことがあったのも忘れた9月。
自宅に浅野から電話がかかってきた。
曰く、仕事する気ないか?
話を聞いて要約すると、総合商社として取引してるシンガポールの企業からコンテンツライツを購入することになって子会社でゲームの日本サーバーを運営するんだが、運営に参加しないか。給料かなり安いけど。
って話だった。
最初は怪し過ぎて、警戒した。
しかし詳しく話を聞くと、何でも彼が初めてリーダーとなって取引してるグループ企業で会社の儲けにはならないもののグループ全体の関係を維持するために恩を売っておきたい。
だから儲けよりも信頼できる知り合いがいいんだよな。それなりに頭良くて。
と内情を隠さず話してくれた。
要するに会社の同期などのライバルの息がかかってない裏切りにくい人材が欲しいらしい。
足の引っ張り合いとは大企業勤めも大変だなとは思ったが、引きこもり職歴なし三十の俺に仕事なんかできるわけないのでもちろん断った。
そしたら、相手は一枚上手だった。
俺が断るのを見越していたのか、親にこういう仕事なら紹介できるんですが…
と前もって根回ししていたのだ。さすが大手商社。優秀だ。
俺が電話で断った途端に親号泣。
あんた折角、浅野君が紹介してくれるのになんてことすんの
おまえ、それ断るなら家から出ていけ。
そう言って二人とも号泣。
そんなこと言われたらさすがの俺も断れずに働くことに。
そんなこんなで働くことになって一人で上京。
引きこもりから会社の寮暮らし。いきなり社会人一人暮らしにクラスアップした。
仕事は会社で日本サーバーのβテストプレイヤーかつ
家電量販店やネットカフェへの営業。
テストプレイヤーは同僚に元ヒキも多く問題なかったが、営業はキツかった。
理由は人と会うから。でも総合商社の子会社っていう肩書なので結果として参加してくれる取引先は多かった。
時間的にもプレイヤー:営業=3:7ぐらいの時間比率だったので、
合計一か月しかやらなかったが、元ヒキにしては何とか他人と話せるぐらいになった。
そして俺が働くようになって1か月後。ついに正式サービス開始の日が来た。
感想は『早ええ』の一言に尽きるが、欧米の正式サービス開始と合わせたかったらしい。
正式サービスでの仕事として俺にはゲーム内のサクラ的な役割が与えられた。
本来はサーバー管理とかすると思うのだが、まだ見習いレベルの人間だからしょうがない。
浅野も当日は参加するとのことで、俺の隣の席で一緒にサクラを手伝うことになった。
本人は取引先が力入れてるプロジェクトだからとか言ってたが、
実際は俺の事が心配で気を使ってくれたようだ。
忙しい中、子会社まで足運ばせて、浅野マジですまん。
そして正式サービスが開始する時刻になり、
俺や浅野のパソコンが一斉にゲームにログインすると。
ゲームのディスプレイが一斉にもやもやと霞がかった様に不鮮明になり
強烈な光と共に、俺や、浅野を含む数十人は薄汚れた石造りの部屋にいた。
そんで、俺は浅野と話す暇もなく、いきなり槍を持った兵士に首根っこを掴まれると、一番最初に王の前に連れて行かれ、そのまま捨てられた。
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あれから城門からちょっと離れた場所に移動した俺は、そのまま座り込んで様子を観察していた。
浅野も出てくるかと思ったが、俺が出てきて3時間がたつというのに誰も出てこない。
辺りは薄暗くなり、人通りが無くなり、道の隅に娼婦だろうか、派手な色彩の服を着た女性がポツポツ立ち始めた。
―ああ、こいつは外れだな、連れて行け―
王様の汚いものを見るかのような目を思い出す。
あの数十人の中で必要ないのは俺だけだったのだろうか。
もう肌寒くなった城下町の空気に凍えつつ俺は膝を抱え、
ウッウッと声を殺し切れずに泣いた。
ニートとチートって似てる
俺のステータス
???
持ち物
Eシャツ&パンツ…体力+1
Eスニーカー …敏捷+3
Eチノパン …体力+2