第3章 塚口サンサン劇場の逆襲〜⑨〜
マサラ上映が好評となり、それに派生して盛り上がりを見せた各種の応援上映などで、映画ファンから『聖地』と認識されるようになった塚口サンサン劇場。
そんなファンから愛される劇場も、世界的な災厄とは無縁でいられなかった。
それは、『ジョン・ウィック パラベラム』『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』そして、『HiGH&LOW THE WORST』などの応援上映を行った2020年1月――――――。
日本でも、新型コロナウイルスの感染者が出たことが発表された。
2月の中旬頃になると、その感染症はパンデミックの様相を見せはじめ、片渕須直監督が来場する『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の舞台挨拶の開催が危ぶまれる事態となる。
それでも、舞台挨拶の回は早々と満席となり、当日は監督自らが車を運転して来場するという熱の入りぶり。
ただ、このことからもわかるように、この時期から、新たな感染症は、劇場運営にも影を落とし始める。この後は、日々変わる状況の変化に戸惑いながらも何とか営業を続けていくことになった。
当面の番組編成も組んでいくのが難しい状況になるなか、当初の番組編成の予定通りに進んでいくことが困難になり、急な上映変更を余儀なくされる。
そんな中、音にこだわる映画館らしく、『サウンド・オブ・ミュージック』『T−34 レジェンド・オブ・ウォー ダイナミック完全版』『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』など、音楽や音響に特徴のあるラインアップを提供する。
しかし――――――。
3月に予定されていた『T−34』のマサラ上映、『ヘヴィ・トリップ〜』の応援上映は、感染拡大予防のため、苦渋の判断ながら中止となった。
さらに、春休みの恒例上映作品であるファミリーアニメ『映画ドラえもんのび太の新恐竜』は、作品の上映そのものが全国的に延期となってしまう(そんな中でも、逆に塚口らしさを維持しなくては……と、《史上最低の映画》としてカルト映画の不滅の地位を確立している『死霊の盆踊り』と《史上最低の映画監督》と呼ばれたエド・ウッドの代表作『プラン9・フロム・アウタースペース』を上映するところが、この劇場らしい)。
そして、3月が終わり4月に入る頃には、映画館がどうこうという話ではなく世界中が大変な時期になっていく。
政府の緊急事態宣言を受けて、塚口サンサン劇場も4月8日より劇場を休館することになった。
本来なら、兵庫県からの自粛要請を受けてから判断すべきだが、この劇場は市外、県外からの来客も多いため、すぐに休館の判断をしたのだ。
それまでも、できる限りの感染予防対策を講じていたし、映画館は、もともと換気が徹底されている施設ではあるのだが……。
「劇場までの道中にお客様にもしものことがあっては……」
と、早い段階で休館を判断した。
映画を楽しみにしている観客には、心苦しい案内となった。
映画館として、映画を見たいという方々に映画を見てもらえないことは残念でならないし、劇場運営を考えると重い判断ではあったが、あの時は何よりも観客とスタッフの安全を最優先するべきだと考えた結果だ。
休館中に何をしていたかと言うと、とにかく情報を発信し続けようと思いました。それは、この『tabloids』でも書きましたが、昔に西灘劇場と西脇大劇を閉館させた経験が大きかったと思います。
「もしも映画館からクラスターが発生してしまったら……」
サンサン劇場だけでなく、社会と全国の映画館に迷惑を掛けしてしまう……そんなことになると事態が収束しても、今以上の厳しい状況に置かれることは想像に難くない、と劇場スタッフは考えていた。
こうしてサンサン劇場が休館となった間、都村は、情報発信を途切れさせることがなかった。
それは、過去に彼が西灘劇場と西脇大劇を閉館させた経験があったからだ。
特に西脇大劇は、大型台風による水害に被災したことで休館を余儀なくされ、再開した時にはすでに忘れ去られた存在となっていた苦い思い出が強く頭に残っていた。
そこで、いつも来場している人、この期間にサンサン劇場初めて知った人、そして、地元の人々に向けて
「塚口サンサン劇場は相変わらず元気にしている」
ことを、劇場前にメッセージという形で毎週出すことにした。
旧Twitterでそのメッセージを見てくれる人、そして劇場の前を通る人たちが「休館してるんじゃなかったけ?」と思ってもらえるように毎週水曜日に更新を続けた。
塚口で盛り上がった作品から選んで、その作品の台詞をもじったメッセージにしたのだ。
そして、迎えた5月の下旬――――――。
「少しお休みもしたけれど、塚口サンサン劇場はげんきです。」
「また、素敵な映画をおとどけします。」
「6月1日(月)より再開します。」
『魔女の宅急便』のキャッチコピーをもじったメッセージで、劇場再開が告知された。
そして、約二ヶ月ぶりの上映再開当日――――――。
シャッターを開けると、劇場前には、朝から来場客が並び、オープンと同時に拍手が湧いた。のだが……。
休館期間が長かったためか、なんと、劇場券売機が故障して自動発券ができない、というトラブルが発生。
やむなく、手書きでチケットを用意し、スタッフ総出で対応に追われるという事態になった。
その劇場再開の日に駆けつけた佐藤は、そんな状況を楽しみながら、
「こういうところが、サンサン劇場らしいですね」
と都村に笑いながら語りかけた。
こうして、コロナ禍をも乗り越えた塚口サンサン劇場は、マサラ上映、応援上映の聖地として多くの映画ファンに愛され続けている。
そんな劇場の変遷をそばで眺めていた観客から、久々に劇場を訪れるという連絡があった。
日頃から映画を観賞しに来た観客との会話を大切にしている都村は、連絡をしてきた、その男性客の来訪を楽しみにしていた。




