第6章 つかしんへようこそ〜⑥〜
研究成果を披露する前にお互いの名前を名乗りあってから、私はタブレットを起動させて、プレゼンテーションを始めた。
結局、一晩では完成に至らず、午前中もスキマ時間を見つけては更新し続けて、ようやく昼前に作り終えた資料は、自分でも不備や見落としに気付くくらい、穴のあるものだったんだけど―――。
「いや〜、面白いですね〜。大学の講義を聞いているみたいで、勉強になりました」
45分以上に渡るプレゼンを終えると、星野くんは開口一番、そう感想を述べてくれた。
「あぁ、王子くんの言うとおりやな。オレも大学の講義を思い出したわ。でも、つかしんの再生のコンセプトとリニューアルテーマとか、近隣のモールとの差異化戦略の詳細とか……こんな詳しい資料どこで見つけてきたんですか? もしかして、松永さんは、つかしんの関係者の人?」
こちらは、より興味深そうにたずねてくる佐藤さん。
「そんな……私は関係者とかじゃなくて、ただの地元住民です。この資料は、ウィキペディアにリンクが掲載されていたものを参考にしました。つかしんの第1のリニューアルを手掛けた企業が作成した資料のウェブアーカイブらしいです」
「う〜ん、なんでもネットで情報収集できる時代なんですね〜」
私たち三人の中では、いちばん若いのに星野くんが、また感心するように感想を口にする。
「まあ、ネット上での情報収集だけに頼るのは危険やとは言っても……実際に、つかしん再生を手掛けたコンサルタント会社かなにかのプレゼン資料がウェブ上に残ってるなら、関係者への聞き取り取材とか必要なくなるしな」
佐藤さんも星野くんに同調するようにうなずいてるが、今回の説明用資料をまとめた私自身も、その多くを引用させてもらった『グンゼ タウンセンターつかしんの再生物語』という冊子のデジタル版の内容には、大いに感心させられた。
「私自身は、つかしんがどうやって、伊丹イオンモールや西宮ガーデンズなんかの競合施設を相手に、どうやって生き残ったのか不思議だったんですけど……近隣のモールと差別化を図る戦略をとても意識して取り組んだんだ、ということがわかって面白かったです」
「そうなんですか?」
私の言葉に星野くんが反応する。そして、私は両者の差異化について、説明を始める。
「うん……つかしんと伊丹イオンの差別化は、こんな風に考えていたらしいよ」
・コンセプトの違い
再生つかしんのタイプ:日本&ヨーロッパ志向
イオンモール伊丹のタイプ:アメリカ志向
再生つかしんのターゲット:平成ニューファミリーと昭和ニューファミリーのハイブリッドターゲット
イオンモール伊丹のターゲット:平成ニューファミリー中心+ヤング・キャリア志向
再生つかしんの商圏戦略:中域かつ多頻度の来店動機
イオンモール伊丹の商圏戦略:広域かつ小頻度の来店動機
再生つかしんの来店動機:ふだん着のパーソナル(個人・家族ニーズ)
イオンモール伊丹の来店動機:よそゆきかつ2世代・3世代のニーズ
「私、つかしんは、普段使いできるショッピングモールやって、常々、思ってるんですけど……それは、こういうコンセプトでリニューアルされたからなんやなって感心しました」
両者のコンセプトの違いをまとめた内容をあらためて説明すると、佐藤さんが、ニヤリと笑いながら口をはさむ。
「普段使いできるショッピングモールって、なかなか、オモロい表現ですね。いまのショッピングモールって、昭和のデパートと一緒で、ちょっとしたよそゆきがありますし。伊丹イオンは、ちょっとよそゆき。西宮ガーデンズは、かなりよそゆき」
「そう言えば、オッサンは子どもの頃、西宮北口にある野球場に通ってたんでしょ? その当時といまは、ぜんぜん雰囲気が違うの?」
「違うもナニも大違いやで! あの周辺は競輪場もあって、おっちゃん達のたまり場になってたからな……それこそ尼崎と変わらん雰囲気やった。北口周辺が、あんなオシャンティーな街並みになるとか、西宮スタジアムに通ってた人間からしたら、異世界に迷い込んだくらいの気分やわ」
つかしんの映画館の話が出たときのように、放っておくと、佐藤さんは、また昔の思い出話を語りだしてしまうので、私は話題をもとに戻そうと努力する。
「その伊丹イオンとか西宮ガーデンズとかも含めてなんですけど……その地域に住む人たちが、その時々のニーズによって、モールを使い分けを出来ることが住民の満足感を高める。そう言うねらいを持って、つかしんはリニューアルされたらしいんです。この資料を見てもらって良いですか?」
そう言って、私は再びタブレットにまとめた資料を二人に提示する。
「伊丹イオンは、タウン・リゾート志向(ファミリーの遊び志向)のモール型ショッピングセンター(モールにエンターテインメント機能を持たせ、お客様がモールを散策しウィンドウショッピングする場所)。一方で、つかしんは、コミュニティ・オアシス志向(地域の人々の日常生活の中で交流の場とオアシス感を感じ、日常生活の中のショッピングをする場所)の「場づくり型ショッピングセンター」(住民の井戸端会議や地域の顔となりショッピン グや健康・いやし、さらには地域の絆、家族の絆、友達の絆を高める場所)を目指したらしいです」
私の解説に、佐藤さんがすぐに反応した。
「住民の井戸端会議ですか……そしたら、オレが王子くんと毎日のように、フードコートやカリヨンガーデンの川辺で駄弁ってるのも、コンセプトどおりっちゅう訳か……自分が、コンサルタント会社の狙いどおりの行動を取ってて、なんか恐ろしくなってきたわ」
「それだけ、頭の良い人が色々と考えてるってことだよ」
佐藤さんの言葉をキレイにまとめようとする星野くんに、私もうなずく。思えば、こうして、雑談まじりの会話が出来ていること自体、ここが庶民的な場所でもあることを証明しているのかも知れない。
その後、本屋さんのアルバイトがあるという星野くんを見送った私と佐藤さんは、お互いに別れのあいさつをして、それぞれ帰宅する。
(一方的に話していただけかも知れないけど……なんだか、楽しい時間を過ごせた)
そう感じたものの、彼らとの接点が無くなった私は、もう二人と会話を交わすこともないかも知れない……。
そのことに寂しさを覚えながら、いつもの家事を終えて、夕食後に娘の真美の宿題の面倒を見ながら、テレビをザッピングしていると――――――。
我が家のリビングの42インチのテレビ画面に驚くべき光景が映し出された。




