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聖女五郎シリーズ

聖女(五郎60歳)と王太子

作者: 福嶋莉佳
掲載日:2026/02/16

【感想欄SS抜粋】


王都の大通りには、人々が溜め息をつくほどの祝福の声が満ちていた。

花びらが舞い、鐘の音が高らかに響く。


「おめでとうございます!」

「聖女様万歳!」

「王太子殿下に栄光を!」


王宮のバルコニーに立つ王太子は、満足げに群衆を見下ろしていた。

ゆっくりと手を振ると、歓声がさらに大きくなる。


「すごいな……」


王太子は隣に立つ聖女へ微笑みかける。


「聖女が王太子妃なら、国も安心だ」


白い衣をまとった聖女は、にこやかに微笑み返した。


「これからは、全部うまくいきそうだ」


「せやな(^^)」


王太子が目を瞬かせた。


「え?」


「うふふ、気のせいですわ」


その瞬間、王都中に鐘の音が鳴り響いた。

祝福の音が空へ広がり、人々の歓声に溶けていく。


王太子は満足げに胸を張り、再び手を振った。


祝福の音だと、信じて疑わなかった。


◆王太子視点


結婚してすぐ、私は聖女は穏やかな女性だと思っていた。


初夜のことを思い出す。


寝台の端に座ったまま、どう振る舞えばいいのか分からず固まっていた私に、

聖女は少し困った顔で笑った。


「殿下……優しくしてな(^^)」


「……え?」


思わず顔を上げる。


「……いえ、何でもありませんわ」


咳払いをして、聖女はすぐに姿勢を正した。


「不慣れなものでして」


だが今思えば、

あのときから違和感はあったのだ。


聖女は変わったのか。

それとも――


「……今日は、寝るか」


「はい」


静かな夜だった。


◆王太子視点


執務室の机の上には、書類が積まれていた。


決裁待ちの山だ。

いつものことだが、最近は妙に重く見える。


私は羽根ペンを取り、最初の書類に目を通した。

……内容はよく分からない。

だが、数字も署名欄も整っている。


判を押そうとした、そのときだった。


「殿下」


振り返ると、聖女が立っていた。

柔らかな笑顔だが、目だけが笑っていない。


「殿下、これは理解した上で署名されていますか?」


手元の書類を指で軽く叩く。


「……問題はないと聞いている」


そう答えると、聖女は首をかしげた。


「誰に?」


「担当官だ」


「殿下はどのように理解されていますか?」


言葉が詰まる。

聖女は机の横に立ち、書類を一枚持ち上げた。

さらさらと目を通し、私に差し出す。


「ここ、何の金だと思われますか?」


「……港湾整備の予算だろう」


「それは表向きです。

この追加分がどこから来ているか、説明できますか?」


答えられず指先が、わずかに震えた。


「わからないまま判を押すのは、一番いけません」


聖女は静かに言った。


「王の判というのは、“責任を引き受ける”という意味です。

知らないまま押せば、責任だけが残ります」


私は椅子に座ったまま、書類を見つめる。


これまで、何度この線をなぞってきただろう。

疑問を持たず、確認もせず。

ただ流れに乗るように。


「……では、どうすればいい」


聖女は少し笑った。


「いい質問です」


机の向かいに椅子を引き、腰を下ろす。


「まず、この書類を書いた人間を呼びましょう。

次に、金の流れを最初から説明してもらう。

最後に、殿下が納得してから判を押す」


指を一本ずつ折りながら言う。


「それだけです」


「……時間がかかる」


「かかります。ですが、それが殿下の仕事です」


誰かに任せるものだと思っていた。

王太子の仕事は、決断だけだと。


だが――


「……分かった。担当官を呼べ」


聖女が、満足そうに頷いた。


「それでよろしいかと」


その言葉を聞いたとき、

なぜか初めて“仕事を始めた”気がした。


「頑張ってな、殿下(^^)」


「ん?」


聖女は小さく笑う。


「うふふっ、何でもありませんわ」


◆五郎視点


――わしは別に魔法とか使えんし、

できる事なんて、喋ることくらいや。


執務室の机の上に、書類が積まれている。


……あかんな。

この坊ちゃん、完全に分からんまま判押そうとしてる。


前世でもおったなぁ。

「問題ありません」しか言わんで、事故る部下。


聖女は微笑む。


「殿下、これは理解した上で署名されていますか?」


ちゃんと聖女らしく、柔らかな声でいけてるな。


「……問題はないと聞いている」


あかんって。

これ一番あかんやつや。


「誰に?」


いきなり正解を教えたらあかん。

考えさせな、育たへん。


聖女は静かに頷いた。


「では、そこから始めましょう」


この坊ちゃんが倒れん程度に支える。

それが、わしの今世の仕事なんやろな。


◆侍女(16)


侍女は見た。


廊下の先で、王太子が足を止めている。

協議の刻限は、もう目前だった。


「殿下〜、協議行きますよ〜」


聖女が声をかけると、王太子は肩をすくめる。


「ええっ……」


「王太子やねんから」

「逃げたらあかんで(^^)」


王太子は一瞬、口を開き、

それから小さく息を吐いた。


「……わかった……」


そう言って、歩き出す。


侍女は、そっと胸の内で思う。


——師弟関係みたいだった。


◆国王視点(45)


王は、廊下の角からその様子を見ていた。


「殿下〜、視察に行きましょう」


聖女の明るい声に、王太子が露骨に顔をしかめる。


「……私が行く必要あるのか?」


聖女はにこやかに頷いた。


「はい。現地を見ないと分からないことも多いですから」


「今からか?」


「はい。日が暮れてしまいます」


「……」


聖女は一歩近づき、少しだけ声を落とす。


「ほら、行くで(^^)」


王太子は観念したように肩を落とした。


「……分かった」


二人が並んで歩き出す。

聖女は軽やかに、王太子は重たい足取りで。


その背中を見送りながら、王は小さく息を吐いた。


「……聖女に任せて正解だったな」


◆侍女複数視点


侍女たちは回廊の端で小声を交わしていた。


「……なんだか、王太子殿下、変わられましたよね」


「ええ。最近、執務室の灯りも早く消えるようになりましたし」


「前はずっと残っていらしたのに」


「書類も、ご自身で確認なさっているとか」


ひそひそとした声が続く。


そのとき、足音が近づいた。


侍女たちは慌てて背筋を伸ばす。


王太子が通り過ぎる。


「ご苦労」


短くそう言って、王太子は歩いていく。


侍女たちは顔を見合わせた。


「……やっぱり、変わられたわよね」


小さく頷き合う。


その少し後ろを、

聖女が静かに歩いていた。


何も言わず、

ただ穏やかに微笑んでいた。


◆王太子視点


「殿下、この予定ですが」


聖女が執務机の横に立ち、予定表を指で叩いた。


「夜まで会議が詰まっていますね」


「いつものことだ」


そう答えると、聖女は少しだけ首をかしげる。


「残業は、もう少し見直しましょう」


「残業?」


「はい。集中力も判断力も落ちますし、

やる気の低下にもつながります」


王太子は目を瞬かせた。


「やる気……?」


「人はな、疲れたら考えるのをやめます。

王太子がそれでは困るでしょう?」


「……」


「今日はここまでにして、明日の朝に回しましょう。

その方が、きっと早く終わります」


羽根ペンを取り上げられ、

書類を閉じられる。


「……そういうものか」


「そういうものです」


聖女はにこりと笑った。


「休憩入りましょ〜(^^)」


◆王太子視点


「殿下、ほら……こちらへ」


聖女がそっと手招きする。

王太子は周囲を見回し、落ち着かない様子で首を振った。


「だ、駄目だ……そんなこと……」


聖女はやわらかく微笑む。


「いいのですよ……たまには」


王太子は戸惑いながらも、小声で尋ねた。


「いいのか……聖女と……」


その瞬間。


「いらっしゃいませー!」


威勢のいい声とともに、店員が盆を持って現れた。


「何名様ですか?」


「あ、二人です」


店の中はにぎやかで、笑い声と食器の音が混じり合っていた。


聖女は振り返り、小さく笑う。


「さ〜飲むでー(^^)」


「……君は未成年だろ」


「あ、ほんまや」


くすっと笑いながら、聖女は王太子の腕を引く。


「ほら、こっちです」


王太子は戸惑いながらも、そのまま店の中へと連れて行かれた。


◆王太子視点


「殿下〜」


「ん~~?」


聖女の向かいの席で、王太子はすっかり力の抜けた顔をしていた。


「飲み過ぎですよ。そろそろ帰りましょう」


「もう少しここにいていいだろ……」


「だめです。明日も朝議あるでしょ」


「……王宮に戻りたくない」


「何言ってんですかー。

すんませーん、お勘定お願いします!」


王太子は机に肘をつき、杯を見つめたまま呟く。


「私は……王太子に向いていないのではないか……」


聖女は王太子の外套を手に取った。


「はいはい、帰りますよ」


肩に外套をかける。


「……王太子が向いてる人はいないんちゃいます?」


王太子が顔を上げる。


「では、誰が向いているのだ」


聖女は少しだけ考えてから言う。


「向いてる人がなるんじゃなくて、

王太子になることを頑張るんやと思います」


王太子はしばらく黙っていた。


「……難しいな」


「そら難しいですよ」


聖女は笑う。


王太子はゆっくり立ち上がる。


「……帰るか」


「はい」


夜風が少し冷たかった。



【描き下ろしSS・五郎視点】


人生、何が起こるか分からんなぁ。


目を開けると、天蓋の向こうで控えていた侍女が静かに一礼した。


「お目覚めでございます、聖女様。本日もよくお休みになられましたか」


「……おはようございます」


まだ少し重たい頭を起こすと、侍女たちが慣れた手つきでカーテンを開ける。

朝の光が部屋に差し込んだ。


「本日は午後に神殿からの使者が参ります。その前に王太子殿下との昼食のご予定でございます」


「わかりました」


ベッドから降りると、すぐに椅子へと案内される。

後ろから髪を整えられ、顔を軽く拭かれ、ドレスの準備が進んでいく。


ほんまに手際ええな、このねえちゃん達。


「少し腕を上げていただけますか」


「はい」


言われるままに腕を上げると、下着を整えられ、ドレスを着せられる。

鏡の前でリボンが結ばれ、襟元が整えられた。


王太子と結婚してもうしばらく経つけど、まだ慣れんなぁ。


自分でやろうとしたこともあるけど、そのたびに侍女たちが慌てる。

「我々の仕事でございますので」と言われると、強くは言えない。


……このねえちゃん達の仕事を取るわけにもいかんしな。


ふと、前世の記憶がよぎる。


なんかおらんかったか?

社員の中で、嫁さんに着替えまで手伝わせてるやつ。


「うちの嫁、何でもやってくれるんすよ〜」って。


……あれ?


わし、今それと一緒の状況ちゃうか?


鏡の中の金髪の少女が、なんとも言えん顔でこちらを見返していた。


「聖女、いかがなさいました?」


「いえ。自立について考えていただけです」


侍女たちは意味が分からない様子で、にこりと微笑んだ。



朝食の間は、大きな窓から柔らかな光が差し込んでいた。


長いテーブルの中央には、焼きたてのパンと温かなスープ、果物が並んでいる。


「聖女、こっちだ」


王太子が手を軽く上げた。

相変わらず、べっぴんさんやなぁ。

なんか、キラキラしとるぞ、周り。


「おはようございます、殿下」


席に着くと、すぐに侍女が皿を整える。

パンを取りやすい位置に置き、スープを静かに差し出した。


王太子はそれを受け取り、ナイフを手にする。


「今日は神殿の使者が来るのだったな」


「はい。昼食の前に参ると聞いています」


「そうか」


王太子はパンを切りながら頷いた。

そして、ふと顔を上げる。


「聖女、この後の書類確認を頼めるか?」


来たわ。


「殿下、それは殿下のお仕事です」


「だが私は――」


「王太子でいらっしゃるからこそ、です」


先に言うと、王太子は少し黙った。


「責任者が読んでいない書類に判を押すのは、とても危険です」


パンをちぎりながら、続ける。


「契約書を読まずに署名して、大きな問題になった例もあります」


「……そんなことがあるのか」


「あります」


王太子は手元のパンを見つめる。

少しだけ表情が固くなった。


「だが量が多いのだ」


「分かります」


スープを一口飲む。


王太子はしばらく黙っていた。


やがて、小さく息を吐く。


「……後で読む」


「それがよろしいかと」


王太子は少し苦笑した。


「聖女は教師のようだな」


「年長者の経験です」


王太子は不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。


……しかし、ふわっふわなパンやな〜。



朝食を終えてしばらくすると、神殿の使者が到着した。


応接室には静かな香が焚かれ、簡素だが整った空気が漂っている。  


……線香の匂いやな。


扉が開き、白い衣をまとった男が一礼した。


「本日はお時間をいただき、感謝いたします。神殿修繕の件で参りました」


王太子が椅子に座ったまま頷く。


「聞こう」


使者は書類を差し出した。


「本殿西側の屋根材の老朽化が進んでおり、このままでは雨期に損傷の恐れがございます。

修繕費は王家と神殿で折半する形でお願いしたく」


部屋が静かになる。


王太子は書類に目を落とした。

数秒、視線が止まる。


……殿下、ここやで。


横から口は出さず、紅茶を一口飲む。


王太子が小さく息を吸った。


「修繕費は王家と神殿で折半。王家負担分は――」


紙をもう一度見る。


「金貨三百枚、だったな」


「左様でございます」


「承認しよう。雨期前に完了するよう進めてほしい」


「ありがとうございます」


使者が深く頭を下げた。


使者が顔を上げた瞬間、聖女はほんの少しだけ王太子に身を寄せ、小声で言った。


「……見積は複数取っていますか?」


王太子の眉がわずかに動く。


「施工業者は決まっているのか?」


使者はすぐに答えた。


「はい。神殿と長く取引のある石工ギルドに依頼予定でございます。

見積は三者より提出させております」


「それで進めてくれ」


「承知いたしました」


書類が回収され、静かに扉が閉じる。


王太子がこちらを見る。


「……今のでよかったか?」


「ええ出来やで」


王太子は少しだけ照れたように笑った。


「教師に褒められるのは悪くないな」


思わず笑いそうになる。


なんやかんや言うて、殿下は素直や。

教え甲斐あるわ。


沈黙のあと、王太子が軽く椅子にもたれた。


「……少し、疲れたな」


「朝から頑張っていらっしゃいましたから」


王太子は少し考えるように視線を落とし、それから顔を上げた。


「聖女」


「何でしょうか?」


「今夜、街へ出ないか」


思わず目を瞬かせる。


「酒場に行こうと思う」


ほう。


「殿下の奢りですか?」


王太子が小さく笑う。


「そうしよう」


「なら行きます」


王太子が立ち上がり、自然な動きで手を差し出した。


……なんか、ホストみたいやな。知らんけど。


少し迷ってから、その手を取る。


侍女たちが静かに道を開けた。



王宮の裏手に回された馬車に乗り込む。


扉が閉まり、車輪がゆっくりと動き出した。


向かいに座る王太子は、いつもより少しだけ力の抜けた表情をしている。


……あー。


飲み屋のママさんが、アイドルにハマってた気持ち分かったわ。


馬車は夕日が落ちる城下町へ、静かに向かっていった。


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― 新着の感想 ―
4位ランクインおめでとうございます。  そして、ハンコを闇雲に押してたのが次第にしっかりしてきましたね、太子殿。エリザさんと一旦、離れて教師からの指南を受けたのが効いてきたのでしょうか。 聖女さんのア…
*:・°☆聖女(五郎60歳)*:・°☆ ( ^^)ノ∠※祝。.:*ファンタジー部門☆4位☆.:*・ キャー~ーーー(//△//)ーー~ーー♡ (読者の)皆様! ⭐⭐⭐⭐⭐&♡♡♡♡♡案件ですゎよ! …
この国最大の幸運、それは聖女の中身が五郎さんだったこと…! こんな先輩欲しい!
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