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第6章 つかしんへようこそ〜⑧〜

 翌日、フットサルの練習がある真美を伴い、普段の練習日よりも少し早い時間につかしんに向かい、娘とともにダブルジェネレーションの二人を探す。


 前日と同じように、フードコートのあたりを見回っていると、この日も良くわからない話に興じている二人組がいた。


「昨日は、口に出して言いたいハリウッド俳優選手権をやったから、今日は、声に出して言いたい洋楽歌手名グランプリをやろうか?」


「なんだよ、昨日に続いて、その訳のわからないゲームは? 声に出して言いたい洋楽歌手名って、昨日、名前が上がったブルース・スプリングスティーンしかないだろ?」


「いや、そうとは限らんで? ほな、エマーソン・レイク・アンド・パーマーはどうや?」


「個人名じゃないじゃん? ユニット名とかバンド名で良いなら、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとか、レッド・ホット・チリペッパーズとか、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとか、いくらでも上がるでしょ?」


「まあ、こう言うのは、『ジョジョの奇妙な冒険』を読んでたら、スラスラ出てくるか……」


「例えが古っ! オッサンたちって、なんで、そんなに『ジョジョ〜』の話が好きなの?」


「それは、名作をみんなで共有しようと言う『シェアの精神』や。あ〜、話は変わるけどさ……アリアナ・グランデって名前は、スタバに行くたびに頭に浮かんで来おへん? スタバで注文するとき、『サイズはどうされますか?』って聞かれるたびに、『あ〜、アリアナ・グランデで』って言いそうになって焦ってしまうわ」


「そんなのオッサンだけだろ?」


 今日も彼らは、いつものように無駄話で時間を潰しているようだ。


「あの〜、すいません」


 私が声をかけると、二人はこちらに向き直って、


「あっ、松永さん!」


「どうも、毎度です」


と、ほぼ同時に返答する。


「昨日は、面白い話を聞かせてもらって、ありがとうございました。お隣は―――娘さんですか?」


 星野くんの声にうなずきながら、私は今日の来訪目的を二人に伝える。


「はい。今日は、二人にお願いがあって来たんです。昨日の夜、ケーブルテレビで、ダブルジェネレーションの漫才ネタを見せてもらいました。佐藤さんと星野さんは、漫才師だったんですね? 昨日のネタを見た娘が、お二人にお願いしたいことがあると言うので、ちょっと、その内容を聞いていただけないでしょうか?」


 私が娘を連れてきた理由を説明すると、二人は、「あぁ……」と声を上げて語り始める。


「そう言えば、ケーブルテレビの放送って、今週やったっけ?」


「そうだ。ボクも、すっかり忘れてた……ボクの自宅じゃ視聴できないから、オッサン録画しといてくれない?」


「うん、えぇで。録画して、ディスクにダビングしとくわ」


「サンキュー! ところで、ボクらにお願いってどんなこと?」


 私たちの方に向き直った星野くんが、娘の真美に目線を合わせてたずねてきた。私に視線を向けて助けを求める娘に、「しっかり、自分で説明しなさい」と、視線を返すと、彼女は意を決して、ダブルジェネレーションの二人に向き合う。


「えっと……学校で、自分の周りのがんばってる人のがんばってる姿を撮影するっていう宿題が出たんです。それで、テレビで見たダブルジェネレーションの漫才が面白かったので、漫才をしているところを撮影させてもらってイイですか?」


「えっ? ボクたちの漫才を?」

 

 娘の申し出は、二人にとって意外なものだったのだろう。一昨日、私が声をかけたとき以上に驚いた様子だった。ただ、困惑するばかりの星野くんと異なり、どこか嬉しそうな佐藤さんは、バンバンと相方の肩を叩き、笑いながら声をかける。


「いや〜、ゴールデンに進出した甲斐があったなぁ。こうやって、ファンになってくれる子も居てるし」


「ゴールデンタイムって言っても、地上波じゃないじゃん! 放送してるのも、兵庫県と大阪の一部地域だけだろ?」


 親子ほど年齢の離れた相方にツッコミを入れた星野くんは、まだ戸惑った様子で、私たち親子にこんな説明をしてきた。


「あの……ダブルジェネレーションのネタを見て、こうして依頼してもらえるのは、すごく嬉しいんですけど……相方のオッサンは、昔テレビに出てたガチの芸人なんだけど、ボクは、この前の大会のためにコンビを組んだだけの素人なんです。それでも、大丈夫なんでしょうか?」


 星野くんの返答した内容は、ある程度、予想できていた。


 昨日、ケーブルテレビでダブルジェネレーションのネタを見たあと、コンビ名について検索したところ、彼らが出場した第26回新人お笑い尼崎大賞のホームページやX(旧Twitter)の告知しかヒットしなかったからだ。

 一方で、佐藤さんについては、キング・オブ・ドライバーというお笑い芸人コンビが、ウィキペディアにも掲載されていて、彼の経歴のあらましが理解できた。


 そこで、星野くんの懸念に対して、私は返答する。

 

「この課題は、必ずしも職業や肩書きにこだわるものでも無いようなので……ボランティアや趣味など、お金を得る仕事に関わらないことでも大丈夫みたいなので、お二人が良ければ、漫才のネタを撮影させてもらえないでしょうか?」


 私の言葉に、「そうですか……」と答えた星野くんは、佐藤さんに「どうする、オッサン?」とたずねる。


「どうするもナニも、小学生に頼まれたら断る理由なんかないやろ? せっかくやから、新ネタを披露するか?」


「う〜ん、ネタを仕上げる時間が必要な気もするけど……一度やったネタを撮影してもらうよりは、やっぱり、新ネタの方が良いのかな〜」


「ほな、決まりやな。ちなみに、宿題の提出期限はいつですか?」


「来週の月曜日の朝までに提出らしいです」


「じゃあ、あんまり時間もないですね。今日中に、台本を仕上げるから、明日から集まって日曜までにネタを仕上げようか? 休日出勤、頼んだで王子くん」


 そう言って、佐藤さんは、星野くんの肩に手を乗せる。

 こうして、ダブルジェネレーションの二人は、真美の宿題に協力してくれることになった。

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