There's no place like home.わが家にまさる所なし。
前回のあらすじ
期待のルーキーパーティーに寄生してノルマ果たした
ちょっと頭使ったらマギーに懐かれた。
そんな感じだったと思う。
今回はエリーが早く書きたかったのでいろいろ詰め込んでしまいました。
エリー書きやすいから早く再登場してくれねえかな…
おーし、おーし。よくやったぞ糞餓鬼ども
お前らの仕事の速さは実に気に入った
キャンプに行って好きなだけファックしてていいぞ
俺たちが殺したボズを引きずって本陣に戻ると、前もってウォードたちから捕獲したボズを受け取っていた男爵が大喜びで俺達を出迎えてくれた。
3日前は整列時に『お前はどこの糞だ』とか『陰毛モヤシ』などと男爵からは呼ばれていた俺達だが、昨日ぐらいから働きが認められたのか比較的当たりが優しくなっている。
今までに『動け』と怒鳴られることはあっても、『休め』的な事を言われるのは初めてだったので、戸惑いを覚えつつも、適当に愛想笑いを浮かべて早々に立ち去った。そして俺はキャンプで俺に懐きはじめたマギー達と『いやんうふん』『駄目よー』などと言わせるようなエロ親父特有のセクハラまがいな事をしつつ、イチャイチャと話しながら休んでいたのだが、30分もすると慌ただしい足音と共に男爵の使いが俺達に伝令にやってきた。
ソルドが伝令から聞いたところによると、
捕まえたボズに情報魔術をかけて脳内を覗いたところ、集落の位置と詳しい兵数を知ることができたので、襲いに行くぞ。今から。お前らは働きが良かったから褒美に襲撃役に入れてやる。感謝するよーに。
って事らしい。
男爵は『キャンプで好きなだけファックしてていい』とか言ったのだが、もうすでにそう言ったのも忘れたようである。朝令暮改という言葉があるが、半刻もたたずに撤回されると怒る気も起きない。まあ本当にマギー達とそんな事になっていたとしても、女性経験が無い俺は5分ぐらいで達していそうなので時間の面では問題なさそうだけど。
それでも命令なので不承不承ながらも用意を整える俺。気のせいか、俺とイチャついていたマギーも少し残念そうに用意を整えていた。
それから1時間ほど経って、男爵達が出撃していた他班がすべて戻ってきたことを確認すると、俺達はボズ共の集落を襲撃に出発した。
出発前のミーティングという名の命令では、ごく単純な命令が下された。
OK.Let's begin.
まず到着次第、上級冒険者を中心とする襲撃班がボズの集落を奇襲する。
その間に貧弱ホモ共が集落内部に囚われているであろう人間を見つけ、救出しろ。
救出した人間はキャンプに戻せ。
猿は見つけ次第殺せ(これ言いながら捕えていたボズの頭を男爵が銃で撃ち抜いた)
襲撃役は集落のアイテムを取り次第自分の物にしてよい。
ホモは集落のアイテムに手を出すな。
That's all.
という非常に単純で分かり易い説明だった。
糞長い真夏の朝礼で児童を保健室送りにしている全国の校長に見習わせたいぐらいだ。
まあ、最後に『命令だ。一兵たりとも死ぬな』とか『ガキども…必ず生きて戻ってこい』などと言われるかもなと思っていたのだが、そういった俺たちの命を気遣う発言が一切なかったことが逆に清々しい。
それどころか、この3日間の間引きの際に負傷して血だらけになっている冒険者もちらほら居るのだが、男爵はそいつらの尻を叩いて気合を注入していた。怪我していようが不参加にはさせないつもりらしい。
ソウデスヨネ。シンダホウガキュウリョウハラワナクテイインデスモンネ。
結局『一束いくら』の初級冒険者が死んだところで利益は出れども誰も困らないのである。
そんな俺達、社会的にカスな冒険者集団を従え、男爵は森の奥深くへと進軍していった。
――――――――――
ボズの集落が目に見える場所まで来ると、俺たちの班は男爵に呼ばれて、彼らと共に集落に突っ込むことになった。そう言えば、呼ばれた時に褒美で襲撃班に入れてやるって言われていたんだっけ。
男爵の取り巻きである上級冒険者たちは、『嬉しいだろうお前ら』的な目で俺達を見てきたが、喜んでいるのは俺以外の4人だけ。数いる初級冒険者の中でも、明らかに能力が劣っている俺にとっては大きなお世話なんだが、とてもじゃないが言いだせる雰囲気じゃない。
もし俺が突っ込んで複数のボズ相手に立ち回りするハメになったら…
かといって救出班に戻してもらうのも危険な気がする。
はっきり言えば、俺が集落に突っ込んだら死ぬ。
間違いなく。
俺がそう考えてヘタレている間に、男爵は満面の笑顔で集落に突っ込んでいった。
彼に続けと、取り巻き達も喜び勇んでボズの集落に殺到していく。
「おっし俺達も行こうぜ」
そういって駆け出そうとしたソルド達を制し、俺は彼らに自分の考えを告げた。
「俺は怖いから入口付近にいるよ…」
そう言った俺をハッとした顔で見る彼ら。
「俺の能力値見せたろ?とてもじゃないけど、この仕事できるレベルじゃないんだよ」
そう言って自嘲気味にエリーと作ったお鍋の蓋の盾を掲げる俺。
明らかに手製とわかるその盾を見て、ソルドは自らを恥じるかのように頭を掻き、そっぽを向いてしまった。
「まあ…無理に連れて来たのは俺達だしな…」
「うん、おじさんは今まで十分にやってくれたよ」
そう言って笑顔を見せ、振り返る事無く集落に歩いて行くソルドとウォード。
『無事に帰ったら男にしてあげるねぇ』と冗談めかしていうケミー。
それを聞いて自分が言ったかのように恥ずかしそうにするマギー。
その二人も彼らを追って集落に突っ込んでいく。
残されたのは、土と木で作られた住居が点在する森の中のボズの集落。
それを取り囲む木の柵が途切れている一角で立ち尽くす俺に、冬の冷たい風が吹き抜けて行った。
―――――――――――――――――
皆が集落に突っ込んで10分ほどしただろうか。
集落の中からは、泣き叫ぶようなボズの叫び声が聞こえてくる。
未だに鳴り止まない剣戟の音。
そして焦げ臭い、物が燃える匂い。
そして数秒遅れて、集落を見ている俺の目に、燃えていく枯れ木や藁や落ち葉で作られた家が映った。
「狩りと言うよりはまるで戦争だな…」
と一人呟く。
ボズにも子供がいたり、妻がいたりするんだろうか。
そう、焼ける家を眺めながら考える。
あの家の中で寝起きして、料理して、笑い合っていたんだろうか?
そう思った瞬間にエリーやルネ姐さん、そして女神の顔が脳裏に浮かんでは消えた。
エリーは怒ってるだろうか?
別れ際にひどく傷つけてしまって泣きながら帰ったんだろうか。
それに、そろそろスジ夫のメンテナンスしなきゃいけない時期だけど大丈夫かな…
女神は俺がいなくなって探してるんだろうな。
怒ると口きいてくれないんだよな…
それにまたあのイケメンに捜索を頼んでしまってたりするんじゃないか?
ルネ姐さんは…よくわからんな…
興味なさそうに『なんだァ生きてたのかい』って一瞥されて終わりそうだww
「……家に帰りたいよエリー…」
焼けて一軒、また一軒と崩れていくボズの家が俺達の家に思えてきて。
燃えて崩れていく集落を見ながら『ぽつり』そう呟いた。
―――――――――――――
俺がホームシックに罹っていると、集落左手の崖に面した辺りから、初級冒険者とボロボロの男女が入り混じって出てきて、そのまま右往左往と集落を走っているのが見えた。
どうやら、救出班がとらえられていた人間を助け出してきたらしい。
慌てて両腕を振り、逃げ道を確保している事を知らせると、みんな一斉にこちらに向かって走ってくる。
後ろを窺いながら走る冒険者の焦った顔。
助け出された喜びからか、泣きながら笑って走るボロボロの男の顔。
そんな男を支えながら走る女。
俺の横を様々な顔をした人たちが走り抜けていく。
生きるために此処から動こうとしなかった俺の横を、生きるために走り抜けていく。
――その瞬間。俺は『人は生きるために生きてるんだ』と意味不明な事を思った。
そうして、俺の横を30人ほどの人々が通り過ぎただろうか。
全員がこの集落を出るまであと数組を残すのみとなった時に、燃え盛る集落の奥から成人男性ほどの大きなボズが飛び出してきた。
ボズは手負いのようで腹から内臓が飛び出すほどの深手を負っているようだが、それを感じさせないほどの俊敏な動きで最後尾にいた男女と護衛の槍使いに追いすがる。
そのスピードは普通のボズとは明らかに一線を画しており、まるで陸上選手のようなスピードで彼らに迫ってきている。
さらにはボズの目も口も黄色でなく真っ赤に染まっており、特に目は真っ赤なサクランボのように血走っている。
このままでは逃げ切れないと悟った槍使いが大きなボズに立ち向かい、槍を内臓が飛び出ている腹に突き刺したが、ボズは意に介することなく右腕を真横に伸ばすと、尖った石のナイフのような指で槍使いを撫でるかのように『引っ掻い』た。
石のナイフのような指の『引っ掻き』を食らった槍使いの革鎧は一撃で『ぱさっ』っと軽い音と共にその装甲を破られ、桜の花びらが散るかのように前半分を空中に四散させた。そして中身の槍使いは胸から血を吹き出しながら倒れた所をボズに掴まり、『いひひひひひひぃ』と笑顔で叫ぶボズにそのまま四肢を『ぶちりぶちり』と引きちぎられてしまった。
ヤバい…
あいつはどうも他のボズとは違う…
今までも直接戦った訳ではないが、ソルド達が戦うのを見ている限り、普通のボズは一体だけなら俺でもなんとかなりそうな強さではあった。
しかし、あいつは違う。
手負いだというのに、あの動き。
成人男性ほどの背丈に、それと同じ長さの両腕。
黒曜石のように黒く硬化して変色し、革鎧を削り取れる硬度を持つあの指。
熟したサクランボのように血にまみれたレッドアイ
そして、痛みを感じてないかのようなボズ特有の反応…
俺にあれを止めるなんて不可能だ。
俺がそう思って助けに行くのを躊躇している間に、ボズは逃げる男女に追いつく。
俺の前でレッドアイから女を守るべく、レッドアイにしがみついた男。
時間稼ぎさえできずに、ほんの数秒で頭と手足を引きちぎられてしまった。
男がバラバラにされたのを見て、腰を抜かしてその場に座り込む女。
レッドアイはそんな女を見て興味を無くし、腹から内臓を垂れ流しながら、無表情で、千切った男の頭と四肢をお手玉をするかのように空高く投げては掴む遊びにふけっている。
その様子を見て這いつくばる様に女が此方に逃げてくると、ようやく男の体で遊ぶのに飽きたのか、真っ赤な三日月口の笑い顔に戻り、女を襲うべく向かってきた。
女にレッドアイが迫った時、俺は考えるよりも先に女の前に飛び出していた。
しかし迷いで一歩遅れた俺が女に近づいた時、レッドアイは女を引き裂くべく、右手を真横に伸ばして撫でるようにフルスイングをしようとする所だった。
慌てて、女を後ろに回してお鍋の蓋に隠れるようにフルスイングを防御する俺。
『ぶおん』と音をたてて飛んできたボズの腕が当たり、『ガキャキャ』っと拳が盾を流れていった。
ヘタレが幸いしたのか盾を斜めに構えていたおかげで、フルスイングの威力が削がれ、俺の上側に力を受け流せたらしい。
と、安心したのもつかの間。
「うははうばはははうはははばあ」
という笑い声と共に、レッドアイは一度過ぎ去った右腕をバラ手でバックブローのように振りぬいてきた。
ガキャッ
テンパりながらも必死で構えた盾で何とかバックブローを弾く俺。
偶然とはいえ、レッドアイの『引っ掻き』を2回連続で受け流したのだ。
そのまま、女が立ち上がり、走り出すのを確認してレッドアイから距離を取ると、頭の中に場違いなファンファーレが鳴り響き、テレビの緊急速報のような抑揚のない声のナレーションが流れる。
―スキル【盾術】を獲得しました。詳細はスキル詳細確認にて…―
「うるせえええええ!今クソ忙しいんだ!後にしてくれ!!!!」
そう言いながら、レッドアイのハンマーナックル上段撃ち下ろしを斜めに構えた盾で受け流す俺。
受け流した盾に張った木がレッドアイの指に削られ、お鍋の蓋から木屑が飛び散る。
なんかスキルが入ったらしいが、俺は今それどころじゃない。
レッドアイ、マジやべえ。全然気が緩められねえ。
わずかな瞬きの間に、攻撃モーションに入ってやがる。
ちょ・・・はええええって!!
「いひっうひゃひゃはやはああうひひひ」
「ひやぁっ!ぬうぉっ!うわぉっ!!!」
キチ○イのような叫び声を上げてスイングを続けるレッドアイ。
テンパって奇声を上げながらそれをガードし続ける俺。
頭の中ではさっき一度止んだはずの謎のファンファーレが攻撃をガードする度に、何度も何度も鳴り続けている。
叫ぶサルと俺。もはやどっちがどっちの叫び声を上げているのかもわからん。
それでも必死な俺に比べて、レッドアイは余裕しゃくしゃくな表情。
左手で顔を掻きながら右腕を振り回したりなど、憎らしいことこの上ない。
腹から内臓はみ出してるくせに、俺を遊び半分で圧倒してんのかよ。
そのままレッドアイの両腕振り回しをお鍋の蓋で捌いていた俺。
しかし、お鍋の蓋に張った木はレッドアイの硬い指でズタズタに引き裂かれており、辺りには木屑が散乱している。このままでは鍋の蓋ごと貫かれそうなので、さっき引きちぎられた男のそばに落ちていた木の盾(削り出しの一枚もの。おそらく槍使いが渡したんだろう)をレッドアイの隙を見て拾い上げ、お鍋の蓋と持ち替えて使う。
こうなれば持久戦だ。
あいつが遊び半分の内に時間稼ぎして、腹の傷からの出血大量で死んでもらおう。
…つうかその前にあいつが弱ってきたら逃げよう。
レッドアイの左の一撃。右の一撃。
両腕を交差させるスイング。
そのすべてを拾った木の盾で『がいんごいん』と弾く俺。
死にそう。
手ぇ痛い。
もうダメ。
あっ・・・これ多分、後2・3発で死ぬわ。
そう思った俺の目に、レッドアイの後ろから走ってくる男爵の姿が映った。
男爵に気付かずに右腕を振りかぶるレッドアイ。
俺にかまわず、持っていたアサルトライフル(マジに見た目が突撃銃!)を構える男爵。
『タタンッ』っという小気味いい音と共に、放たれる弾丸。
そしてはじけ飛ぶ、振りかぶったレッドアイの右こぶし。
レッドアイは何が起きたかわからないとでも言うかのように、はじけ飛んだ手を見て、きょとんと動きを止める。
このチャンスを逃すまいと、俺は腰に下げていたエクスカリバールを引き抜くと、折れ曲がっていない持ち手側の方のとがった部分を前にして、その先端を狙い澄まし、レッドアイの右目に起死回生のカウンターを叩き込んだ。
『グオオオオ!!!』
俺の全力攻撃を食らいレッドアイは目を抑えながらその場に倒れた。
おお、初めて笑い声以外のボズの鳴き声聞いたわ。
そして落ち着いて倒れたレッドアイの様子を見る俺。
目には当たったようだが、顔を抑えてジタバタしている所からすると、致命傷にはなっていないようだ。
これは倒れている内にとどめを刺さねばなるまい。
『よくもさっきは俺を舐め放題にやってくれたな』という怒りと共に、バールのようなモノでレッドアイをフルボッコにしてやったが、エクスカリバールは奴の毛皮に『バインバイン』弾かれる。毛皮が厚すぎて打撃があんまり効かんらしい…腹や胸はグロめの刀傷だらけで殴るのはなんだか気持ち悪い。よって顔を殴ろうかと思ったのだが、倒れた時から両腕で守っており、うまく殴れん。
そんなこんなで『どたばた』やっていると、近づいてきた男爵が腰に差していたサーベルを抜き放ち、一閃。
レッドアイの腕ごと首を跳ね飛ばした。
――――――――――――
死んだ奴はその場に埋めておけ。
さっさと荷物を馬車詰んで帰るぞ。
そう言う男爵に従い、俺達はキャンプのテントを畳むと、それぞれ思い思いに荷物を馬車に詰め込み始めた。
此処に来た時はほんの30分ほどで荷解きを終え、テントを張れたのだが、今回は人手が減ったこともあって、1時間以上も片づけに時間を取られた。
「あっちのテントは1人しか残ってないからここの何人かが手伝ってあげて」
上級冒険者の女性からそう言われて、ソルドとケミーは全く片付けの進んでいないテントに向かって歩いて行った。
結局、ボズの集落の襲撃で約6割…30人の新人が死んだらしい。
ボズの村に囚われていた男女は男14人女9人の23人だったことからすると、人間からしても割の合わない戦いだったような気がするが、テントの片づけを手伝う彼らの嬉しそうな表情を見ると、何とも言えない気分になる。
テントを片づけ終わった俺達は、死んだ30人分の穴を掘り、その場に彼らを埋めると、そのまま馬車に乗り込んで、家路につく事になった。
俺が馬車に乗り込んだとき、ここにカップルで来た冒険者の内、女性だけがまだ遺体を埋めた場所から離れていないのが見えた。
それから、しばらく彼女が乗るのを待って、馬車は出発しなかった。
結局、20分ほど経ってから、彼女は他の冒険者に抱きかかえられる様に他の馬車に乗り込んでいった。
―――――――――――――――――――
帰りの馬車の中で、俺はソルド達とキャンプで貰った報償袋の見せ合いっこをした。
ボズの集落を焼き払ってキャンプに戻ると、すでに個人別に報酬が用意されており、片付けと埋葬が済み次第、個別に渡されたのだ。
その時、一般の初級冒険者はリアルで給料袋のような感じだったのだが、ソルド達は小さなナップザック程度の大きさで、明らかに何か別の物が入っている感じであったし、俺の報償袋はなぜだかボストンバック程の大きさで異常に目立っていた。
貰った時から何が入ってるのかその場にいた全員が興味津々だったが、遺体に寄り添う女冒険者の事もあり、その場で開けるのは憚られたのである。
そして、馬車が街道にたどり着き、揺れが収まるのを待って報償袋のお披露目が始まった。
ソルド達の給料は一人5トルテ。
それと、各種宝石と鉱石類。
それにボズの集落でいくつかの魔道具を手に入れたらしい。
魔道具がなんなのかわからずに聞いたところ、生命エネルギーを使って魔法のような事が出来る魔獣素材から作られたツールらしい。
詳しく聞いてもなんだかよくわからんので、わかったふりして誤魔化しておいた。
こういうのは帰ったら姐さんに聞けばいいのだ。
まあ、本人たちは上機嫌だったので、収入としてはまずまずだったんだろう。
ちなみに俺の報償袋を開くと、まず、4つのトルテ金貨が出てきた。
たしか基本報酬は2トルテ(2百万)だったと思うのだが、ソルド達に寄生してたおかげで良く働いたと思われたらしい。真面目にやってたやつらは死んでたりする事を思うと、なんか申し訳ない。
それと、なんだか俺の報償袋だけ他と比べて異様にデカいと思っていたのだが、金貨の他にレッドアイの毛皮が半分入っていた。
俺の他にも毛皮を貰った冒険者が同じ馬車に居たのだが、そいつの1枚物の毛皮と比べてもこっちの方が明らかにデカイ。
それに皮の厚さも3倍はある。
「これ、雄の毛皮ですぅ。なめし皮にすると高級品ですよぅ」
とケミーが説明してくれた。
何でもボズのオスは群れに1・2頭しかいないそうで、その強さも相まってレアな魔物なんだとか。
このオスはメスと違い強靭な身体能力のみならず、生命力も並はずれており、腰から下の下半身を無くしても3日生きていたことがあるらしい。
それに頭も狡猾で、少しでも相対する者が自分より強い者だとすぐに逃げてしまう為、集落を完全に落としても、オスを仕留める事が出来るのは半々の確率なんだってよ。
なんだかメタルキングみたいなやつだな…
よくそんなのに勝ったな俺…
まあ実際は守っていただけで、ヤッたのは男爵だけどよ。
この毛皮半分は足止めの報酬って事かな。
そう言えば、あいつとやり合ってる時に謎のファンファーレが聞こえた事を思い出して、スキルを見ると、【盾術】という見たことないスキルが付いていた上、そのレベルも13になっていた。一発しかバールがクリーンヒットしていない鈍器術もレベルが2つ上昇しているし。
…どうやらマジでメタルキングみたいな魔物だったらしい。
―――――――――――――――――――――
そのまま馬車は走り続け、夕暮れ時になってようやく俺たちの町が見えるところまできた。
懐かしくって、早く家に帰りたくって、年甲斐もなく、我慢できずにウォードと御者台まで移動して町の様子を見に行ってしまった。
5日ぶりに見る町はなんだかいつもと違って見える。
夕暮れ時のせいか、街道を歩いている人はいないからだろうか?
よく見ると城壁の上にいつも居る見張りの兵士もいないし、もうすぐ夜だというのに、明かりも灯っていない。
それになんだか、夕暮れ以上に薄暗い。
あれ?
あの町っていっつもこんなんだっけ?
そう思っていると、町にかなり近づいた所で、ウォードが『あれ、煙じゃない?』と呟いた。
それを聞いた周りの冒険者も御者台に顔を出し、『ホントだ、煙だ』などと騒いでいる。
火事でも起きてんのかな、それで見張りとか降りてるのかもしれん。
そう俺達は結論付け、町の開きっぱなしの西門から中に入っていった。
町の中はもう日が沈みかけているというのに薄暗かった。
唯一、大通りの街灯は点いているものの、周りの建物は明かりの一つさえ点いていない。
衛兵さえいない無人の門をそのままガラガラと進んでいく数台の馬車。
そのまま大通りに出ると、数十人の人が大通りを徘徊しているのが見えた。
「すみませーん、申し訳ない。どいていただけませんか」
そう声を掛けながら進もうとする先頭の馬車。
しかし、大通りの集団は馬車を避けようともせず、馬車を操る御者の方にフラフラと近寄っていく。
「ちょっとあんたら危ないだろう…おい・・ちょっと何を!!」
と叫び声が聞こえてくる。
「あー、なんか揉めてるみたいだから俺は歩きで行くわ」
前方の馬車の争うような声を聞いて、揉め事が起きた事を理解して、次々と降りていく冒険者達。
「俺達もそうするか。じゃあ、おっさん、また一緒に仕事やろうな!」
「おじ様ーまたねー!」
そう言いながらソルド達も降りて行ってしまったので、俺も荷物を持って家まで歩いて帰ることにした。
―――――――――――
馬車から降りると、先頭の馬車に何人もの人が纏わりついて騒いでいるのが見えた。
その中には乞食のような恰好をしているものもいれば、この地方の一般的な主婦の格好をしている者もいる。
そしてその全員が慌てる馬車の人々に縋り付いているようだ。
…ハロウィーン的な行事かな。
お菓子をくれー。さもないとイタズラするぞーってか?
こっちの文化とかなんも知らんから良くわからんけど。
とりあえず、女神たちが待ってるだろうから家に帰ろうと思い、集団に襲われて揺れる馬車を放置してそのまま東門の方まで大通りを突っ切ることにした。
姐さんの家に向かう途中、大通りのそこかしこでは、顔色の悪い人たちがフラフラと歩きまわっていた。
彼らは俺を見ると、『わー』とか『いー』とか言いながらフラフラと近寄ってきたが、ハロウィーン的なお菓子も何もないので申し訳ないけど『すんませーん』と言って、早足で立ち去ることにした。
そんなこんなで城門の前、大通りがT字路に交差している場所、つまり昔俺が捨てられたところまでやって来たんだが。
そこで俺は初めてこの町に異質なことが起きている事に気付いた。
俺にとって懐かしくもあり、悔しさの象徴であった城の城門。
夜には完全に閉じられ、小犬一匹も通さないであろうあの先が尖った鉄格子でできた城門が、無残にもひしゃげて力ずくでこじ開けられていた。
なんじゃこれ…と城門を前に呆然とする俺。
すっかり歩みを止めてこじ開けられた城門に釘付け状態。
そんな俺に近づいてくる浮浪者。
よく格好を見ると、第1話で俺の上着を盗んでいったあいつだ。
何か用か?
いや、むしろ何があったか聞いてみようかと思い、彼に話しかけたが反応なし…
ズリズリと足を引きずり、俺に近寄ってくる。
なんだよ…またなんか盗むつもりかよ…
そう思って浮浪者の顔を良く見ると
右目がなかった。
いや、正しく言うと、右目もなかった。
なぜなら、浮浪者の顔は鼻は削ぎ落したようになくなっており、唇はおろか頬までの肉が消失して、むき出しの歯と歯茎を見せつけながら、俺を白濁した左目だけで見ていた。
浮浪者の格好にビビり、後ずさる俺。
ふと気づくと、近くに第5話で俺をノックダウンしたゴツ男が居たので助けを求めようと近づくと。
ゴツ男は上半身の服をはだけており、そのはだけた腹には野生動物に食われたかのような大穴を開けていた…
『ごめんなさい、人違いでした』とだけ声を掛けると、ゴツ男との会話を諦め、俺は猛ダッシュで大通りを東に抜けていく。
途中、何人もの顔見知りを見かけたが、例外なく体のどこかをひどく損傷しており、生きているとは考えづらい状態だった。
なんじゃこれ?
なんじゃこれ?
と俺は完全に混乱しながら東門に向かって駆けていく。
その俺の耳に、『キャハハ』と可愛らしい笑い声が聞こえた。
俺が声のした方を見ると、東門から少し南側の城壁の上に、白い服に白髪のツインテールをした小柄な女が立っているのが見えた。
チラリと見えた女の顔は、ちょっとだけルネ姐さんに似ていた…
⇒To Be Continued…
~魔物紹介~
ボズ オーマ命名:白頭 or レッドアイ(オス)
トルテポルタ地方から神王都にかけての大陸北西に広く分布する猿型の魔物。平坦で隆起がない鼻で毛のない白い頭部と自分の体長と同程度の両腕が特徴。一般に毛皮は白いが、地方によってはやや銀色を帯びていたり、茶色がかっている個体も存在する。
基本的に肉食でその主食は小型の魔物であるが、乾季、冬季には人を襲って食べる場合もある。
群れで生活するがほぼすべてがメスであり、オスは群れに1~2体存在するのみ。群れの中のオスがすべて死亡すると、雌の中で最も大きい個体が2週間ほどでオスに変化する事が最近の研究で確認された。オスは赤い目と口をしており、メスより強靭な身体能力と生命力を持っている上に、メスと違い人とコミュニケーションが取れる程の知性も有するようになる。対してメスの知性は甚だ低く、その行動はオスや奴隷の人間の動きを真似る事はあれども、その動きの意味を理解できていない。ゆえにボズが人を捕えて奴隷として使役する場合はその命令はオスによってなされる。
また、人との間で性的関係を結ぶ場合があるが、そのほとんどが人間の男を対象とする場合が多く、女を対象とするケースは群れの性質上非常に低い事が分かっている。
俺のステータス
【基本職】ニート 【サブ職業】川漁師
腕力 28(弱い)
体力 24(弱い)
器用さ 15(貧弱) ↑↑
敏捷 14(貧弱) ↑
知力 65(やや高い)
精神 11(貧弱) ↑★ランクが上がりました
愛情 31(やや弱い)
魅力 18(貧弱)
生命 9(不変)
運 ??(算定のための経験が不足しています)
スキル
【高等教育】Lv.26
【不快様相】Lv.2 (マギー達へセクハラしてたら上がったらしい…)
【鈍器術】 Lv.10
【盾術】Lv.13
盾術…盾の扱いが上手くなります。敵の攻撃を弾きやすくなります。
持ち物
Eたぶんバールのようなもの(命名:エクスカリバール)
…攻撃+95(使用者能力不足により過小評価です)
E歪んだ鍋の蓋…防御+2 (強化部分全壊・基礎部分半壊)
Eスニーカー …敏捷+3
E一般人の服一式…魅力+3・体力+3
携帯水入れ
レッドアイの毛皮(中) …素材にも換金アイテムにもなります。レア物です
トルテ金貨(現代物)×4…現代物のトルテ金貨です。価値は通常です
報酬袋のボストンバック?…デカくて丈夫です
捨てたもの
木の盾…防御+40 拾ってすぐレッドアイにほぼ壊されました