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第4章 サイキック少年団〜➃〜

「聞いてみたで、『サイキック青年団』!」


 月曜日の朝、今井裕太郎は登校して来てすぐに、佐藤に声をかけてきた。


「おう! 寝不足気味のその顔は、録音無しで聞いたんやな?」


「うん、番組が始まる前に寝そうになってたけどな……けど、番組が始まったら、トークが面白くて寝てる場合じゃない、って感じになったわ!」


 今井の語るとおり、日曜日の深夜1時(もしくは、それよりも遅い時間帯)に始まる『サイキック青年団』を録音せずに聞くのは、当日の睡魔と翌日の睡眠不足との戦いでもあった。


「まあ、あの時間帯に始まる番組を薦めてしまったことには、オレも責任を感じてるけど……それで、どうやった? 『サイキック〜』を初めて聴いた感想は?」


「あぁ、めっちゃ面白かったし、共感する部分もあったわ! 『よくぞ言うてくれた!』って感じでな」


「そうか〜! それは良かった。どんなところが面白くて、共感できたん?」


「えっと……共感って言うか……そうやな、面白かったところは……ゲストの大槻ケンヂやったっけ? あの人が、円広志の番組に出たときに厳しい対応をされたって話してるところかな? 普段のテレビでは、気の良いオッチャンって感じやけど、あんなキツい一面があるんやなって……」


「あぁ、円さん、いまはもうミュージシャンよりも、関西ローカルのバラエティ番組の人ってイメージやもんな。ミュージションには、キッチリとマウントを取りに行くところとか、音楽家としてのプライドが垣間見えて、たしかに面白いよな」


 二人が語っているように、前日の放送では、北野誠&竹内義和の二人が、プロレスファンの観戦方法に関する考察からカルト宗教の霊感商法について語ったオープニング・トークのあとには、ロックバンド筋肉少女帯のボーカルを務める大槻ケンヂが番組のゲストに招かれ、新曲のキャンペーンやテレビのバラエティ番組に出演する際のミュージションなりの苦労話が話題に上がっていた。


「あと、その時にさ、北野誠がバラエティ番組の出演者の役割とかについて話してたやん?」


「あぁ、クイズ番組の解答席の席順で、役割分担が決まってるって話やろ? 5番目の席はボケ役を求められるから、回答で上手くボケな仕事がなくなるみたいな……」


「そうそう! あぁ言うテレビの裏側みたいな話を聞けるって、すごい新鮮やわ」


「まあ、そんなバラエティ番組の裏事情なんて、普通は誰も語らへんからな。でも、芸人さんが、どんなことを考えて、瞬時にボケを繰り出してるのかってことが理解できるよな」


「そう、それな! いや〜、勉強になるわ〜」


「勉強って、なんの勉強やねん! 少なくとも、学校では必要ない勉強やろ?」


 佐藤が、笑いながらツッコミを入れると、目を丸くした今井は、興奮した様子で嬉しそうに答える。


「そうそう、そういうツッコミが欲しいねん。昨日の番組でも言うてたやろ? ボケが一番ツライのは、『ボケがスルーされること』やって」


「まあ、ツッコミを入れるのは、『ボケを拾う愛情』って言うてたな」


「そうやねん、オレ、普段は自分でボケたつもりでも、イマイチ拾って貰われへんことが多いねん。だから、いま『なんの勉強やねん!』って、ツッコミを入れてもらえて嬉しかったわ」


「いや、いまの狙ったボケのつもりやったんかい! わかりにく過ぎるわ! デビッド・リンチの映画くらい、わかりにくいわ!」


 令和の時代になった現代では、テレビの視聴者が、バラエティ番組や漫才のネタに関する考察を行い、その内容をSNSや動画などで披露することも少なくないが、平成初期のこの頃は、まだ一般の視聴者がそうした分析を自ら行うことは少なかった。

 お笑い番組の構造を考察して分析する、こうした、サブカルチャー的な側面もまた、『サイキック青年団』という番組の特色だった。


 こんな会話を交わしながら、高校生の佐藤は、仲良くなったばかりのクラスメートについて考える。


(今井は、シュッとしたイケメンに見えるから、ボケるタイプとして見てもらわれへんのかな……?)


 彼が考えるように、隣の席に座る男子生徒は、眉が太く濃い感じの佐藤自身とは異なり、切れ長の目をして顎が細く、シャープな印象を与える輪郭で、いかにも女子生徒にモテそうな顔立ちをしていた。

 実際に、入学式からわずか数日の間に、クラスの女子から、「今井くんと同じクラスで良かった!」という声が上がっているのを佐藤は耳にしたことがある。


「今井、そのイケメンぶりが、ボケのセンスを邪魔してるんかも知らんな? 今井が望むんやったらの話やけど……オレで良ければ、いくらでもツッコミ役になるで」


 佐藤が、そう提案すると、今井は、「ホンマか!?」と言って目を輝かせる。


「そしたら、これからはオレに思いっきりツッコんでくれ!」


「いや、その発言はヤバいやろ!? 朝から下ネタは止めとけ」


 今井裕太郎が、『サイキック青年団』というラジオ番組を初めて聴いた翌日、こんな会話を交わした彼らは、これまでの数日以上に意気投合し、高校生活を通して、友情を深め合うようになる。


 ただ、このときの佐藤は、まだ気づいていなかった。彼らの周囲で、一部の女子生徒が、


「今井くん、隣の席の佐藤に『これからはオレに思いっきりツッコんでくれ!』って言ってたよ」


「やっぱり、今井くんって『受け』だったんだ……『攻め』もアリかと思ったけど、相手が佐藤なら、それは無いか」


という謎の会話を交わしていたことと、今井が感想を口にしたあと、どんなところに共感したのか問い返した際に、困惑しながら、少しだけ話題を反らした、という事実に……。

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