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第1章 この川辺で暇をつぶすだけの青春があってもええんちゃう?〜④〜

 翌日、三限目の講義を終えると、前日と同じくバイトが始まる前にショッピングモール内のカリヨンガーデンと呼ばれる川辺の広場に来てみると……。


 約束したとおり、オッサンは川に面した石段に座っていた。ボクが声をかけるまえにこちらに気づいたオッサンは、中年男性らしく、「おう!」と軽く手を上げて、


「待っとったで、王子さま」


と語りかけてくる。


「その呼び方、恥ずかしいのでやめてくれませんか?」


「まあ、えぇやん。それより、今日はなんの話やったっけ?」


 こちらの要望を「まあ、えぇやん」の一言で片付ける言動にあきれつつ、自分は話を聞かせてもらう立場のため、抗議したい気持ちを抑えて、気になる話の続きをリクエストする。


「『おはサン』を1日でクビになったって話なんですけど……今日は、バイトまで少し時間があるので、詳しく聞かせてもらえないですか?」


 まだ、知り合ったばかりということもあり、引き続き丁寧な言葉を意識してたずねると、右手をヒラヒラさせながら、「そんなに堅苦しく話さんでもえぇで……調子が狂うわ」と笑ってから、


「『おはサン』のときの話か……ほな、語らせてもらおか?」


オッサンは、そう言って、懐かしそうに目を細めた。


 ◆  ◆  ◆


 もう、何年も前のことになってしまったけど……学生時代の今井裕太郎(いまいゆうたろう)って友達(ツレ)とコンビを組んでてな。ん? コンビ名か? キング・オブ・ドライバー言うてな……なに? 聞いたことない? まあ、その年齢(トシ)なら無理ないか。


 テレビに、バンバン出てたのは、もう20年近く前のことやから……そう、ちょうど、キミらが生まれたくらいの頃やわ。


 そんで、その頃、漫才の新人賞を獲ってな。その勢いで、事務所もキング・オブ・ドライバーを推してくれて、色んな番組に出演できるようになったんや。その中でも、いちばん大きな仕事が『おはサン』のレポーターやったな。

  

 そん時の気持ちか? そら、嬉しかったよ。お笑い芸人目指す言うても、親かてイイ顔はせんかったし……特にウチの相方は家族関係で苦労しとったから―――まあ、それは今回の話とは関係ないねんけど……。


 そんで、『おはサン』の初回の出演や。番組を見てたら知ってると思うけど、レポーター役は、事前のビデオ収録やから、生放送では、その()()を見るだけやわな。


 ん? なんのレポートをしたかって? たしか、せんちゅう……千里中央のグルメ・リポートやったかな。そこの鉄板焼の店の串焼きが美味しくてなぁ……。


 そこで、なにか、店に迷惑かけたんかって? ちがうちがう、レポートはちゃんとこなしたよ。キッチリと本番でも放送されたんやから。むしろ、ロケでなにかやらかしてたら、収録自体がお蔵入りになって放送されへんし、朝からの生放送にも出れてないよ。


 じゃあ、スタジオでなにかやらかしたんか? さぁ、そこやがな。当時の旭日放送の社屋は、いまの「ほたるまち」と違って、大淀南っていう場所にあってな。そう、環状線の福島駅の北側や。そこに、大阪タワーっていう、展望台を備えたでっかい観光タワーが、ドーンと立ってたんや。『おはサン』の放送も、このタワーにスタジオが出来たのと同時に始まったらしい。まあ、でっかいタワーって言うても、オレらがテレビに出る頃には、もう梅田スカイビルが建ってたから、展望台としてはもう集客できなくなってたみたいやけどな。


 キング・オブ・ドライバーが『おはサン』に出演したのは、大阪タワーが無くなる直前のことやったわ。


 さっきも言ったとおり、無事に収録を終えた食レポのコーナーは無事に終わったんやけど――――――。


 事件のキッカケになる出来事は、自分たちの出番が終わって、スタジオの裏で本番終了まで待機してるときに始まってた。

 初めての出演が無事に終わって、ホッとしてるところに、めざめ太くん(注:ウサギを模した番組のマスコットキャラクター)がやって来て、気さくに声をかけてくれてな。


「自分ら、今日が初出演やったな。なかなか良かったよ。これからも、がんばりや」


 そうやって、頭の部分を外した中の人が励ましてくれたんや。緊張してた直後やから嬉しかったな〜。まあ、そのあと、いきなりタバコをプカァ〜って、ふかし出したのは、ちょっとビビったけど……。


 オレは、こう見えても根が真面目っちゃうか、気が小さいから、出番が終わったあとも、モニターで番組の進行を見守ってたんやけど―――。

 裕太郎……相方は、出番が終わって気が抜けたんか、めざめ太くんから、タバコを分けてもらって、なにか二人で話し出してたわ。いま、思えば相方がモニターも見ずに、そんなことしてたんが良くなかったんやな。

 

 その日は、陸上競技のスターターを務める人がゲストに来ててな。


 いまでは、公式の陸上競技では、スタートの時の合図にピストルなんて使わへんみたいやけど、ゲストの人は、日本初の女性スターターらしくて、「この仕事に誇りを持ってる」みたいなことを言うてはったわ。


 そのスターターのヒトは、スタートピストルの実物を持って来てて、視聴者に向けて、こんなことを伝えてた。


「このスタート用のピストルは、もちろん、銃弾が発射されるわけじゃありませんが、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 めざめ太くんと雑談に興じてた相方は、当然、こんな注意喚起なんて、なにも聞いてへんかった――――――。

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