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第1章 この川辺で暇をつぶすだけの青春があってもええんちゃう?〜⑥〜

 編成部長は、呼び出したオレたちに、腕を組みながら言ってきた。


「キミら、なんちゅうことをしてくれたんや? 自分らのしたことわかってるか? 陸上競技連盟からも視聴者からも抗議の電話が殺到してるぞ?」


 本気で、部長賞だか局長賞をもらえると思ってたのか、相方は、一瞬ポカンとしてたけど……。


「すんません!」


 部長の言葉にすぐに頭を下げて、その後、突っ立ったままの相方の後頭部を「おまえも謝らんかい!」と、はたいて同じように頭を下げさせた。


「はじめての出演で舞い上がって、ゲストの人の話が頭に入ってませんでした!」


 心からの謝罪を態度で示すお辞儀の角度90度を保ったまま、オレは、部長に自分たちの行った行為の理由を説明する。頭を下げたままだったので、相手の顔は見えんかったけど、部長はあきれたような顔をしてたんやろうな。


「もう、イイから頭を上げ……キミらの今後に関しては、事務所に伝えてあるから、もう戻り」


 シッシッと、邪魔者を追い払うような手つきの部長にもう一度、頭を下げたオレと相方は、出演者に謝罪と挨拶をしてから事務所に戻ることにした。ただ、声をかけたところで、司会者も、アシスタントも、めざめ太くんも誰もまともに目を合わせてくれへんかったわ。めざめ太くんは、さっきまで相方とあんなに楽しそうに話し込んでたのに……。


 そそくさと放送局を出たオレと相方は、午前中のなにわ筋を歩き出した。どうせ、次の仕事まで時間もあるし、難波にある事務所まで歩いて戻ろか、って二人で話し合ってな。


「ヨシ坊、もし、オレのせいで『おはサン』の仕事なくなったら、ゴメンな」


 まだ、通勤する車も多い大通りの歩道を歩きながら、裕太郎……相方が、申し訳なさそうに言ってきた。


「そん時はそん時でしゃあないやん……事務所の人らには、めっちゃ怒られるやろうけど、とりあえず、初回の出演で爪痕(つめあと)は残したからな。誰もかばってくれへんかったけど、スタジオでは、めっちゃウケてたのも事実やろ? スタッフさんたちも必死で笑いをこらえてたし、めざめ太くんなんか腹かかえて笑てたやん」


「そうかなぁ? そうやとエェんやけど……」


「あんなことしといて、ナニをいまさら弱気になってんねん? 事務所に戻って、二人で一緒に怒られよう」


「ヨシ坊、ありがとう」


「ところで、あのあと、あのピストルはどうしたん? ちゃんと、スタッフさんに返したんか?」


 エンディングのあとは、スタジオ内が大混乱になったから、オレも相方がカメラに向かって構えたピストルがどうなったのか確認できてなかった。まあ、さすがにスタッフに返却したか、スタジオに置いて来たんやろう、と思ってたんやけど―――。


「それなんやけど……ジーンズのポケットに入れたままやったわ」


 そう言って、相方はバツの悪そうな表情で、スターターピストルを取り出す。

 番組に出演するときは、スタイリストがついて衣装を用意してくれてるんやけど、身長が高くてやせ型やった相方は用意されたズボンのサイズが合わずにボトムスは自前やったんやな。そのこともあって、なし崩し的に、ピストルは相方のジーンズに入ったままやったと……。


「しゃ〜ないな。いまさら、もどって返すのも気まずいし、とりあえず、事務所に帰ってから事情を話して、テレビ局に返してもらおう」


 そんなことを話して事務所に戻ったら、案の定、お偉いさんに呼び出されて、そのまま、番組降板を告げられた。相方は、「ホンマに申し訳ない」と気落ちしとったけど、最悪の結果を予想していたオレにとっては、案外、ショックは少なかった。


 なにわ筋を歩いてるとき、相方に話したように初回の出演で番組に爪痕を残せたと思ってたし、それは、録画していた番組を確認した事務所のお偉いさんが、オレたちに、


「ホンマ……おまえら……エェ加減にせぇよ」


と注意しながらも、肩を震わせて、必死に笑いをこらえてるのがわかったからな。これが、キング・オブ・ドライバーが朝の情報番組に爪痕を残した「『おはサン』降板事件」の真相や。


 えっ、相方が持ってたスターター・ピストルは、ちゃんと陸上競技連盟に返却されたのか、って? それが……事務所からテレビ局を通して連盟に返却を申し出たら、


「曰く付きになってしまったモノは必要ありません。責任をもって、そちらで処分してください」


って言われたらしくてな……事務所としても処分に困って、


「裕太郎、おまえが持っとけ」


って、結局、相方に押し付けたらしいわ。その後のことは、オレにもわからん。あとで、聞いた話やと、スターターピストルも許可なく所持してたら、銃刀法違反になるらしいんやけどな……。


 ◆  ◆  ◆


 キッチリとオチまでついて、たっぷり、30分近くをかけて語られたオッサンの話は、バラエティ番組のエピソード・トークを聞いているようで、すっかり引き込まれてしまった。


 正直、いまの時代において、笑い話にして済む内容では無さそうなので、地上波のテレビ局では絶対に放映できなさそうだけど……。


 ただ、ここまでの話を聞かせてもらって、ボクの心には、ある想いが生まれていた。


「オッサンの話、面白かった……また、バイトが始まる前に話を聞きに来て良い?」


「あぁ、時間があるんやったら、いつでも来たら、エェんちゃう?」

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