第4章 サイキック少年団〜⑧〜
佐藤と今井の同級生コンビであるキング・オブ・ドライバーのお笑い芸人としてのキャリアは、順調なスタートを切った。
これは、まだ設立されたばかりの事務所の養成所の存在をアピールする目的で、養成所育ちのニューフェイス(←今となっては死後)として、所属事務所がデビュー直後から、彼らをローカルテレビ局の人気番組に出演させる等の優遇措置を取っていたからでもある。
このことは、番組出演本数などの目に見える実態から、事務所からの期待や先輩や同期芸人からの嫉妬と羨望の眼差しという目に見えない圧力など、有形無形の様々なかたちで、佐藤と今井の二人に精神的プレッシャーを与えた。
(事務所のゴリ押しやなくて、なんとか、自分たちの実力で出演する番組に爪痕を残したい……)
いつしか、彼らは、そう考えるようになり、それが、朝の人気情報番組『おはようサンシャイン』のエンディング・コーナーでの『ピストル事件』に繋がってしまったことは想像に難くない。
年齢の離れた星野信之は、(彼自身が生まれる前の出来事だということもあり)このことをまったく知らなかった様子だが、この小さな事件は、お笑い芸人キング・オブ・ドライバーのウィキペディアのページにも、
テレビ出演:『おはようサンシャイン』(旭日放送)
リポーターとして出演。後に陸上競技のスターターを紹介するコーナーがあり、スターターが持って来ていたピストルをエンディングで今井がカメラに銃口を向けふざけたため苦情が殺到、スタッフにこっ酷く怒られそのまま降板となった。
と、キッチリと記載されていたりする。
『おはサン』の番組降板後、先輩や同期芸人たちは、
「面白かったで、気にすんなや!」
「若いんやから、まだチャンスはあるって」
などと、励ましてくれたが、彼らの本音が、
「ざまあみろ!」
「その空席になったレギュラー枠を取ったるわ」
ということだったことも、これまた言うまでもない。
さらに、この一件以降、キング・オブ・ドライバーは、所属事務所から、
「あいつらをテレビ出演……とくに、生放送の番組に出演をさせるのは危ない」
と、危険視されて、メディアへの露出が減り、舞台や営業先での司会業が彼らの仕事の中心になって行った。
ただ、彼らの漫才ネタは、同世代に向けた時事ネタを中心にしたものであったため、養成所の同期たちや若者の観客が多い小さな劇場では受けたものの、事務所が持つ上方演芸の殿堂である角座の客には、客層の違いから受け入れられなかった。
客席から、まったく笑い声が聞こえないことに落ち込んだまま舞台を降りると、二人を叱咤激励するように声をかけてくるベテラン芸人がいた。
「ビクビクすんな! ちょっとウケへんからって、落ち込まんでえぇ! 堂々とせい!」
彼らを励ましたのは、三代目平和ロッパ・六代目木佐丸というベテランコンビの木佐丸だった。
「兄さん、ありがとうございます……」
涙ぐみながら答える二人に、
「気にせんでえぇ! 明日からは、しっかりやりや」
と言葉を返した木佐丸は、翌日、借金を苦に失踪し、ロッパ・木佐丸のコンビは、そのまま解散となってしまった。
そして、こうした金銭問題は、ベテラン芸人の師匠方だけでなく、キンドラの二人にも影を落とすようになる。
養成所時代の入学一年目から、仕事が入り始めた二年目、三年目になっても、国公立大学に進学した今井裕太郎は、続けて大学に通っていたのだが……。
四年目を迎えたある日、彼はなにげなさを装いながら、佐藤にこう告げた。
「仕事も忙しくなってきたし、大学は辞めることにしたわ」
相方の一言に戸惑いながら佐藤は問いかける。
「なんでや? せっかく、四回生まで進級してるのに……あと、一年やしキチンと卒業しとけや。それに、今の仕事は、舞台中心で去年よりも時間の余裕はあるやろ?」
「その仕事が減ったせいで、ギャラも減ったやんけ! それもこれも、オレが『おはサン』でやらかしたことが原因や! だから、責任を取らなアカンねん! もう決めたことやから、口出しせんといてくれ」
一方的に会話を打ち切った今井は、それからすぐに通っていた国公立大学に退学届けを出してしまった。
実は、彼の実家は、ある理由で深刻な金銭問題に直面していたのだ。佐藤自身が、相方のこうした問題の内情を知るのは、それから、しばらく経ってからのことだった。
それは、船上パーティーの司会の仕事をした時のことだ――――――。
これまで、『おはサン』のピストル事件のように、コンビとしての爪痕を残そうと、たまに無茶な行動を取ることはあったが、仕事に穴を開けたことは無い今井が、集合時間に遅刻したのだ。
出港時刻を過ぎて、洋上に出たクルーズ船では、佐藤が一人で司会の仕事をこなそうと準備を始めていた。
そのとき、漁船を乗り継いで、今井が必死で追い掛けてきている姿が目に入った。
「おまえ、良い相方を持ったな……」
ステージでトリを務める庄司敏絵・玲司の玲司師匠は、感慨深げに佐藤に語り、彼らのコンビ愛を称えたのだが……。
営業の仕事が終わったあと、
「絶対に怒らへんから、なにがあったのか、ホンマのことを聞かせてくれ」
と、遅刻の理由を問う佐藤に、今井は、観念した様子で遅刻した理由を語った。
「オレの実家な……お婆ちゃんが霊感商法に引っかかって、大きな借金があるんや。今日は、その返済に動いとって集合時間に間に合わんかった。ホンマに申し訳ない」
目の前で土下座をして謝る相方にして親友の姿を見ると、彼を抱えながら、涙ぐまずにはいられなかった。
「アホか……そんなん、おまえのせいやないやろ」
「けど……」
「ふたりで仕事がんばって、返さなあかん金は返して行こう。オレらには、『サイキック〜』みたいなラジオを二人でやるっていう目標があるんやから」
佐藤の言葉に、今井はうなずきながら、
「そうやな……がんばらなあかんな」
と応えたのだが……。




