カニ殺しに行ったら伝説の武器引き抜いた
前回のあらすじ。
追い詰められた俺。
カニもどきに圧し掛かられて、今にも殺されそう。
助かるにはどうやったらいいんだろう。作者も悩んだ。
悩んで5通りの結末考えて、どれにしようか迷った。
A:女神や姐さんが助けに来て、なんやかんやで助かる。(女のヒモでいいよ派)
B:カッコいい俺が覚醒。先生を圧倒して倒す。(チート最強派)
C:助からない。現実は非情である(主人公交代派)
D:死ぬが、エリーの屍役術で復活(とことん不幸になれ派)
E:伝説の勇者っぽいのがが助けに入ったよ(テンプレ派)
…いろいろ書き直して結局は…
音にビビった俺がゆっくりと目を開け、爆発するかのような音がした方向を見ると、川を挟んだ対岸に砂煙が舞っていた。
俺の目の前には、先生が足をピンと伸ばしたまま、体を傾けており、鋏を振り降ろそうとしたままぴくぴくしている。その姿に再度ビビる俺。
うおっ。まだ振り降ろして降ろしてないのか。やるなら早くしてくれ。
……まだ……?
え…何時まで溜めてんの?
しばらくビビる様に両手を目の前にかざしてビクッビクッと怯えていたのだが、先生は何時までも振り降ろそうとしない。どうも体が傾いているし、鋏を振り降ろせないっポイ。なんで?
疑問に思いつつもゆっくりと立ち上がる俺。頭には意味不明な状況に無数のクエスチョンマーク。それを無視するかのように、先生は絶賛停止中。口から泡をブクブクと吹いているだけでビデオの停止スイッチを押したように動こうとしない。『ん~なんで助かったのかな』と思いながら先生の横に回ると、倒れていた俺からは死角にあたる先生の後ろ半分が吹き飛んでた。切られてたとか叩き割られていたとかじゃなくて、後ろ半分が綺麗に吹っ飛んで無くなってた。
見ている俺の前で足に力が入らなくなったのか、その場にカシャンと地面に崩れ落ちる先生。
それでも先生は一応まだ生きているようで、鋏やまだついている少しばかりの足を使って、川の深い所にズルズルと這いずる様に逃げ去って行った。
俺の気分は( ゜д゜)ポカーン
『唖然』とか『驚き』じゃなくて
マジ( ゜д゜)ポカーン。
そうやってぽかんしてその姿を見ている間に、先生Aの方も逃げ去っていた。元居た場所には血だらけの上着と先生Aの足が3本落ちている。辺りは静寂。エリーのすすり泣く声だけが響いている。とりあえず俺は落ちていた先生の足三本を拾うとそのまま橋の上に移動。
俺の無事な姿を見たエリーが涙でグチョグチョの顔をしたまま、抱き付いてくる。
まだ涙目のエリーを慰めつつ、周りを見てみると、さっきの若い連中や中国っぽい民族服を着た男などの冒険者たちが東門に入っていくのが見えた。
彼らが助けてくれたんだろうか?
しばらく待って、エリーが落ち着いたのを見計らい、砂煙の上がっていた対岸の川岸に行く。さっき死にかけたばっかりなのだから、正直川に近づきたくない。だがそれよりも好奇心が勝った。
対岸の草むらの中に行ってみると、そこらじゅうに先生の砕けた甲羅と肉片がバラバラになって散らばっている。その散乱する肉片の真ん中あたりの位置に、先生の肉片がこびり付いた鉄の棒の頭部分が埋まっているのを発見。周囲に石の破片が大量に飛び散っている事からすると、この鉄の棒が岩に当たり砕いた後、なお地面に刺さったらしい。
なんじゃこれ。全体の8割がた埋まってるぞ。と棒をぐりぐりと回すように力を入れながらエリーと二人で掘ってたらずるっと抜けた。
俺が抜いたのは長さ1mほどの普通のバールっぽいもの。棒の先っちょも二股に分かれており、釘を挟んで引き抜いたりできる様に頭の部分は少し湾曲している。他にはなんか文字がいろいろ彫り込まれているが普通のバールっぽい。それなりに重いがギリギリ俺が持てないほどでもない。
どうやら、これが高速で飛んできて、先生の後ろ半分を吹き飛ばした挙句、対岸まで飛んで岩を割り地面に埋まったらしい。俺の石では先生に傷一つつけられなかったのに、どこから飛んできたか知らないが、常識じゃ考えられないほどすげえ威力だ。
これは何か名のある武器かもしれん。けど文字読めねえ。見た感じ三角形の頂点から下に棒を降ろしたような企業のロゴマークっぽい物を中心に左右逆向きに同じ文字が掘られている。
「これはたぶんすごい武器だぞ。見た目はバールのようなものだけど。」
「バールのようなものじゃなくて、バールだと思うよ」
俺の出した結論にケチをつけるエリー。
「いやーそれはないな。ただのバールが岩を砕くほどのスピードで飛ぶことないぞ。少なくとも、伝説クラスのバールのようなものだな。現に刺さった岩から引き抜いたし」
「お兄ちゃんが引き抜いたのはエクスカリバーとは別物だと思うよ…」
「うーん…書いてある文字が読めればいいんだが…」
そう言えば、ギルドなんかに貼ってある掲示板は読めるのに、この文字読めねえな。というか、なんでエリーも俺も文字読めて話も通じてるんだと思ってエリーに聞くと、再構築の際に共通語をインストールされているらしい。
「じゃあ、この文字は共通語じゃないんだな。多分、神の文字だ」
「神様の文字なの?」
「ああ、間違いない。これはもう間違いなく伝説の武器。岩から引き抜いたし。」
「そうなんだ…バールなのにエクスカリバーと同じなんだ…」
俺の説明に納得したエリーを尻目に、俺がバールのようなものを振るうと伝説の武器はその重さにもかかわらず、ビュンビュンとスイングされる。どうやらこの伝説の武器には【鈍器術】が適用されるらしい。
ちょっと試したくなった俺があたりを探ると、ちょうどバラバラになった先生の破片の内、甲羅の大きい堅い部分が落ちていたので試し振りする。俺に振られた伝説の武器は抵抗もなく甲羅を貫通。2回ほどぶん殴ると、先生の破片は粉々に砕け散った。
「すごい!本当に伝説かも…」
「これは来てしまうな…俺のチート伝説が…」
思わぬ収穫に喜ぶ俺とエリーは、先生の足三本とすっかり乾燥したトカゲの死骸を持って家に帰ることにした。出かけた時は早朝だったのだが、今はもう昼をだいぶ過ぎてる。多分2時ぐらいだ。
足を負傷した俺が、足を引きずる様にゆっくりと家に帰ると、そこでは白いフリル付ワンピースに身を包んだアニャーナが心配そうに待ってた。怪我をした俺を見て慌てて家の中に入り、すぐに救急箱を取ってくると手当をし始める女神。
「ずっと待っててくれたんですか?」
「……」
「怒ってます?」
「怒ってます。ただでさえ危ないのに、エリーまで連れて行ったんですよ!」
「で、でも、一応収穫はあったんですよ!」
そう言ってトカゲの死骸と先生の足3本を見せるが、女神は俺を褒めることなく、夕方まで口をきいてはくれなかった。
――夜、不用意な行動とエリーを連れて行った事でショボンとしている俺の前では、女神が携帯ミラーを立てて化粧をしていた。いつもなら手早く終わらせるのに、なんだか手際が悪く、わざと手間取っているように見える。
まだ俺に怒ってるのかと思って謝る俺。
『いや、そうじゃなくてね。』と無理やり笑いながら説明する女神によると。俺が出かけて行ったあとで、エリーが居ない事に気づき、女神の顧客である冒険者に捜索をお願いしてしまったため、今日はその冒険者のお相手をしなければいけないらしい。
「強いしいい人だとは思うんだけどね…」と呟く女神はちょっと嫌そう。
いつもと違うフォーマルなドレスを身に纏い、『ハア…』とため息をつくと、『2日ぐらいは帰れないかも…彼、色々強いから…』と言って困ったように笑う。
玄関では、件のお客が来ているらしく、エリーと話している声が聞こえる。
ちらっと見てみたが、黒髪に凛々しいイケメンで俺とは大違い。気のせいか遊んでもらっているエリーも俺と居るより楽しそうに見える。
正直、女神やエリーには性欲を感じない俺だが、それでも一緒に暮らしてる女を手玉に取られたようで面白くない。特にイケメンなところが面白くない。
このスケコマシが、と開いている扉から睨みつけてやると、こちらに気付いたイケメンがキラリと白い歯を見せて笑いかけてきて、なおイラついた。
「こーら、睨まないでね」
化粧を終えたアニャーナが俺の前を通り過ぎ、彼と連れ立って家を出ていく。
お気に入りのお兄さんに遊んでもらえなくなったエリーは、そのまま下ごしらえの途中だった料理の様子を見にキッチンに行ってしまった。
女ってやっぱり男を顔で判断するよな。
ルネ姐さんもそうなんだろうか。
男勝りで勝気な姐さんもイイ男に骨抜きになるのか見てみたい気がしたが、姐さんは今日の分の報告書の仕事が終わってないとかで、俺が帰ってきてから姿を見ていない。
珍しい事もあるものだ。いつも昼過ぎには終えて暇そうにどっか行ってるのに。
そう言えば、女神は心配のあまりイケメンに身をささげるほどだったのに、姐さんには心配されてなかったのな。死んで来いって言われたし。見た目より優しいと思ってたんだがな。けっこう気に入られてると思ってたから、ちょっとショックだ。
そうこうしている間に、夕飯が出来上がった。
俺が取ってきたタンバの足は3本しかなかったため、エリーは茹でた足の身をほぐしてご飯に混ぜたカニ雑炊にしたらしい。姐さんの分を2階に持って行ったエリーを待たず、ガマンできずに先に食ってみたが、塩味が効いていてむっちゃ美味い。ズルズルとあっという間に食い終ってしまった。
それにしても、今日は最悪だったわ。
足怪我するし。
チノパンぼろぼろになるし。
それに何より死にかけたし。
やっぱり一人じゃできる事って限界あるよな。
エリーが手伝うったって、危ないことさせられんしなー。
「こりゃ、仲間を得るべく動いてみるかな。」
俺は、今日会った冒険者の集団を思い出し、そう一人ごちたのである。
~魔物紹介~
タンバ オーマ命名:カニもどき先生
トルテポルタ地方に分布する甲殻類の魔物。4つの鋏と非常に多い脚が特徴。好戦的で知力が高く、集団で人間を襲うことが多いため危険魔物指定されている。しかし、食肉としての価値が非常に高く、高級食材としての主要特産品となっているため、欲に目がくらんだ初級冒険者が犠牲になるケースが多発する問題があった。ごく稀に川から離れた陸上を歩いて移動している事もあり、その場合は大抵が卵を抱えた雌。この個体を捕獲し、養殖する技術が開発されたため、現在では価格も落ち着き、無茶をする冒険者は減少している。
主な用途は食肉。殻は堅いが、熱が通るともろく変質するため素材には適さない。ごく稀に体内に魔力のこもった真珠がある場合がある程度。
格上相手と戦闘の結果色々とステータスが上昇しました。
鈍器術のスキルが上昇しました。
俺のステータス
【基本職】ニート 【サブ職業】変質者(痴漢)
特記:軽傷(敏捷↓・体力↓)
腕力 25(弱い) ↑
体力 21(弱い) ↑
器用さ 10(貧弱)
敏捷 10(貧弱)
知力 64(やや高い)
精神 9(虚弱) ↑
愛情 30(やや弱い)
魅力 18(貧弱)
生命 9(不変)
運 ??(算定のための経験が不足しています)
スキル
【高等教育】Lv.26
【不快様相】Lv.1
【鈍器術】 Lv.3
持ち物
Eスニーカー …敏捷+3
E革ジャン …防御+5
Eボクサーパンツ…腕力+1
E革ベルト …魅力+1
伝説のバールのような物(命名:エクスカリバール)
ジーンズ …防御+3
アントンの干物×5
破棄したもの
戸棚の扉 …半壊してなくなりました
拾った石(中) …投げて見つかりません
敗れたチノパン …処分しました
血まみれの上着 …処分しました