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第2章 新人お笑い尼崎大賞への道〜⑤〜

 新人お笑い尼崎大賞の予選会は、映像審査によって行われる。


 11月上旬の締切までに、3分以内にまとめた自分たちのネタ動画をDVDなどに収録して主催者に送付するか、もしくは、ネタの模様をアップロード(限定公開)したYouTubeのURLを応募用紙に記載し、エントリー料金を支払うことで、応募完了となる。


 ディスクメディアに動画を記録して、応募規定にあるファイナライズなどの作業を行うことを手間だと考えたボクたちは、YouTubeに動画をアップロードする方法を選択することにした。


 台本を読みながらの初めてのネタ合わせ以降は、ボクのバイトが無い毎週金曜日に、ショッピングモールの最寄り駅から一駅隣の近くにあるレンタルスタジオで、ネタを磨き上げる作業に入っている。明るくて大きな室内には、ダンスレッスンなどに適した大きな鏡が備え付けられていて、その前に立つだけで緊張感とともに高揚感が増してくる。


 ただ、ボクには、ひとつ気になることがあった。


「オッサンのネタは、いわゆる、しゃべくり漫才だと思うけど、ダンスみたいな大きな動きも無いのに、こんな大きな鏡なんて必要あるの?」


「ん? もちろん、しゃべりが主体やけど、今回はマラソンをテーマにしたネタやからな身体を大きく動かす必要があるし、それを確認するためにはミラーは必須やで? 客席の笑いは、演者の動きに掛かってると言っても過言ではないしな」


「そっか……そう言うものなんだ」


 オッサンの言葉に納得したボクは、さっそくネタ合わせに入る。


 ただ――――――。


 佐&星「どうも〜、ダブルジェネレーションで〜す」


 第一声を発した途端、オッサンからダメ出しをされてしまった。

 

 「ちょっと待て、王子くん。声の張りも動きも小さいわ。あと、できる限り、あかるい表情でな。本番では緊張するかも知らんけど、それは、仕方ない。それでも、適切な声量と発声のスピードを身につけることだけは、素人でも練習で克服できる。もう一回、入りのところからやってみるで」


 こんな風に、冒頭から数々の指摘を受けながら、なんとか出だしの部分だけは形になったということで、いよいよネタの部分のレッスンに突入する。冒頭から本題に入るまでのツナギに関するアイデアを出し合って、初期の台本に少しアレンジを加えたので、今度は、そのバージョンのリハーサルを行うことになった。


 佐&星「どうも〜、ダブルジェネレーションで〜す」


 佐「僕らダブルジェネレーション言いまして、48歳のオッサンと……」


 星「20歳(はたち)のコンビでやらせてもらってま〜す」


 佐「こうやって、親子ほど年齢(トシ)が離れてるのにコンビを組んでると、色々とジェネレーションギャップを感じることが多いんですよ。たとえば、コギャル、写メ、ソニプラみたいな言葉が通じない」


 星「それを言うなら、エモい、草、ワンチャンみたいな言葉は、オッチャンたちには通じないよね?」


 佐「こうやって、日々、お互いに通じない言葉を言い合って、驚いてるんですよ。あとは、若者に通じないと言えば、この年齢(トシ)になって感じる身体の不調やね。健康診断の結果も、気になってくるし……」


 星「ねぇ、こうやって中年の人からは、健康状態に関する不安を聞くことが多いんですよ。ところで、ボクも20歳(はたち)になったんですけど……」


 ここまで口にしたあと、ボクは、失敗に気付いて口をつぐんでしまう。ようやく、フリートークのように肩からチカラが抜けた状態で語るように年齢による体力低下を気にして、オッサンがマラソンを始める―――というのが、今回のネタの本題だ。ボクが、このセリフを発してしまっては、本題に入ることができない。


(ゴメン! しくじった……)


 自分の失態を謝罪するように、目線だけでオッサンにそう訴えたのだが―――。

 相手の中年男性は、ボクに対して、チカラ強い目力(メヂカラ)で、メッセージを送ってくる。

 

(いや、出来るなら、そのまま続けてみろ!)


 このレッスンまでに、なんども台本を読み込んで、お互いのセリフを頭に叩き込んでいるので、相方が発する言葉もすべて再現することは可能だ。


 オッサンの視線にうなずいたボクは、そのままネタを続けることにした。


 星「せっかく、成人になったし、新しい趣味を始めようと考えてるですよ。」


 佐「ほう? 新しい趣味って、なんか具体的に考えてることあるの?」


 星「うん……就職活動も近いし、体力づくりも兼ねて、マラソンに挑戦しようかと思ってね。ゆくゆくは、有名なマラソン大会に出たいと考えてるんだ」


 佐「ほ〜ん、マラソン大会? それなら、オッチャンが実況アナウンサーの役やったるから、キミは、市民ランナーになりきってや」


 星「えっ、いいの? じゃあ、ちょっとやってみようか!」


 そこまでネタを進めたところで、「よし、ちょっと止めよか?」とオッサンが進行を止める。


「ゴメン、オッサンのセリフを取っちゃった。もうミスしないようにするから……」


「いや、別にそれは構へん。それより、王子くん、どうやろ? いっぺん、佐藤と星の役割を入れ替えてやってみるか?」


「えっ? まだ、ボクにはツッコミのスキルが足りないんじゃ……?」


「まあ、まだ時間はたっぷりあるし、モノは試しや。セリフは全部、頭に入ってるか?」


「えっ、まあ、それは大丈夫だけど……」


「そうか! ほな、やってみよ!」


 こうして、当初の台本からは、佐藤役と星役を反転させた台本で、とおしのネタをやってみる。

 そして、ネタを一通り終えたあと、オッサンは、こう宣言した。


「うん! オレがボケて、王子くんがツッコミを入れる。この役割でやってみよ! 次にリハをやり終えたら動画撮影の準備に入るで」

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