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第5章 推しを推すにも財力がいる〜⑨〜

 BIGMANとバスターミナル付近の広告を確認し終えたあと、「キミの行きたい店を言ってくれたら奢るから」というオジサンの言葉に甘えて、あたし達は、茶屋町にあるチーズと生はちみつ Bene NU CHAYAMACHIというお店に入った。


 ここは、その名のとおり、美味しいチーズと生ハチミツを存分に楽しめる専門店で、女子会などで人気の店舗だ。


 コース料理を待つ間、あたし達は推しとファンの関係性について語り合う。


「タレントやアイドルを抱える運営事務所から見ると、ファンって言うのは、5種類のタイプに分けられるねん」


「5種類のタイプ?」


「そう、1つ目のタイプは、プロデューサー型。アイドルのライブやお笑いの劇場に足を運んだり、メディアへの露出をチェックして、その時々のパフォーマンスについて意見するタイプ。SNSにも書き込むけど、NOTEで長文による意見を表明することが多いな。最近は、アイドルだけじゃなく、お笑い芸人相手にもネタの善し悪しを厳しくジャッジする、このタイプが増えてる気がする」


「そうなんや」


「2つ目は、分析家のアナリスト型。アイドルやタレントの成長や数字……CDの売上順位や配信の閲覧数、SNSのトレンドなんかを重視して、いかに効率的に推しを押し上げるかを示唆してくれるタイプやな。お笑い芸人のファンも賞レースの点数を記録して、細かく分析してくれたりする」


「ふんふん……」


「3つ目は、保護者・委員長型。アイドルの頑張りや成長をSNSで熱く語る。あまり過激な行動はせず、長期的・安定的な支援を行うタイプやな。一方で成長を見守りたいが故に、母親や委員長のような目線でモラルや政治的な正しさを守っているかどうかについては厳しい目を向ける面もある。男性アイドルを応援する女性には、こういうタイプのファンも多いかも。一方で、破天荒さや笑いを求められるお笑い芸人には、あまりこういうタイプのファンはおらんな」


「なるほど……」


「4つ目は、言わずと知れたガチ恋勢。最近ではリアコって言うんか? アイドルを恋愛の対象として見ているタイプやな。好きなアイドルに対して現実の恋と同じようなドキドキ感や、嫉妬心、独占欲を持つことが特徴って言うのは説明するまでも無いやろうし、いわゆるアイドルファンと言われて、普通の人が真っ先に連想するのはこのタイプやろう? 当然、運営からはグッズや握手会のイベントで多額の金を使ってくれるタイプとして見られてるわな。オレらの若い頃と違って、芸人にもこういうファンが増えてきたわ」


「あ〜、そうなん(苦笑)」


「最後の5つ目は、信徒・信者型。推しを応援することが、アイデンティティー。つまり、自分自身の人生の目的や存在意義になっているタイプのことやな。さっき見た推し活広告を出すのも、このタイプやと思う」


「それって、リアコとかガチ恋勢とは違うの?」


「いちばん大きな違いは、恋愛絡みのスキャンダルが出たときの反応やろうな。最近では、『推しの幸せ = ファンの幸せ』って価値観がSNSでも氾濫してるけど……ガチ恋勢には、そんなん綺麗事にしか聞こえへんやろう? 『今まで、どんだけ金を使ったと思ってんねん!』という感情から、アイドルの反転アンチになることも多い」


「まあ、厄介やけど、怒りたくなる気持ちはわからなくもないわ。裏切られたって思いにもなるやろうし……」


「そこで、対象がアイドルやタレントなら、適当に推し変するのも悪いことではないと思うけどな。問題は、最後の信徒タイプになって、推しに入れ込み過ぎてしまうことや」


「あ〜、あたしの学部でも、『辞めジュを追うファン心理』って言うのを研究している先輩がいるんやけど……」


 ちなみに、「辞めジュ」とは、解散してしまった超有名男性アイドル事務所のジュニアを辞めたアイドル・タレントのことだ(と、アイドル文化全般に詳しい友人の浩菜が教えてくれた)。


「へぇ……面白そうな研究テーマやん」


「卒論の参考にするために、ゼミで論文を読ませてもらったことがあるけど……あの事務所のアイドルのファンは『対象の成長を見守っている』という意識が強くて、その成長過程をデビューという形ではなくても、退所後の舞台や舞台裏、個人の活動を見届けたいという心理が働くとか書いてた気がする」


「なるほど……デビューできなくても、別の形で輝く姿を見たいという『ストーリー』を追いかける、という訳か。ところで、リリマガやったっけ? あのグループを脱退したアイドルを推してる王子くんは、どんな思いで推しを推してるんやろ?」


 唐突に語られるオジサンの言葉に、あたしは、ハッとする。目の前の中年男性が語ったタレントやアイドルファンの分類方法が正しいのだとすれば、星野は、どのタイプに属するのだろうか?


「オジサンは、どう思う? 星野は、5つのうちのどのタイプやろう?」


「まあ、あの分類は、便宜的なもので、ファンの一人ひとりが、キッチリとどれかに当てはまるって訳でもないと思うけどな……ただ、王子くんの場合は、一見アナリスト型に見えて、実は、ガチ恋か信徒タイプになんじゃないかと心配してるところやねん」


 その返答に、あたしは食いつく。


「なんで? なんで、オジサンはそう思うん?」


「いま、キミが『辞めジュ』のファン心理について語ってくれたやろ? グループを脱退したアイドルを応援するファンは少なくなっていくし、もしくはファン活動が非公式なものになりやすいよな? そんな環境では、『このアイドルの魅力を分かっているのは自分だけ』という特別な感情が芽生えてくる。それは、ある意味、先鋭化、カルト化しやすいってことでもある。オレが気にしてるのは、そのことやねん。―――で、今日の話の本筋なんやけど…」


 オジサンは、そう言って、ようやく今日の本題を切り出した。

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