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ちょっとエロトカゲ殺しにいってくるわ

 さて、東門を出て川を目指し歩く俺。目指す敵は大型犬並みの大きさの甲殻類である。

 金に目がくらんだ勢いで出てきてしまったが、さすがに出掛けの姐さんの一言『死んで来い』で先生の危険性を思い出したので、作戦を立てる事にする。以前来た時の事を思い出してみると、先生は浅瀬を中心に、半円状を描いて布陣を引いていた。それに先生は緑っぽい甲羅をしているため、緑色になっている深い場所に隠れると、川岸からは光の反射の加減で先生の姿はステルス状態になっている。もし俺が不用意に近づいたら、いきなり先生に足を掴まれてその場にくぎ付け。その隙に他の先生方が殺到してズタズタにされるだろう。



 この前の時には、あまりに空腹で力が出なく、沢蟹を無視して先に洗濯をしたことで偶然助かったのである。血だらけの布が俺の代わりに犠牲になったのだ。身代わり地蔵のようにズタズタにされたのだ。



 このまま向かったらまず死ぬな。間違いなく。



 そう思いくるりと踵を返して東門に戻る俺。目指すはルネ姐さんの家で過ごすうちに見つけたゴミ捨て場である。


 東門付近のゴミ捨て場は姐さんの家から南にちょっと行ったところにある城壁の下で、そこには野菜の皮などの生ごみ、布や割れた鍋の蓋などの資源ごみ、でかい廃材の粗大ごみの3種に分かれてごみが捨てられている。俺はゴミ捨て場にたどり着くと、生ごみ置き場を華麗にスルー。目指すは資源ごみと粗大ごみである。浮浪者時代なら生ごみに涙を流して喜んだのだろうが、今は武器を探しているのだ。


 目当ての資源ごみ置き場に着くと、俺はがさごそとゴミを漁り始めた。うまくいけばフライパンなどがあるかもしれないと思ったのだが、残念なことにそんないい物はなかった。見つけたのは薄汚れてひどい匂い(ゲロか?)のする上着だけである。上着を引っ張ったら丈夫だったので確保しておく。


 気を取り直して、廃材置き場に移動する。

 こちらはさらに碌なものがなかった。あったのは半分ほどが焼け焦げた戸棚や口が欠けた花瓶などで、武器になれそうなものはない。戸棚はつまみ部分があり、パカパカ開くタイプだったので、無事な方の扉を外せば30cm×50cmほどの盾になりそう。とりあえず外して装備してみる。


 …結論としては、つまみ部分が端っこなのでバランスが悪く、トンファーの棒の部分が板になった感じだ。しかも持つところを逆手に握ると小指から中指ぐらいの長さしかないので非常に使いづらい。でもないよりマシなレベルだな。だから確保で。


 あとは武器だ。本来だったら市場のそばの武器屋にある棘付のメイスのような立派な武器が欲しいのだが、そんな贅沢は言ってられない。あいつら普通に100テル(10万)以上する。市場の雑貨屋に置いてあった木刀でさえ、5テル(5千)だったのだ。ニートの俺に買えるわけない。だから廃材でなんとかするしかない。


 そんで考えていると、廃材置き場の隅にどけておいた花瓶が目に留まった。そういえば【鈍器術】で試したのは棍棒だけだったなと思って、冗談半分で試しに花瓶を振ってみる事にした。

 まさかね、『家事手伝いは見た』とかの凶器じゃあるまいし、いくら鈍器でもスキル対象外だろww

 そう思ってたのだが、やってみると俺の腰の入ったスイングでビュンビュン音を立てて振り回される花瓶。スイングがすげえキレてるおwwイケるじゃん!武器ゲットwww


 と調子こいて振り回していた所、花瓶を戸棚に当てて割ってしまった…。花瓶は耐久力に難があるな…。まあ割ってしまったのはしょうがない。むしろ本番で初めて割れて武器なしになるよりはよっぽどいい。


 じゃあ、他になんかねえかなとキョロキョロ見ていると、道端に20cmほどの平たいがでこぼこの石を発見。これも対象になるか?と振ってみたらビュンビュンなったwww。持ち方によっては片手で持てる分、花瓶より使いやすい。片手だとスイングのスピードは遅くなるけど。こいつは拾った石(中)と名付けよう。



 そんで、ふと思い立って、スキルブレスレットをポチり、装備ステータスを確認したところ、拾った石(中)の攻撃力は22だった…市場の雑貨屋で試した木刀の攻撃力は18だったのにすげえなwww木刀代金の5テル分儲けたわwww




 ついに武器もゲットしたので、ゴミ捨て場を引き上げ、東門に向かう。

 城壁に沿ってポコポコ歩いて行くと、東門の城壁の陰に赤毛の子供が隠れるのが見えた。見覚えがある姿だったので近づいて行くと、やはりエリーだ。こちらに背を向けて座り込み、やり過ごすつもりらしい。


 後ろから『エリー何やってんだ?』と話しかけると、エリーはビクッと体を震わせ、ゆっくりと此方を向く。顔はしょぼくれて、まるでイタズラを先生に見つかった小学生のような様子にピンとくる。


 ははーん。どうやらエリーは俺をつけていたらしい。


 「エリー、俺の後つけてきたのか?」

 なるべく優しい声色になる様に心がけていう。聞き分けのいい子供ってのは悪い事じゃなくても、なぜか罪悪感を抱くもんだからな。俺なんかとくにそうだった。

 エリーもそういうタイプの子供なのか全く反応しない。だんまりを決め込むようで、コミュ障の俺にはちょっと荷が重いが、相手は子供なので俺が拗ねる訳にもいかない。

 『ルネ姐さんには出かけるって言ってきたのか?俺の事を心配してついてきたのか?』と何とか喋らそうといろいろ聞いてみる。


 エリーはそれでもずっと黙っていたが、俺が『じゃあ一緒にいくか?』と聞いてみると嬉しそうに引っ付いてきた。まるで、置いてきぼりを食らった犬が飼い主を見つけて喜ぶような甘えっぷりにちょっと驚く。俺、今までの人生でこんなに俺と一緒に居られる事で喜ばれたことなんかねえよ。


 思えば、エリーは今まで友達もいなく、一人で家事やってたんだよな。それも1年前からだから7歳から。そのぐらいなら地球で幼稚園の友達とかもいそうなもんだが、エリーってどうも元はいいとこのお嬢ちゃんだったみたいで、礼儀正しいししっかりしてる。精神年齢だけなら俺と同じ…いや上って言ってもいいぐらいだ。多分、地球でも同年代の子供との付き合いもあんまりなかったんじゃねえかな…。

 だからたった10日とはいえ、子供っぽくて自分と本気で遊んでくれる俺が友達に一番近かったのかもな。初めてできた友達に置いていかれた寂しさと心配なのが半分。後は自分もちょっと冒険してみたいって気分が半分と言ったところだろう。


 「まあ、離れた所に居てもらえば危なくはねえかな」


そう呟く俺は嬉しそうなエリーを連れて、東門を出て街道を歩いて行った。



――――――――――――――――――


 橋の上を商品を積んだ荷馬車がごろごろと音をたてて通り過ぎていき、馬車を避け橋のたもとに居たエリーが橋の上に戻り、俺のバックアップを再開する。

 川の中には俺。手にはさっき拾った上着を持ち、ひざ下ほどの深さの浅瀬に立っている。


 「大丈夫だよ。まだ近づいてきてないよ」

 先生の動きを俺に逐一報告するエリー。

 橋の上からなら光の反射がないため、水中の先生の姿を目で確認できることを利用し、エリーが俺の安全に気を配り、その間に俺が先生を浅瀬におびき出す作戦だ。


 俺の立てた作戦の流れは単純である。


 この前の先生の動きから、どうやら先生は最初に獲物を捕まえると、獲物を切り刻もうとせずに仲間が来るまでしがみつく習性がある気がした。なんでかっつうと、最初に血だらけの布をつかんでいた先生は、俺が全力で引っ張って浅瀬に上げてもそのまま何もしようとせず、俺が布を離すと、深い場所に布を引きずり込んでから布をジョッキジョッキ切り裂いたからだ。つまり、最初から切ろうと思えば切れたのだが、切らずに引きずり込もうとしていたのだ。

 これは多分、先生が群れで狩りをしているためだろう。一匹が獲物を捕まえている間に他の先生方が獲物を切り裂いて、みんなでおいしく食事会。そんな方法で狩りをしているようなのだ。

 なのでこれを逆手に取るのが今回の作戦のキモだ。

 以下心して聞くように。



 まずエリーが上から先生達を見張り、俺が後ろからやられないようにする。

 →そして俺が先生を一匹、上着で釣る。

 →釣られる先生。バカだから上着をつかんだまま離さない。

 →そのまま浅瀬まで引きずられて、先生の苦手な半地上戦にもつれ込む。

 →エリーはそのまま他のカニもどきを警戒しつつ、橋の上から小石を投げる。

 →小石にビビる先生。逃げようと後ろを向く。所詮は甲殻類だし。

 →そこをすかさず俺が拾った石(中)で後ろからぶん殴る。

 →大勝利!!!



 つまり先生とのOne on One を実現すれば大勝利になる。

 うん、我ながら完璧すぎて非のつけどころのない作戦だな。

 ではこれを『カニみそ大作戦』と名付ける!



 「先生…あなたは強かった…

 でもその強さは間違った強さだった…」

 

  ――昔、地球でもサーベルタイガーやマンモスと言った大型の獣がいた。

  彼らはとても強かった。その牙は草食獣の衣を裂き、無敵の存在だった。

  彼らは大陸の覇者だった。どんな強い生き物も彼らの前には道を譲った。

  しかしそんな彼らに立ち向かう生物が現れた。


  彼らは堅い衣を持っておらず、牙は肉食獣の肉を貫くこともできない。

  彼らはただ、2足歩行するだけの脆弱な生き物だった。


  そして月日は流れ――狩りとられ、絶滅したのは大型獣の方だった。


  脆弱な生き物は牙や衣を持たない代わりに

  獣よりはるかに優れた知性を持っていたのだ――



 「…お兄ちゃん、エリーには何言ってるかわかんないんだけど…」

 「つまり、先生はバカだから死ぬんだおwww」


 その言葉を合図に上着は川に放たれ、カニみそ大作戦は実行された。





―――――――――――――――――





 「釣れないな…」

 「まったく動きがないよ」


 「ためしに動かしてみるか、あそーれ。ふーりふりっと」

 「反応ないね…」


 あれから20分ほど上着を水に流しているが先生は全く反応しない。完璧に思われた『カニみそ大作戦』だが、いきなり最初で躓くことになった。とりあえず、俺は作戦を停止。橋の上のエリーと合流する。


 エリーに濡れたチノパンを乾かしてもらいながら2人で考えた結果。この前の布は血だらけだったから釣れたんじゃないか?という話になった。




 それからエリーと俺は川から離れ、近くの林に来た。目的は虫やネズミと言ったいわゆる餌を探しに来ている。生き物の血を上着に染み込ませ、先生を釣り上げるのだ。


 なんで、捕まえる生き物は何でもいい。正直、ミミズでもいい。血が出るなら。だから俺は地面を木切れで掘っていたし、エリーは葉っぱの裏とかに虫でもいないか探してた。


 そんな俺たちがガスガス、しゃらしゃらやっていると、急にエリーが『ひゃっ』と声を上げた。何が起こったかと思ってそちらを見ると、エリーが20センチほどの恐竜を小さくしたようなトカゲ達に囲まれてた。

 トカゲ達は後ろ足だけでぴょんぴょん飛び跳ねながらエリーを取り囲んでおり、エリーが逃げようとすると、そちらを塞ぐかのように数匹で壁を作って動きを止める。周囲一帯を歩き回って俺の方をチラリとみる奴もいたが、俺がぼけっと突っ立ってるのを確認すると俺を無視してエリーの包囲に参加。俺を完全に部外者扱いです。



 なんだこいつら、エリーを襲うつもりかよ。俺を置き物かと思ってるのか?あんまり舐めんなよ。



 トカゲにエリーの保護者として見られてなかったのがショックだったのか、エリーが襲われそうなのがショックだったのか。奴らの行動は俺の怒りにイグニッション。

 点火された怒りで顔を真っ赤にした俺は、石(中)を両手で握りしめると奴らに向かって猛ダッシュ。『ロリコン死ね!』と叫びながらエリーを取り囲むトカゲの中で一番デカい奴にフルスイングすると、哀れトカゲは脳天を地面と石にサンドイッチ。『ピギッ』と声をあげて昇天した。


 リーダーを亡くした上、いきなりの部外者乱入にパニくるエロトカゲども。


 『ごめんなさい』とでも言う様に、俺とエリーの間を開け、エリーを引き渡すそぶりを見せるが俺の怒りはそんなもので収まることはないのは明白。


 俺の怒りはもう確定。

 さらに石を振りかぶり、近くの2匹を続けて叩き潰す。


 奴らは俺に恐れをなして逃げるが焦っているんだろうな。中にはバク転する奴までいた。しかし俺は冷静に石を振りかぶると着地した瞬間に『芸なら他の所でやるんだな』と振り降ろす。バク転したエロトカゲの地面との距離を限りなく0にしてやった。


 バク転野郎を叩き潰した俺が石を持ち上げるとほぼすべてのエロトカゲが逃げてしまっていたが、エリーの後ろに隠れる様にしているエロトカゲを一匹発見。



 気が付かないふりをしてエリーに近づくと、最後の一匹も逃げる隙を与えずに石を振り降ろしてぐっちゃんこにしてやった。




 最後の一匹を潰した瞬間、俺の頭の中で場違いなファンファーレが鳴り響いた。何事かと思い、スキルブレスレットで確認すると【鈍器術】のレベルが上がっていた。どうやら、【鈍器術】は魔物を倒すと経験値が入るらしい。レベルが上がって何か変わったかというと、なんかスイングのキレが良くなった気がする…ぐらいかな。

 他に何か変わってないかチェックすると、腕力が1ポイント上がってた。これは働きが評価されたようで素直にうれしい。エリーもちょっとだけ俺を見直したようで、俺を見る目がキラキラしていた。実際はトカゲが俺を舐めすぎていただけなのだが、この際良しとしよう。


 そんなこんなで先生のえさを手に入れた俺たちは、エロトカゲの死骸を回収すると、林を後にし、川に向かって歩き出したのである。



~魔物紹介~


アントン  オーマ命名:エロトカゲ


2本足で立つトカゲ。移動はカンガルーの様に飛び跳ねて移動する。前足は発達しており、リスの様に物をつかんで食べる事もできる。知力は比較的たかく、仕込めば簡単な芸もするが、人に対する忠誠心が低くペットには向かない。町の周辺に徒党を組んで活動していることが多く、行商人や冒険者のおこぼれに味を占めて、ごく稀に芸をしてエサを貰う個体もいる。観察眼が鋭く、一人でいる子供や老人を集団で襲うケースもあるため定期的にギルドで駆除依頼が出る。初心者向き討伐任務対象として有名。素材は特にとれず、干し肉やペットのおやつとしてのジャーキーになる程度。

俺のステータス


【基本職】ニート 【サブ職業】変質者(痴漢)


腕力  24(弱い)

体力  20(弱い)

器用さ 10(貧弱)

敏捷  10(貧弱)

知力  64(やや高い)

精神   8(虚弱)

愛情  30(やや弱い)

魅力  18(貧弱)

生命   9(不変)

運   ??(算定のための経験が不足しています)


スキル

【高等教育】Lv.26

【不快様相】Lv.1

【鈍器術】 Lv.2


持ち物

E拾った石(中)…攻撃+22

Eスニーカー  …敏捷+3

E革ジャン   …防御+5

Eチノパン   …体力+2

Eボクサーパンツ…腕力+1

E革ベルト   …魅力+1


  

ジーンズ   …防御+3

戸棚の扉   …防御+5

アントンの死骸×5

ゲロまみれの上着(洗って干してある)

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