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第2章 新人お笑い尼崎大賞への道〜⑧〜

 待合室から本選会の会場となるホールの舞台袖に移動すると、鼓動が高鳴るのを感じる。

 直前の出演順である弐の家銀の介さんがピン芸を披露し終えると、いよいよボクたちの出番だ。


 首を何度か揺すったオッサンは、ボクの隣で、


「さあ、いよいよやな……」


と気合を入れる。続けて、


「続きまして、11番 ダブルジェネレーション。演目は漫才」


という女性司会者の声に、相方は、小さく


「ほな、行くで」


と、ささやき、無言でうなずいたボクは、ステージ右手の舞台袖からセンターマイクに向かって、駆け出した――――――。


 佐&星「どうも〜、ダブルジェネレーションで〜す」


 佐「僕らダブルジェネレーション言いまして、48歳のオッサンと……」


 星「20歳(はたち)のコンビでやらせてもらってま〜す。ところで、後ろを振り返ってみれば、第26回新人お笑い尼崎大賞と書かれてるわけですが……」


 佐「48歳で新人と言い張る厚かましさを許してくれる大会主催者と尼崎の皆さんには、感謝してます」


 星「いや、そんな深いお辞儀で媚びなくても……」


 佐「まあ、そんな感じで、僕らみたいに親子ほど年齢(トシ)が離れてるのにコンビを組んでると、色々とジェネレーションギャップを感じることが多いんですよ。たとえば、コギャル、写メ、ソニプラみたいな言葉が通じない」


 星「それを言うなら、エモい、草、ワンチャンみたいな言葉は、オッチャンたちには通じないよね?」


 佐「こうやって、日々、お互いに通じない言葉を言い合って、驚いてるんですよ。あとは、若者に通じないと言えば、この年齢(トシ)になって感じる身体の不調やね。健康診断の結果も、気になってくるし……」


 星「ねぇ、こんなふうに中年の人からは、健康状態に関する不安を聞くことが多いんですよ。ところで、ボクも20歳(はたち)になったんですけど……せっかく、成人になったし、この機会に新しい趣味を始めようと考えてるですよ」


 佐「ほう? 新しい趣味って、なんか具体的に考えてることあるの?」


 星「うん……就職活動も近いし、体力づくりも兼ねて、マラソンに挑戦しようかと思ってね。ゆくゆくは、有名なマラソン大会に出たいと考えてるんだ」


 佐「ほ〜ん、マラソン大会? それなら、オッチャンが実況アナウンサーの役やったるから、キミは、市民ランナーになりきってや」


 星「えっ、いいの? じゃあ、ちょっとやってみようか!」


 佐「さあ、ランナーたちがスタート地点に並びました。第42回つかぐち新町マラソン大会! いよいよスタートです!」


 星「いや、ちょっと待て! ゆくゆくは、有名なマラソン大会に出たいって言っただろ! なんだよ、つかぐち新町マラソン大会って、規模の小ささは! 漫才で言えば、M−1グランプリを目指すって言いながら、新人お笑い尼崎大賞に出るようなもんじゃねぇか!? もうちょっと、ちゃんと実況して!」

 

 佐「さあ、気を取り直して、第1回阪神シティマラソンの号砲が鳴ります!  位置について、よーい……(パァン!)……撃たれたー! なんと、スタートと同時に選手が撃たれました!」

 

 星「撃たれてないわ! いまのは、スタートのピストルだから!  ちゃんと、走り出させろよ!」

 

 佐「スタートの合図とともに、先頭集団が一斉に飛び出した! 星野選手、いい位置につけています! 好スタートを切りましたが、しかし……おっと! 星野選手、服装がおかしい!」


 星「え? (自分の服を見る)ランニングシャツに短パン、普通だろ?」

 

 佐「なんと全身タイツ! 全身タイツ姿です!  モジモジくんスタイルで風の抵抗をゼロにしています!」

 

 星「してないわ! そんな恥ずかしい格好! 普通のユニフォームだよ!」


 佐「先頭集団が快走し、レースはすでに5キロ地点。さあ、ここからは実況席のわたくし佐藤が、サイドカーに乗って並走を開始します」

 

 星「邪魔だなあ! 実況は実況ブースでやれよ! 排気ガスがすごいんだよ!」


 佐「えー、放送席放送席。今回は、市民ランナーの星野選手に来ていただきました。まず、今日のレースの意気込みを聞かせてください」

 

 星「ハァ…ハァ…初めての大会出場なんですが、なんとか5時間を切るタイムを目指したいです」


 佐「なるほど! いまの気持ちを誰に最初に伝えたいですか」


 星「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…テ、テレビで見ている家族に―――って、近い! 近い! 近いっ! マイクが近いっ! 今それどころじゃないんだ! 走りに集中させてくれ!」


 佐「さあ、次に10キロ地点の給水所が見えてまいりました!」

 

 星「おお、やっとか。もう、喉がカラカラなんだよ。水飲むぞ!」


 佐「ボランティアの方々が差し出しています! これを星野選手、受け取った!」

 

 星「(コップを受け取って飲む)ゴクッ……ブフォッ! なんだこれ! 揚げ物用のソース?」

 

 佐「給水エリアで用意されていたのは、揚げ物、焼きそば、お好み焼きはもちろん、野菜炒め、豚まん、カレーの隠し味まで、スパイシーで深いコクを生かして幅広く利用できる尼崎名物ワンダフルソースだ~!」


 星「殺す気か! なんでマラソン中にソース飲むんだよ!」


 佐「ご当地ならではの心遣いです! さあ、いよいよ、ランナーたちは、国道2号線の武庫大橋を渡って、西宮市に入ります。最初の信号の交通標識には、『安全都市 西宮市』の文字!」


 星「橋を渡ったあとに、『安全都市』って、いままでは危険地帯だったのか!?」


 佐「あっ、ここで中継の2号車から連絡が入りました。どうやら、近隣の街からは、橋の手前の尼崎市は危険なエリアだと思われている様です」


 星「そりゃ、給水所で熱湯を渡すくらいだからなあ!」

 

 佐「さあ、レースはいよいよ中盤戦。向正面に差し掛かったたところで、先頭は予想通りホタルノヒカリ。さらに各馬一団となってタメゴロー、ヒカルゲンジ、リンシャンカイホー、メンタンビンドライチ、コイコイ、ソルティーシュガー、オッペケペ、ホシノオウジとつづいております」


 星(前のランナーを追走するようにランニング)


 佐「第3コーナーを廻って第4コーナーにかかったところで、先頭はまだホタルノヒカリ、ホシノオウジは大きくぐぐっと開いて、まだ後方だ。さあ、最後の直線コースに入った! あっ、ホシノオウジがぐんぐん出て来た! ホシノオウジ速い! ホシノオウジがスゴい脚!」


 星(他のランナーと競り合うように猛ダッシュ)


 佐「トップのホタルノヒカリ懸命の疾走。これをホシノオウジが必死に追いかける。ホシノオウジが追いつくか、ホタルノヒカリが逃げきるか。ホシノオウジかホタルノヒカリ、ホタルノヒカリかマドノユキ、あけてぞ今朝は別れゆく〜」


 星「♪走れ 走れ ホシノオウジ! 本命 穴馬 かき分けて〜 って、それは、マラソンじゃなくて、競馬の実況だろ! しかも、『みどりのマキバオー』のパクリじゃねぇか!」 


 佐「さあ、いよいよ競技場に戻ってきました! 感動のゴールは目の前! 42.195キロの旅が終わろうとしています!」

 

 星「やっとゴールだ……! さあ、ラストスパートをかけるぞ!」

 

 佐「おーっと! ここで大会本部からのお知らせです!」


 星「なんだよこのタイミングで!」

 

 佐「距離計算を間違えていました。あと200キロ走ってください」


 星「死んでしまうわ! 24時間テレビの芸能人ランナーでもそんな走らんわ!」

 

 佐「さあ行け! ホシノオウジ、太平洋まで駆け抜けろ〜!」

 

 星「もうええわ!」

 

 佐&星「ありがとうございましたー!」

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