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第4章 サイキック少年団〜⑦〜

 3年生に進級し、最初の進路希望調査が行われたとき、佐藤は思い切って今井に声をかけてみた。


「なあ、裕太郎。オレ、本気でお笑い芸人を目指したいと思ってるんやけど……おまえは、どうすんの?」


 相手の出方をうかがうように、「おまえは、どうする?」と、たずねてみたものの、気持ちとしては、当然、相方からの、


「オレもやってみたい! 一緒にやろう?」


という言葉を待っていた。


 ところが――――――。


「オレは、進学やな。先月の模試で志望校の神戸大がB判定やったから、もう、ちょっとがんばろう、と思ってるところ」


 自分が相方だと思っている相手からは、高校3年生として、至極まっとうな答えが返ってきた。


「あ、あぁ、そうか……そうなんや……裕太郎、成績イイもんな。神大(しんだい)か、がんばってな」


 力無く笑いながら答える佐藤に対して、今井は、不満そうな表情でたずね返す。


「どうしたん? 今までみたいに、『真顔で普通のこと言うな!』ってツッコミも入れんと……」


「い、いや……裕太郎は、真面目に進路のこと考えてるんやなって思って……」


「自分の将来のことやから、当たり前やろ? 大学くらいは出とかんとな。特にオレは、()()()()()()()()から」


「そうなん? だから、国公立大にするんか?」


「それもある。県内の大学の方が通いやすいし。神大の経済系の学部なら、就職にも有利らしいしな」


「あぁ、そうなんや……」


 親友は、目の前の進学だけでなく、その先の就職活動についても真剣に考えているということがわかり、自身の考えの浅さに、佐藤はそう答えるのが精一杯だった。

 

 ただ、今井裕太郎という男子生徒と出会ってから、おぼろ気ながら考えはじめた自分自身の夢が、あっさりと潰えてしまったことに落胆の色が見える佐藤義徳に対して、親友は珍しく、もったいをつけるような感じで、


「それとな……」


と、言葉を付け加える。友人の言葉に反応した佐藤はたずね返した。


「どうしたん? 他になにか理由でもあるん?」


「あぁ、地元にいたら、こんな養成所にも通いやすいと思ってな……」


 そう言って、今井は、A4サイズの冊子を取り出す。

 それは、お笑い芸人が所属する事務所の養成所のパンフレットだった。


「裕太郎、これは―――?」


「うん、芸人の養成所の案内やで。このパンフレットを見ると、お笑い芸人のコースは、火曜日の夜と土曜日の午後の授業。あとは、選択するコースによっても変わるみたいやけど、多くても毎月8回くらいのレッスンに通うだけやから、大学に行きながら通えると思ってな……」


「ほんじゃ、裕太郎……!」


「あぁ、オレもヨシ坊から、いつ『一緒に芸人を目指そう!』って声が掛かるか、気になっててん。それで、大学のついでに、お笑い芸人の養成所についても調べてたら、資料請求できたからな。親に見つからんと隠しとくのが大変やったわ」


 この時代、まだインターネットが一般社会には普及していなかったので、高校生が情報収集を行う手段は限られていた。その中でも、親友が同じお笑い芸人の道について、真剣に考えてくれていることに、佐藤は感動した。


「ありがとう……そこまで調べてくれてたんやな……オレは、裕太郎の許可を取ってから、一緒に養成所のこととか、調べようと思ってたから―――」


「それじゃ、遅いって、オレたちもう高三やで?」


「そ、そうやな……」


 いつものボケとツッコミが逆転した感じで、会話を続ける二人は、親友が持ち込んだパンフレットをじっくりと読み込む佐藤の、


「このあと、図書室に行って、二人で今後のことを相談せえへんか? せっかく、裕太郎が、良い資料を持ってきてくれたし…」


という一言で、昼休みに行う恒例のトークタイムを中止して、図書室に移動した。


 昼休みの図書室で、人気の少ない席に陣取った彼らは、パンフレットに目を通しながら、養成所での活動をシミュレートする。


 二人が額を寄せ合って視線を送る資料を作成した芸能事務所の養成所は、こんなステップを踏む流れになっていた。


 養成所入所(4月)

 ↓

 レッスン(ネタ見せ、リポート、ボイストレーニング、トーク等の基礎的な講座)

 ↓

 毎月のライブ出演権をかけてネタ作り

 ↓

 卒業公演(3月査定ライブ)で結果発表

 ↓

 結果により事務所所属


「事務所所属までの勝負は、一年ってところか?」


「まあ、時間を掛けるもんでもないやろうし……結果が出ないなら、すぐに他の道を探したほうが良いってことやろ? どっちみち時間があんまり無いオレにとっては、すぐに結果が出る方が好都合やわ」


「そうやな」


「ヨシ坊、あらかじめ言うとくけど、一年で事務所に所属できへんかったら、オレは、この道をあきらめて、大学で就職先を探そうと思ってる。それでも良いか?」


「OK! 結果が出ないなら、すぐに他の道を探したほうが良いってのは、裕太郎の言うとおりやろう? 望むところや」


 こうして、高校卒業後のプランを立てた佐藤義徳と今井裕太郎の二人は、翌年、一人はアルバイトと養成所、もう一人は志望校だった国公立大学と養成所という、それぞれ二足のワラジで活動しながら、キング・オブ・ドライバーというコンビを結成し、見事にその年のトップの成績で事務所所属の栄誉を勝ち取るのだった。

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