第4章 サイキック少年団〜⑨〜
今井裕太郎の実家の金銭問題を抱えながらも、キング・オブ・ドライバーの二人は、劇場でのネタ披露や営業先での司会業を順調にこなして行った。
映画や音楽、スポーツ観戦など趣味の幅が広く、これまで大きな問題行動を起こしていなかった佐藤は、単独で仕事をする場面もいくつかあったが、少しでも相方の実家の借金の返済の足しになれば……と、自分一人の仕事でもギャラはコンビで均等に振り込まれるようにしていた。
この期間に、優勝賞金1000万円の年末の漫才グランプリも盛り上がっており、キンドラも、その大会に挑戦。準決勝の常連となっていたが……二人は、なかなか決勝進出という壁を越えられないでいた。
「来年で、コンビ結成10年になるし、それがラストチャンスやな」
「なんや、不安かヨシ坊?」
「いや、養成所の時かて、裕太郎の一年限定のチャンスで所属を掴んだんや。むしろ、オレらの一番の見せ場やろう?」
「うん、せやな」
そう強がった二人に、事務所側も、
「決勝進出を果たしたら、ラジオの冠番組を持たしたる」
と、期待を寄せたのだが……。
残念ながら、ラスト・イヤーも決勝進出はならなかった。
この年、優勝に輝いたのは、ストリート漫才出身のNON STYLEで、芸能事務所の養成所出身であることが、人気コンビになる必要条件でないことを示している。
そして、さらにその数カ月後、キング・オブ・ドライバーの二人にとって、漫才大会の敗退と同じか、いやそれ以上にショッキングなニュースが飛び込んできた。
2009年2月の平日のある日――――――。
関東ローカルのラジオ番組『ラジオビバリー昼ズ』で、メイン・パーソナリティが、関西ローカルの番組『サイキック青年団』が終了するらしいという情報を発信する。
続けて、『サイキック青年団』の番組放送を待たずに、週末には、ネットニュースで、
「ナニワの“長寿ラジオ番組”『誠のサイキック青年団』20年の歴史に幕をおろす」
という記事が掲載された。
◆ ◆ ◆ ◆
人気深夜ラジオ番組『誠のサイキック青年団』(毎週日曜 深夜1:00)が来月29日の放送を最後に20年の歴史に幕を閉じることが、21日(土)までにORICON STYLEの取材でわかった。関係者によると、番組自体は長年応援してきた“サイキッカー”(リスナー)への配慮から、今後他局への移籍やネットラジオを含めて「何らかの形で継続できるよう、現在調整中」(事務所関係者)とのこと。同件については今夜の放送内で正式発表するという。
◆ ◆ ◆ ◆
『サイキック青年団』が終わってしまう――――――。
その一報を目にしたキンドラの二人は、目を疑った。
「東京のラジオで、『サイキック〜』が終わるなんてウワサが流れてるって聞いたときは、またガゼネタやと思ったけど……」
ショックを受けて、そのあとの言葉を失った佐藤だが、今井は、それ以上に茫然自失して、しばらくの間、一言も言葉を発しなかった。
「なあ、裕太郎、聞いてるか?」
佐藤が声をかけると、相方は、ようやく「あ、あぁ……」と反応を返した。そして、今井は、
「番組、終わるんやな――――――」
と、つぶやいたあと、こう問いかけた。
「なあ、ヨシ坊。オレが『サイキック〜』を初めて聞いたときの番組の内容を覚えてるか?」
「えっ、なんや急に……ちょっと待てよ、いま思い出すから……たしか、プロレスの観戦方法について話してなかたっけ? 女子のプロレスの女性ファンは、ピンチでもないのに応援してるレスラーに対して、取り憑かれたように声援を送って、試合を見てない……虚空を見つめて、『一瞬、壺を売られるんかと思った』とか、そんなこと話してなかったっけ? そのあと、カルト宗教の霊感商法の話になって―――」
「そうや……さすが、ヨシ坊。よう覚えてるな。ウチのお婆ちゃんが借金を抱えた原因も、あのカルト宗教が原因やったんや」
「えっ…………?」
「実は高校生になった頃から、借金が膨れる傾向はあったみたいなんやけどな……それが、発覚した時期やったから、番組で霊感商法について批判してくれたときは、ホンマに救われるような気持ちになったわ」
「――――――そうか、そうやったんか」
高校生になったばかりの春、番組を聴き始めた頃のことを思い出しながら語る今井の顔は、徐々に、なにかの覚悟を決めたような表情に変わっていった。
そして、彼は、
「そろそろ、潮時なんかも知らんな……」
と、ポツリと語る。
「潮時って、なんやねん? どういう意味や」
相方の語るその言葉の意味を理解できない佐藤ではなかった。
ただ、彼は相方にして親友の発した、その言葉の意味をくみ取り、納得したくなかったのだ。
「どういう意味って、言葉どおりの意味やって。M−1のラストイヤーも終わってしまったし、目標にしてた『サイキック〜』も終わってしまう。なにより、これ以上、ヨシ坊に迷惑は掛けられへんからな」
「迷惑って、そんなんオレは別に―――」
「いや、知ってるって、ヨシ坊の単独の仕事も、オレにギャラが入るようにしてくれてるやろ? マネージャーの堀さんに聞いたわ。ヨシ坊、もうオレの実家のことは心配せんと、芸人の仕事を思いっきりやってくれ」
「芸人の仕事を思いっきりやれ……って、そんなん、裕太郎とコンビでやらんと意味ないやろ!?」
必死で引き留めようとする佐藤に、今井は、
「ゴメンな……オレ、もう色々と疲れたんや」
と言って、寂しそうに笑った。




