第6章 つかしんへようこそ〜④〜
「どうしたん、博美? テレビも見んと珍しい。真美が、『お母さんは、なにか調べ物してるで』って言うてたけど……」
旦那の寿史は、帰宅してスーツを脱いで、ダイニングのテーブルに腰を下ろすと開口一番、そう言った。
「うん、ちょっと、つかしんの歴史について調べてたら面白くて……タブレットで色んなサイトとか動画とかを漁ってるところ」
夕方に調理した食事を温めなおしながら、夫に答える。
「つかしんって、近所にあるつかしんのことか? その歴史って、そんな大したもんか? いや……って言うても、オレらが生まれる前から、あそこにあるから、もう40年くらいの歴史はあるんか?」
自分で発した疑問に自分で納得した相手に微笑みながら、私は言葉を返した。
「そうそう! つかしんに映画館があったとか、ハーゲンダッツのお店があったとか知ってた?」
「あ〜、それ、どっちもおぼろ気ながら記憶にあるわ。つかしんの映画館は、一回だけ親父と『ワイルド・スピード』を観に行ったことがあるかも。『家の近くで安くて映画が観れて得したわ』って親父が言うてた記憶があるねん。ハーゲンダッツも、そん時に寄ったんやったかな? サーティワンみたいに、カップかコーンか選べてな。あと、トッピングも……でも、すぐに映画館もハーゲンダッツも無くなってしまったんちゃうか?」
「ちょっと、なんで、その時、私を誘ってくれへんかったん! ハーゲンダッツのお店のアイスとか、めっちゃ食べたくなるヤツやん」
「知らんがな! まだ、博美と出会う前のことやったかもやのに、知らんけど……」
「知らんのかい! あ〜、もうこんな話してたら、ハーゲンダッツ食べたくなってきたわ。あとで、コンビニに買いに行ってこよ」
「別にエェけど、あんまりムダ遣いすんなよ……それより、いま思い出したんやけど、つかしんって、一時期かなり寂れてなかった? なんか、その頃よりはだいぶ復活してきてる感はあるよな」
過去を思い出すかのように、独り言をつぶやく夫の最初の発言はスルーして、私は答える。
「そうそう! そう言う、つかしんの栄光と衰退、輝かしい復活の歴史を調べてるねん!」
「なるほどねぇ、復活の歴史か……ちょっと、面白そうやな。まあ、真美をフットサルに連れて行くときに使う斜行エレベーターは古いまんまやけどな。なんか、おもろいことがわかったら教えてや」
夫は、そう言って、テレビの電源を入れてバラエティ番組を見始めた。
いつもは、一緒になってテレビに向かって、ツッコミを入れたりするところだけど、今日は少し勝手が違う。
「じゃあ、食べ終わったら、食器はシンクに置いといて」
「はいよ〜」
テレビに夢中になってる旦那をよそに、私は寝室に移動して調べ物の続きを行うことにした。
西武グループが撤退したつかしんは、土地の所有者である肌着やインナーのメーカーとしておなじみのグンゼに経営権が移ったあと、施設の大幅なリニューアルを行った。
第一のリニューアルとして、西武の撤退前後に発掘された温泉を関西最大級の源泉掛け流しの大浴場「湯の華廊」として、2004年7月に開業した。
その一方で、建物の老朽化やテナントの撤退に伴う来客数の減少は改善されず、2005年5月にはリニューアル工事を開始した。当時東側にあった地上2階・地下1階建ての「東駐車場」を解体し、地上4階・地下1階建ての「ひがしまち北館」を新設し、兵庫県内初出店となる平和堂が出店。既存のエリアも随所で内外装を一新し、マツモトキヨシなど100軒を超える新規テナントを迎えた上で、2006年4月に「グンゼタウンセンターつかしん」としてリニューアルオープンした。従来リボン館だったビルは「ひがしまち南館」として再編された。
電車で一駅の場所に競合店舗が建設された中で、新たにモールの規模を拡張する、というのは非常に大きな決断だったと思うけど、結果としてこれが大正解だったようだ。
それまで、自分たち兵庫県民には馴染みがなかったアル・プラザ(平和堂)が出店してきたことが、つかしんの再生の第一歩なのではないか、と地元住民としては強く感じる。ちなみに、娘の真美が通うフットサルのコートも、このときに出来たものらしい。
イオンモール伊丹との差別化戦略は成功し、2008年の年間売上高は250億円にまで回復した。
ただ、この時期には、前述の西宮ガーデンズや梅田のルクア大阪など、さらなる競合施設が建設される。
この二つの施設は、近畿圏内だけでなく、日本全体でも指折りの商業施設で、西宮ガーデンズは2013年に、ルクア大阪は2025年に優れたショッピングセンターを選ぶ日本SC大賞(←こんな賞があったということを今回初めて知った)を受賞している。
そこで、第二のリニューアルとして、これらの施設に対抗するため、第一のリニューアルで整備が行き届かなかった「にしまち」の居酒屋街「味の小路」を更地にし、2階建ての新たなビルを建設。「にしまち」の一部として、2012年10月に開業した。
さらに、このとき開業した2階建てのビルには、1階をフードコートに全面改装し、2022年11月に「にしまちキッチン」としてリニューアルオープン。また、ふたば書房などが入居していた2階についても2023年4月をもって全店舗が閉店または移転の上、同年9月にフロア全体にTSUTAYAが新たにオープンした。また、前述の西武の売場面積縮小と同時に出店し、ひがしまち南館の1階で営業していたコープこうべが、不採算などを理由に2営業を終了したあとは、同店が入居していたエリアに、従来同館の4階で営業していた無印良品が同年6月に移転オープンし、その4階の跡地にはアカチャンホンポが同年11月にオープンした。
私や旦那を始めとする地元住民が、つかしんが復活したと認識しているのは、この第二のリニューアル以降の活況を目の当たりにしているからだろうと思う。
こうした復活劇は、多くのメディアからも注目されているようで、新聞のニュースサイトやWEBマガジン、さらにはYouTuberの現地訪問動画まで、色々な人たちが取り上げていたりする。
そして、私は、自分自身が「つかしん最強説」を唱えたくなるくらい、この場所を誇りに感じ、愛着を持つことが出来ている理由を探り当てることが出来たんだけど……。
この、大学生時代以来の知ること・学ぶことの喜びは、同時に、私に大きな問題を投げかけたてきた。




