第4章 サイキック少年団〜③〜
「そんなに気になるなら、いっぺん、番組を聞いてみるか?」
高校入学直後のうららかな春の季節にまるで相応しくない話題を披露しながら、佐藤は、無垢な一般人を怪しげな会合に誘うカルト宗教の信者のような口ぶりで勧誘を行う。
「わかった! じゃあ、『サイキック』を聞いてみるわ!」
入学式の日から週末までの数日を掛けてたっぷりと情報を与えたためか、金曜日の放課後、今井はそう言って帰って行った。
今井が、初めて番組を聞いた日、『サイキック青年団』は、冒頭からプロレスファンの観戦の仕方について、男女の違いを比較するかたちで持論を展開していた。
竹内:男のプロレスファンってのは、技を決めに行く瞬間とかでしょ? 声が出るのは。
誠:それと同じでしょうね。
竹内:応援とかって言うのも。ココって言うときしか声は出ませんからね。
誠:立ち技で来た時に、「ガンッ!」ですからね。
竹内:女性の場合は、触れられただけで声を出すような感じですからね。
誠:やっぱりね、ぜんぜん違うんでしょうね。ただ、あの応援の仕方は、オレらは、ぜんぜんな馴染めんな、と……なんかね〜、試合に集中できへんのよ。
竹内:応援してる人たちね、二階席でいましたでしょ? 女の子の集団見てましたけどね。あのリング見てる人て、ほとんどいないんですよ。
誠:そうやねんなぁ。
竹内:なんかね。虚ろな目で宙空を見てるような目で応援してるんですよ。
誠:なあ、「ち・ぐ・さ! ち・ぐ・さ!」ってなぁ?
竹内:取り憑かれたように、なんか……。
誠:なあ? まあ、わからんでもなんやけど(苦笑)
竹内:ボク、一瞬、壺を売られるんかと思いましたもん。
誠:あぁ、そうですか。そしたら、わざとらしく右足に包帯を巻いてたんちゃいますか? あとな、怪しげな壺を売る宗教に言うとかなアカンわ。あの牧師がなんでこんなビラ配ってんねんな? 「牧師による人権侵害を許すな」って。
竹内:あっ、これ、その宗教が配ってるビラですね?
誠:そう! 「脱会を迫られる信者。TBS、週刊文春は信教の自由を守れ!」
竹内:うん、ね。うんなんかね、よう言うたみたいなね。
誠:よう言うたなお前な。ほな、まずな、高い壺を買った人に壺の正当な値段を言うて、お金返してあげなさい差額を。
竹内:差額をね。うんうん。
誠:お前ら、いっぱい色んなやつ連れてきてやな、洗脳ビデオ見せてやで? お前らのがずっと人権侵害してきたんちゃうんか?
竹内:うん結構ね、ブレインウォッシュという行いをしますからね。
誠:なあ? それじゃ、だからね君とこもやね、その宗教に言っときますけども。
竹内:はい
誠:別にええのよ? オレは、構へんのブレインウォッシュしようが、何しようが。そんなことは心境の自由やとか宗教の自由は構わないでしょ。
竹内:うん、まあ。はい。個人的なもんですからね。
誠:そんなんは、全然かめへん、そんなんは。全然かめへんけど……要は、その壺を売った霊感商法だけをきっちりしときなさいよ、言うんよ。
竹内:そうやね、うん。珍味もね。
誠:いや、珍味はね。珍味は許したろう?
竹内:いや、オレが珍味を許されないのは、またウチに来たんや、珍味が……で、またウチのお袋は買いよったんよ。
誠:買ったんや?
竹内:なんか、かわいそうな人やったんやて。北海道から来てな。北海道から来てもう、いま帰るとこもないねんと……寝泊まりするお金が欲しいから買うてくれて言われて5000円出して珍味を買うてるわけ。
誠:はいはい。
竹内:それで、よ? 5000円どんな、ものすごい珍味かなと思ったわけ。オレ北海道から来てるから5000円も出したらな、紋甲イカの丸作りみたいな、なんかものすごいもんかなと思ったら、なんかこんなね、ものすごい小さい。なんか山城新伍の顔シールを付けて売ってる珍味あるじゃないですか?
誠:いや、山城新伍さんに誤解を招くような言い方は……(苦笑)
竹内:いや、実際に売ってるんですよ、あの人は正規の値段でね。200円くらいで。
誠:はいはいはいはい。
竹内:これのどこに5000円の値打ちがあります?
誠:そうやんな? それを入会してる芸能人からしたら、買った方が悪い。
竹内:そら、そうかも知らんけどね? なぜ買ったかと言えば、北海道から来ましたと言うことでしょ? あれ絶対、北海道から来てませんよ?
誠:うんうん。それで、体の弱い人とか子供さんを急になくされたお母さんが、家で泣いておられる時にそれは先祖の霊の祟りやと言って壺を売って200万とか300万で売ったことが、「買った人が悪い」なんて、どの口で言えんねん、お前? って話ですよね?
竹内:そらそう。
誠:ま、それがね百歩ゆずってね、ボクらこういうの見ててさ、「壺を買わされた」と、「カネ返せ」て言うてる人を見てね、「そら買うたお前も悪いんちゃうか?」と言う場合があるじゃないですか? 第三者が言うのは、まあいいとしても売った本人が言うたらいかんわな?
このように、プロレスの観戦方法に関する考察から、カルト宗教の霊感商法に言及する流れは、現在の推し活とカルト宗教の信徒に類似点を見出す識者の見解とも一致するだろう。
こんな感じで、クラスメートになったばかりの男子生徒が初めて『サイキック青年団』に触れた日のトークは、宗教に関わる話題が出たのが……。
週が明けた月曜日、今井裕太郎は、寝不足と興奮が混ざった異様な表情で佐藤に話しかけてきた。




