第4章 サイキック少年団〜⑩〜
こうして、佐藤義徳と今井裕太郎が結成したお笑いコンビ、キング・オブ・ドライバーは、結成10年を過ぎた年の春に解散することになった。
そして、二人が愛し、彼らの芸人としての……いや、いち個人としてのアイデンティティの形成に大きな影響を与えた『サイキック青年団』は、番組終了を正式に発表したあと、数週間の紆余曲折を経て、本来の終了予定だった3月末を待たずして、突然3月8日の番組打ち切りを告げるという、番組のリスナーである『サイキッカー』を裏切るような結末となった。
さらに、番組の出演者であった北野誠は、翌月から芸能活動を自粛することとなり、芸人としての仕事に終止符を打った今井と異なり、春以降も仕事を続けていた佐藤は、同じお笑い芸人の一員として、先輩の北野の身を案じ、事務所を通して近況を探ろうとしたが、マネージャーなどからは、
「いまは、深入りするな」
と、釘を刺されるだけだった。
ピン芸人として、司会業などをこなしがら食い繋いでいく生活を送ることになった彼が、目的を見失いながら、現実から逃れるように映画館に通い詰め、地元の塚口サンサン劇場で、かつて『サイキッカー』だった仲間と出会うのは、コンビの解散と『サイキック青年団』の終了が重なって年から、二年が経った頃だった。
「そうだ、佐藤さん! 映画もお好きみたいだし、サイキッカーのよしみで、ちょっと意見を聞かせてくれません?」
そう言って、塚口サンサン劇場のスタッフである都村が持ってきたチラシは、井口昇監督、板尾創路主演の『電人ザボーガー』のものだった。
その作品のインパクトに大笑いしたあと、
「あきらめるな! 立ち上がれ!」
というキャッチコピーに感銘を受けた佐藤は、もう一度、自分の人生の来し方と行く末を見つめ直そうと決意した。
彼のこれまでの人生での後悔は、相方の今井裕太郎に大学中退の道を選ばせてしまったことだ。
その挫折経験が、親友にして相方だった今井の芸人引退につながってしまった、と佐藤は考えていた。
(あのとき、裕太郎が大学を辞めずに済んでいたら、オレたちも……)
そんな想いが強かった彼は、親友の代わりに大学で学び直すことを決意。
翌年の春に、社会人学生として、関西の私立大学に通うことになる。
録り溜めておいた『サイキック青年団』の放送テープを試験勉強のおともにしていると、高校時代、日曜の夜にAMラジオの周波数を1008khzに合わせ、ラジオから流れるイギー・ポップの『リアル・ワイルド・チャイルド』のイントロに胸を踊らせた頃の記憶が蘇ってきた。
その楽曲に乗せて軽快に喋り始める北野誠と竹内義和。
芸人と作家の最強タッグが織り成す言葉のプロレスに耽溺しているうちに、夜が更けていった頃のことを思い返すと、
「ちくしょう! このまま終わってたまるか……」
という気持ちがフツフツと湧いてくるのを感じた。
そうして、社会人学生としての学び直しを終了し、学術的な裏打ちのある知識を備えた司会業も起動に乗ってきた頃、佐藤は気になるネット記事を発見した。
◆ ◆ ◆ ◆
『北野誠×竹内義和 伝説のコンビ10年ぶりに復活!』
北野誠と竹内義和のコンビによるギリギリトークが話題を集め、サイキッカーと呼ばれる熱狂的なファンを生み出した伝説のラジオ番組『誠のサイキック青年団』。 2009年3月の突然の終了から10年ぶりに誠×竹内コンビが復活した。自らサイキッカーを公言する弁護士・タレントの角田龍平がKBS京都ラジオでパーソナリティを務める『角田龍平の蛤御門のヘン』で二人をゲストに呼び夢のマッチメイクを実現させた。
◆ ◆ ◆ ◆
『サイキック青年団』の復活――――――。
それは、佐藤たち「サイキッカー」だった者にとって、(少々、大げさに言えば)救世主の復活にも等しい祝祭日でもあった。
その復活を心のなかで祝うと同時に、番組の実現に奔走した角田弁護士に、
「ありがとう、角田センセイ……」
と、佐藤は感謝する。
迎えた放送当日、『サイキック青年団』のオープニング曲、イギー・ポップの『リアル・ワイルド・チャイルド』が流れる中、本来のメインパーソナリティである角田弁護士が緊張ぎみに二人を紹介しトークの口火が切られると、番組は一瞬にしてサイキックの空気感に包まれた。
角田:どうも、みなさんこんばんは。弁護士で俳優の角田龍平です。さっそく、今晩のゲストを紹介しましょう。
北野:はい、と言うことでございまして、北野誠でございます。よろしくお願いします。
竹内:どうも、竹内義和でございます! よろしくお願いします。あのね、誠ちゃん。僕はね、この10年で成長したなと思ってるんですよ。
北野:なにを言うとんねん(笑)
竹内:いやね、人間やっぱり苦労せんとわからんことってあるんですわ。
北野:かましたね! 久々にアニキ!
竹内:だってね、世の中あれから、どんくらい乱れましたか?
角田:『サイキック〜』が終わってから、この10年ですね(笑)?
竹内:ここ数年、スゴイことが起きてるし、とくに、ここ1〜2年はホントにスゴイことが起きまくってるじゃないですか? もし、番組があったら、情報が多すぎて頭の中で整理できなくて話しきれなかったと思うんですよ。それが、10年経って、ようやく、誠ちゃんとこうして話が出来るようになったのは、すごい良い事だと思うんですよ。
北野:(爆笑)ちょっと、良いか? アニキ、戻れ! 普通に戻れ。掛かり過ぎや。
竹内:掛かってる(笑)?
北野:掛かってる。ゲートの中でチャカ付き過ぎや。
10年の時を経ても、オープニングからわずか2分足らずの間に、『サイキック青年団』の世界が再現されたことに、佐藤は目頭を熱くする。
(自分も、まだまだ、がんばらなアカンな……)
京都で繰り広げられた真夏の夜の夢を楽しみながら、彼は、これから自身の行く末に思いを馳せた。
さらに少し年齢を重ねた佐藤義徳が、男子学生の星野信之と出会うのは、もう少し先のことだ。




