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第6章 つかしんへようこそ〜⑤〜

 学生時代を懐かしく感じることが出来た、物事を調査して学び、答えの無かった答えを見つけ出す喜び―――。


 十ン年ぶりにそうした感動に浸っていた私だが、それと同時に大きな問題にぶつかった。


 その問題は――――――。


 この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。


 大学時代の課題レポートやゼミの研究なら、教授なりゼミ生なり、私の調査した研究の成果や発表を聞き、評価してくれる相手が居てくれた。


 だけど――――――。


 アパレル系の企業に就職し、結婚後は専業主婦として日々の生活に追われている自分には、この研究成果(というほど大したものではないのかも知れないけど……)を発表する場や聞いてくれる人が居ない。


 さっき、夫は「なんか、おもろいことがわかったら教えてや」と言ってはいたが、私のように多いときは、ほぼ毎日つかしんに出向いているような人間でも無い限り、あの寂れかけていたショッピングモールの華麗な復活劇と文字どおり「地域密着」と言って良い心地良さを感じている自分の感動は伝わらないだろう……。


 その事実に打ちひしがれた私は、これまでの高ぶったテンションとは打って変わって、自分の置かれた環境に悲しみを覚える。


 もちろん、最初に「つかしん最強説」として、自分の思いの丈を書き綴ったように、SNSに研究の内容を投下する、という方法もあるけど……。

 資料や動画、リンク付きの長文を読んで、今日の夕方の投稿のように反応を示してくれる人が居るだろうか?


 まず、私は文章にまとめるよりも、資料を準備して口頭で発表する方が得意だった。

 ただ、いきなり、YouTuberやライブストリーマーのように、動画をアップロードするのは気が引ける。


 そして、なにより、こうした感動や感激は、SNSやネットのコメントよりも対面でリアルに共感を得てもらいたい、と強く感じる。


 寝室で、どうすればエェんやろ……と、うなだれていたとき、ふと、夕方にフードコートで出会った二人のことを思い出した。


 「つかしんに映画館があったんですか!?」


 と、いきなり話しかけた私に対して、最初は訝しげにしていたものの、すぐにつかしんトークで打ち解けることが出来た彼らとなら、この研究成果の素晴らしさを共有できるかも知れない。


 そう考えた私は、夫の発言のせいで無性に食べたくなってしまったハーゲンダッツのカップアイスをコンビニに買いに走ったあと、タブレットのKeynoteで、研究の内容をまとめ始めた。


 ・


 ・


 ・

 

 ――――――その翌日。


 特に買い出しの予定は無かったものの、前日と同じく私は昼下がりの時間帯に、つかしんひがしまち1階のフードコートに向かう。


 昨日と違うのは、自宅からタブレットを持ってきていることだ。


 フードコートの入口で前日に言葉を交わした二人組みを探すと――――――。


 いた! 


 メガネの青年と少しモジャモジャのヘアーの男性は、人の少なくなったフードコート内の四人席で、今日も仲良く、何事かを語り合っている。


「今日は、口に出して言いたいハリウッド俳優選手権をやってみようか? オレから行くで。ステラン・スカルスガルド! 『レッド・オクトーバーを追え』のツポレフ艦長の役者や」


「なんだよ、唐突に。『ウィ・アー・ザ・ワールド』の収録PVのブルース・スプリングスティーンくらい唐突にぶっこんで来るな」


「あぁ、アル・ジャロウのあとに、急にダミ声で入ってくるアレな。けど、ブルース・スプリングスティーンは俳優やないで」


「わかったよ、じゃあ、ベネディクト・カンバーバッチ。いきなりラスボスを出して悪いけど、苗字の『カンバーバッチ』の破裂音の連続が、口を動かす快感を与えてくれるだろう?」


「さすが、王子くん。なかなかやるやん? ほな、こっちは、カイル・マクラクラン。『カイル』で爽やかに始めてからの『マク』で一度口をしっかり閉じ、『ラ』で舌を弾き、『クラン』で喉の奥を鳴らして締める。まるでデヴィッド・リンチ監督の映画のような、端正さとどこか奇妙なリズムが同居した、めっちゃ『収まりの良い』名前や」


「スペルがMCで始まる苗字なら……マシュー・マコノヒー。この名前を口にするときは、彼のデビュー作『バッド・チューニング』の名台詞『Alright, alright, alright』をあわせて言いたくなるね」


「ほう……『バッド・チューニング』を持ってくるとは……マコノヒーの発音が、ヒコロヒーを感じさせて、映画に詳しくない人間にも伝わりそうや。ほな、こっちも最終兵器、行くで? クラウディア・シファー」


「いや、それ俳優じゃなくて、スーパーモデルの名前じゃねぇか!」


「映画にも出演してるからセーフや。たとえば……『ラブ・アクチュアリー』とか―――」


「ハリウッドじゃなくて、イギリス映画じゃねぇか!」


 色々な意味で近づきがたい会話をしている二人に、私は意を決して話しかけてみる。


「あの!」


 私の声に気づいた二人は、こちらに向き直ると、メガネの青年の方がすぐに反応し、


「あぁ、昨日、声を掛けてくれた人ですね?」


と、柔和な笑みを浮かべる。


「どうしたんですか? 口に出して言いたいハリウッド俳優選手権に参加してみたくなりました?」


 そう言いながら、私を謎のゲームに引き込もうとする中年に、「いえ、それは大丈夫です」と、私は即答した。


「ほしたら、何か用ですか?」


 昨日と同じように、やや怪訝な表情を浮かべながらたずねるおじさんの方の男性に、私は意を決してたずねる。


「あの、昨日、二人はつかしんが西武グループに作られたとか、映画館があったとか、そんな話で盛り上がってましたよね?」


「あっ……はい……そうですね」


 今度は、困惑しながらも、うなずくメガネ君に対して、できるだけ落ち着いた口調になるように努力して、言葉を発した。


「その……つかしんに映画館があったとか、ハーゲンダッツのお店があったことを聞いて……気になったことが多かったので、自分で、つかしんの歴史を色々と調べたんです。それで、その調べた内容をお二人に聞いてもらえたらな……って思って。いま、お時間は大丈夫ですか?」


「まあ、僕は大丈夫ですけど……王子くんは、バイトの時間は大丈夫なんか?」


「う〜ん、まだシフトの時間までには間があるので、1時間くらいななら大丈夫ですけど……」


「そうか……そんなら聞かせてもらいましょうか? つかしんの栄光の歴史を」


 おじさんは、興味深そうに微笑んだ。

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