第3章 塚口サンサン劇場の逆襲〜④〜
この頃、塚口サンサン劇場では、旧Twitterで上映作品の告知を始めていた。
そして、このソーシャル・メディアで、『電人ザボーガー』の上映決定の告知をツイートしてから、劇場がこれまで経験したことのないことが起こるようになった。突然、電話での問い合わせが増え始めたということもあるのだが……。
都村たち劇場スタッフを驚かせたのは、何よりもその内容だった。
「あの……『電人ザボーガー』を上映すると聞いたのですが――――――」
電話を掛けてくる人々の第一声は、みな一様にこんな感じだったのだが、その後の言葉は、当時の劇場スタッフが予想もしていないものだったという。
「近くに泊まれるホテルはありますか?」
「新大阪駅から劇場の最寄りの塚口駅までは、どうすれば行けますか?」
「伊丹空港から塚口までは、タクシーと電車、どちらが早く着きますか?」
そんな質問を受けて戸惑うスタッフからの報告は、都村をさらに困惑させた。
(もしかして、佐藤さんと冗談で言い合ってたことが現実になってる―――?)
日本全国から遠路はるばる、塚口の地に『電人ザボーガー』を観に来てくれるなどということが、本当にあるんだろうか?
「これはもしかして自分たちの知っている『電人ザボーガー』とは別の『電人ザボーガー』があって、問い合わせをしてくる人たちは、その『電人ザボーガー』と勘違いされているのではないだろうか?」
と、わけのわからない事を真剣に考えてしまう程だった。
このように、都村自身も、問い合わせの内容に対して半信半疑ではあったものの、この不可解な現象について、彼には、ひとつだけ、
「もしかしたら――――――」
という心当たりがあった。
それは、『電人ザボーガー』が35mmフィルムで上映されることだ。
先にも記したとおり、2011年の段階で、劇場上映システムのデジタル化が進んでいなかった塚口サンサン劇場は、デジタルメディアによるスクリーン上映が不可能だったのだ。
配給会社の最初の回答は、
「『電人ザボーガー』には上映素材がブルーレイしかありません」
というものだったという。
万事休す――――――。
そう思ったのだが、数日後、1本だけ試写用の35mmフィルムがあることが判明する!
さらに、デジタル上映を含めて、この時『電人ザボーガー』を兵庫県で上映するのは塚口サンサン劇場のみということも判明。
こうして、
「全国で唯一、デジタルでなくフィルムで『電人ザボーガー』を上映する映画館」
が、塚口の地に現れることになった。
「こうなったら、もうやるしかない!」
スタッフ一同のテンションも上がる。
そして、『電人ザボーガー』の上映が始まると、本当に全国から観賞客が集まってきた。
当時、旧Twitterには、こんなツイートが投稿された。
「いまから塚口サンサン劇場に行きます!」
投稿に添えられた写真には、東京駅が映っている。デジタル素材で『電人ザボーガー』が上映がされている東京からも来訪する人がいるなんて……。
東京駅から兵庫県の塚口駅までは、どんなに早くとも、新幹線と在来線さらに阪急電車を乗り継いで、およそ3時間。
「いや、さすがにそれは無いでしょ。北海道やったら、東京のほうが近いやん」
いくらなんでも、東日本からサンサン劇場を訪れる客はいないだろう―――。
佐藤の冗談半分のツッコミを凌駕する自体が起こり始めていた。
デジタル映写機がなかったことが呼び込んだ偶然が生んだ、
「全国でただ1館、『電人ザボーガー』がフィルムで観られる映画館」
という独自性は、それほど往年の特撮ファンを惹きつけた。ザボーガーは、フィルム上映との相性が良かったのだ。
「往年の特撮は、ブラウン管で観ていたファンも多かった。その画面の感じが、フィルムの質感とマッチしたんだろう……」
当時を振り返って都村はそう考える。そして、
「塚口はまだ見捨てられてなかったんだ…」
劇場スタッフが、感動に打ち震える毎日が続いた。
そこで、
(せっかくお越しいただいた方々に、何かお土産的な物をご提供できないか……)
と都村が考えていたところ、ある日突然、女性スタッフの一人が、
「顔出しパネルを作りたい!!」
と言い出した。
「おい! どうした? どうした?」
都村は、最初にそう思ったものの、面白そうなので、手作りの顔抜きスタンディの制作を彼女に任せた。
地上階の受付でチケットを購入し、階段で地下の劇場に降りていくと、ポーズを決めるザボーガーと、その隣には顔の部分をくり抜かれた主人公・大門豊の姿が!
これが、後に語り継がれる伝説の顔出しパネルだ。
都村との約束どおり劇場にやって来て、その顔出しパネルを目にした佐藤は、ふたたび、腹を抱えて笑いだし、買ったばかりのスマホで、何度もシャッターを切った。
「お久しぶりです、佐藤さん。ザボーガーの予想外の反響に驚いてます」
声を掛ける都村に応じた佐藤は、嬉しそうな表情で答える。
「このパネル、スタッフさんの熱をめっちゃ感じますね! 芸人なんで、こういうノリ、僕はメチャクチャ好きですわ!」
「お客さんにそう言ってもらえて、自分たちスタッフも嬉しいです」
「いや、僕らの方こそ……Twitterのハッシュタグとか追ったら、ザボーガーのファンの人たち、メチャクチャ熱いじゃないですか! 東京から来たお客さんも居るみたいやし……『北海道やったら、東京のほうが近いやん東日本から、わざわざ塚口に来る人がいたら、有馬記念でダイユウサクが勝つくらいの衝撃ですわ』って決め打ちしてしまった僕の完敗ですわ」
「いえいえ、自分たちもビックリしてますから―――佐藤さんと冗談で話してた『近くに泊まれるホテルはありますか?』『新大阪駅から劇場の最寄りの塚口駅までは、どうすれば行けますか?』『伊丹空港から塚口までは、タクシーと電車、どちらが早く着きますか?』全部、電話で問い合わせがありましたよ」
「ホンマですか……? どんだけ熱いねん、ザボーガーのファン」
佐藤は、そうつぶやいて、笑ったあとこう続けた。
「けど、僕が、いちばん嬉しいのは、サンサン劇場のスタッフさんたちが、僕ら映画を観に来たファンの熱にこうして応えてくれることですわ。Twitterで、このザボーガーの顔出しパネルを観たら、リピーターの人も増えるんちゃいますか?」
「そうなってくれると嬉しいですね。パネルを作ったスタッフも報われると思います。この前、佐藤さんが言ってくれましたよね? 『観たい映画があって、そこでしか上映してなかったとしたら、滋賀でも和歌山でも観に行きます』って……ホントに、そうなんだって、あらためて実感しました」
「そうですよ! 僕、21世紀になって十年以上経ったいまでも、ロードショー上映が終わってしまった映画の上映館を必死になって探しますもん。絶対、劇場で観たい映画ってありますからね! そん時の映画ファンの気持ちは、『あきらめるな! 立ち上がれ!』ですよ」
人懐っこい笑顔で、映画版『電人ザボーガー』のキャッチコピーを口にする佐藤の言葉に、都村はうなずく。
「あきらめるな! 立ち上がれ!」
その言葉は、佐藤のような映画ファンだけでなく、都村たち劇場スタッフにも共通する思いだった。
彼らが、このときの経験で学んだこと――――――。
それは、SNSで話題になったとか、遠方から人が押し寄せた、ということだけではない。そうした話題は、一見して華やかに見えるが、本質はそこではない。
本当に革新的だったのは、劇場スタッフが、今後の方向性を見定め、新たなアイディアを生み出していく、そのきっかけになったからだった。
「映画を観たい人たちは、たくさんいる。そして、その思いがあるから、わざわざ塚口まで足を運んでくれる」
「そこに払うお金の大小は関係ない。本当にお金を払いたいものなら、人は喜んで足を運び、楽しんでくれる」
それが都村たち、劇場スタッフが学んだことだ。
『電人ザボーガー』が塚口サンサン劇場にもたらしたのは、一部界隈の県外からの知名度と、大きすぎるほどの「考え方の変化」だった。
ザボーガーの顔出しパネルから顔を出し、都村に写真を撮影してもらったあと、佐藤はこうつぶやいた。
「こうやって、ファンと一緒に映画を盛り上げてくれるスタッフさんがいてくれたら、もっと、サンサン劇場を応援したくなりますわ。サンサン劇場さんが映画を愛してるってことは、セカンド上映のラインナップを見ても、わかりますしね。スタッフさんが、こんな熱を見せてくれたら、僕ら客の方も熱くなりますよ。自分も、この前、都村さんに語ってしまったみたいに、映画ファンは、いつでも映画について語りたい生き物ですしね」
映画ファンは、いつでも映画について語りたい生き物―――。
佐藤が、何気なくつぶやいたその一言を、都村はこの次の年に実感することになった。




