第3章 塚口サンサン劇場の逆襲〜⑧〜
最初のマサラ上映が大成功を納めたあと、サンサン劇場では、月に一度のペースでインド映画のマサラ上映、さらにアニメや特撮映画の応援上映を行うようになった。
また、大型の商業施設に入る映画館のように高価な上映機材を導入できない中でも、「音」にこだわり、有名音響監督の協力を得て、この規模のスクリーンを持つ映画館としてはオーバースペックなスピーカーを兼ね備えた劇場となっている。
音響面での武勇伝としては、
・『ガールズアンドパンツァー』の上映時、同じ建物にある銀行まで振動が響く。
・『BLAME!』での「重力子放射線射出装置」が発射されるとあまりの重低音に劇場全体が揺れる。
・『ボヘミアン・ラプソディー』では「We Will Rock You」のシーンで3階のショッピングコーナーまで振動が響き、同じ時間に来るので店員さんが時報代わりにしていた。
などなど枚挙に暇がない。
それでも、銀行やショッピングセンターはもとより、騒音のことで近隣の住宅からも苦情が来たことは無いそうで、このあたりにも塚口サンサン劇場が地域密着で愛される存在であることがうかがえる。
こうした特色ある上映ラインナップを外部発信に役立つのが、SNSのX(旧Twitter)の活用だ。
旧Twitterで情報発信を始めたのは、2011年8月。
『電人ザボーガー』上映の三か月前のことだ。
SNSの利点は、リアルタイムで上映情報を発信することができることにある。
セカンド上映を多数組んでいくことで、ギリギリで番組が決まることもよくあるサンサン劇場にとって、これは、ありがたいツールだった。
最初は、映画情報やイベントのお知らせを伝えるだけだった旧Twitterだが、だんだんと二つの活用を見出し始めた。
一つは、『段階的な情報拡散』。
『段階的な情報拡散』とは、要するに少しずつ情報を発信していくということだ。
「今度、ある面白いことを発表します。お楽しみに」
といった内容を先出しし、そのあとに少しだけ情報を出す。そして満を持して、決定情報を発表する。
例えば2015年8月の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のイベント上映時は、まず7月22日に、
「フツフツと煮えたぎる【MAD】を腹の底に溜めておくように」
とツイートした。
そして8月6日に、
「関西のウォーーーーボーーーーーイズ!!! 明日8月7日の夜にイモータン・ジョー様よりMADなお言葉が発せられるぞーーーーー!!!!! 聞き逃すのでないぞーーーーーーー!!!!!」
と投稿。
「絶対『マッドマックス』のイベントがあるんだ!」とファンの期待を高めた後で、翌8月7日に、
「カモン! ウォーボーイズ! 8月22日の20:15より『「マッドマックス 怒りのデスロード」Screaming“MAD”上映』開催決定! 立て! 叫べ! クラッカーを打ち鳴らせ! “V8!V8!V8!”の声を塚口の空にとどろかせよ!」
とイベントのお知らせを流した。
また、それぞれのツイートに反応するファンにも丁寧に引用リツイートで対話をつづけ、当日の開催まで盛り上がりを作った。
塚口サンサン劇場のこうした段階的なツイートは、映画ファンの想像力を刺激することに一役買っている。
「ひょっとしてあの作品が……?」
「もしかするとあれをかけてくれるかも」
と想像しながら、ファンに期待を高めてもらうことが、映画館に訪れる前からの楽しみを作っているのだ。
そして、もう一つの特徴が、「来場予定の観客とのコミュニケーション」だ。
劇場ファンの「こんな作品を上映してほしい」という要望の投稿があれば、「検討リスト入ってます」などの返事を返す。
ほかにもサンサン劇場を訪れた感想のツイートがあれば、検索して感謝を投稿する。
自分の要望の作品が検討リストに入って後日上映されることになったり、来場したことに対する感謝のことばがあれば、やはりそれはうれしいものだ。
そこで生まれるコミュニケーションは、ファンにとっても映画館を訪れる前から親しみを覚えることにつながるし、引用リツイートで会話をすることで他のフォロワーにも可視化され、より多くの人との「イベント感」をSNS上に作ることができる。
さらに、サンサン劇場でのマサラ上映や応援上映のイベントに対しては、いまやアイドルやアニメキャラクターの推し活でもお馴染みになった、
「このイベントではこんなコスプレで行こうかな」
「こんな企画も面白いですね」
といった観客発信のアイデアが自在に飛び交うのが恒例の風景になっている。
それが都村をはじめ、サンサン劇場のスタッフにも刺激を与えているし、この劇場の流儀のとして、
「その予想をさらに上回る楽しさを提供しよう」
という気概があることが、良い相乗効果を生んで、さらに新しい企画が生まれる――――――。
そんな劇場の変遷をそばで眺めていた観客から、久々に劇場を訪れるという連絡があった。
日頃から映画を観賞しに来た観客との会話を大切にしている都村は、連絡をしてきた、その男性客の来訪を楽しみにしていた。




