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第3章 塚口サンサン劇場の逆襲〜③〜

 チラシのタイトルを見た瞬間、佐藤は目を丸くしたあと、表情をほころばせ、そして、


「ハッハッハ」


と、大声を出し、腹を抱えて笑いだした。


「これって、井口昇(いぐちのぼる)監督で板尾さんが主演する映画ですよね! 芸人仲間の間でも、ちょっと話題になってますわ」


 唐突に笑い出した佐藤の姿に困惑する都村(とむら)。そんな劇場関係者の表情を見て、冷静さを取り戻したのか、青年は、「すんません、大声で(わろ)てしもて……」と、謝ったあと言葉を続ける。


「エェんちゃいます? この映画、サンサン劇場のノリにピッタリやと思いますよ」


 と、彼は太鼓判を押す。


「やっぱり、佐藤さんもそう思います?」


「えぇ、アカデミー賞作品もダニー・ボイル作品も、その他の通好みの作品も良いですけど……『電人ザボーガー』の方が、塚口の雰囲気にあってると思いますわ!」


『電人ザボーガー』は、1970年代半ばに放映されていた特撮テレビ番組である。犯罪組織Σ団(シグマだん)と警視庁および秘密刑事・大門豊との戦いを、Σ団のロボット対大門が乗るオートバイが変形するロボット・電人ザボーガーとの戦いを交えながら描く作品だ。

 今回、塚口サンサン劇場で上映を検討しているのは、そのドラマ版の特撮テレビ番組をリメイクした映画版で、佐藤が語ったように、『片腕マシンガール』『ロボゲイシャ』などの作品を撮影した井口昇が監督し、お笑い芸人130Rの板尾創路(いたおいつじ)が主演を務めている。


 そんな作品の上映について、都村をはじめとする塚口サンサン劇場のスタッフは、上映スケジュールに組み込むか否かを迷っていた。


「たしかに、佐藤さんの言うように、この映画はウチの劇場の雰囲気にあってるとは思うんですけど……『英国王のスピーチ』みたいな作品を地元のお客さんに知ってもらうのも大事やと考えてるんです……どうすれば良いですかね?」


 都村が、率直に自分たちの頭を悩ませている問題を伝えると、佐藤は「なるほど……」と、つぶやいたあと、「う〜ん」と唸ってから口を開いた。


「サンサン劇場さんが、僕ら地元の人間を大事にしてくれてるのは、嬉しいんですよ。僕は、この近くにあった、つかしんホールで、良くロードショーが終わったあとセカンド上映の映画を観てたんで……つかしんホールが無くなったあと、『英国王のスピーチ』みたいな映画をまた近所で観れるようになって、ありがたいんですけど……でもね――――――」


「でも―――なんですか?」


「『電人ザボーガー』には、それ以上のポテンシャルがあるんじゃないですかね? 僕は、リアルタイム世代じゃないんで、そんなに思い入れがあるわけじゃないんですけど、特撮番組って、メチャクチャ熱心なファンが多いでしょ? 東日本大震災で、暗い世の中になってますけど、これからの日本は、アニメとか特撮オタクが世の中を引っぱって行く時代やと僕は思うんです。『電人ザボーガー』が、日本全国どれだけの規模で上映されるかわかりませんけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思いません?」


「いや、全国から塚口に……って、そんなことありますかね?」


「あると思いますよ? 僕も、観たい映画があって、そこでしか上映してなかったとしたら、滋賀でも和歌山でも観に行きますし」


 笑いながら語る佐藤の言葉を聞きながらも、都村の脳裏には、閉館前の西脇大劇で馴染み客がつぶやいた言葉が蘇る。


 ・

 ・

 ・

 

 「映画館で映画を見るのは、私の人生で今日が最後」

 

 「いえ、三田にも映画館はあるし、ちょっと時間がかかりますが神戸にはたくさん映画館ありますよ」


 「知っているけど、田舎に住んでるとそう簡単には行けないんよ。だから今日が最後やわ。はぁ~、でも今まで面白かった!」


 ・

 ・

 ・

 

 このやり取りが頭に残り、地元の映画ファンのためにも、塚口の街に映画館を残そう―――と、考えていたのだが…………そんな考えが頭に浮かぶ中、佐藤は言葉を続ける。


「さっきも言ったように、サンサン劇場さんが、地元の人間を大事にしてくれてるのは、嬉しいんです。ただ、セカンド上映で、地元の映画ファンに質の高い作品を見せてくれつつ、ロードショーのファースト上映では、攻めたラインナップで勝負するのも良いんじゃないですか? サンサン劇場は、スクリーンが4つあるでしょ? 梅田や伊丹や西宮のシネコンには叶いませんけど、多くてもスクリーン2つのミニシアターや名画座に比べたら、色んな映画を上映できて有利やと思うんですけど……あっ、すいません。素人が生意気なこと言って」


「いえいえ、佐藤さんのお話、面白いと思いました。全国から、飛行機や新幹線を使って、ウチの劇場に観に来てくれるお客さんがいたら、本当に幸せなことだと思いますから」


「そう言ってもらえて良かったです。多分、『電人ザボーガー』の上映告知をしたら、サンサン劇場さんの電話がジャンジャン鳴り始めますよ。『劇場の近くにホテルはありますか?』とか……」


「『新大阪駅から塚口駅には、どうやって行けばいいですか?』とか?」


「そうそう、『伊丹空港からは、タクシーと電車、どっちが早く着けますか?』とかね」


 相手が考えたネタに自分も乗っかって、ネタを被せ合う。これは、彼らの愛したラジオ番組『サイキック青年団』のパーソナリティたちが、もっとも得意とするトーク術であった。そんな番組出演者のノリは、「サイキッカー」と呼ばれるリスナーたちにも確実に継承されている。


 そして、トークの波に乗った都村が、


「『札幌から塚口まで、どんな交通機関で行けば良いですか?』って聞かれますかね?」


そうたずねると、佐藤は芸人らしく、


「いや、さすがにそれは無いでしょ。北海道やったら、東京のほうが近いやん。東日本から、わざわざ塚口に来る人がいたら、有馬記念でダイユウサクが勝つくらいの衝撃ですわ」


と、ツッコミを入れて、二人の長い会話は終焉に向かった。


「面白い話を聞かせてもらって、ありがとうございました。『あきらめるな! 立ち上がれ!』って、良いキャッチコピーですよね? なんか、勇気をもらった気がしますわ。『電人ザボーガー』が上映されたら、絶対、観に来ます!」


 そう言い残して、劇場を去る佐藤を見送りながら、都村は、秋からの番組編成(上映スケジュール)について、真剣に考えようと思った。


 そして、都村と佐藤が、『サイキック青年団』というラジオ番組と出会ってしまったこと同様、幸か不幸か、2011年の時点で、劇場上映システムのデジタル化が進んでいなかった塚口サンサン劇場に、思わぬ効果がもたらされることを、このとき、誰も予想していなかった。

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