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第2章 新人お笑い尼崎大賞への道〜①〜

「王子くん、オレと一緒にお笑いで天下を獲ってみる気はないか?」


 オッサンの古くからの知り合いだというバルボンさんを紹介してもらった翌日、少し気まずい雰囲気で、カリヨンガーデン(いつもの場所)をあとにしてしまった前日のこともあって、相手の様子をうかがいながら、石段に座り込んだボクに、暇を持て余した中年男性は、唐突に声をかけてきた。


「藪から棒に、なんなんだよ! いきなり、お笑いで天下って……なに言ってんの?」


「おう、相変わらずキレのあるツッコミやな? やっぱり、バルボンさんに会ってもらって良かったわ」


 ヘラヘラと笑いながら語るオッサンの表情を見て、自分の中のムダな緊張感が、一気に解けていく。


 前日、去り際にオッサンがつぶやいた「ジョーカーという誠実な絶望を汚す奴は許さない」という一言が気になったので、ボクは、ネットやSNSでそのキーワードを検索したり、AIへの質問を試していた。


 これまで、オッサンはさも自分が思いついたかのような口調で、マンガや小説、映画に出てくるセリフを口にしていたからだ。


 ただ、ボクが検索した、そのキーワードでヒットした内容は、4〜5年前に更新が止まったままのSNSアカウントのポストだけだった。


 Tactics_Moon

 @666_Moon


 ジョーカーという誠実な絶望を汚す奴は許さない

 

 2019-10-05 10:45:00


(有識者やインフルエンサーのつぶやきでも無いようだし、あの一言はなんだったんだろう?)


 そんな疑問を抱えながらも、この日もオッサンに会いに来たのだが、さっきの言葉で、「どうやって、昨日のつぶやきについてたずねようか……」と考えていたボクの気持ちは、いきなり出鼻をくじかれてしまった。


 すっかり相手のペースに乗せられてしまったボクは、聞きたかったことも忘れてたずね返す。


「オッサンとコンビを組むの? 素人のボクが?」


「まあ、そう言うことや。王子くんのやる気があれば、やけどな…」


「ちょっと待って、いきなりのことで頭が追いつかないんだけど……もしかして、昨日、バルボンさんをボクに引き合わせたのは、この伏線ってこと?」


「そう考えてくれても構わんけどな。バルボンさんも、『ホシノは、なかなか面白そうなヤツやな〜』って言うてたし」


「いや、昨日の会話だけで、ボクのなにが、わかるんだよ? いきなり、お笑い芸人とコンビを組もうとか言われても理解が追いつかないって!」


 ボクが、そう返答すると、「まあ、そう言わずに……軽く適性試験でもやってみようや?」と言ってからスマホを取り出し、オッサンはある画像を表示させた。


「これは、()()()()()()()()の地図から、氷床(ひょうしょう)と呼ばれる大陸規模の広大な氷の塊を省いた岩盤地形と呼ばれるものや。これを見て、なにか感じるところは無いか?」


 オッサンが、ボクに見せてきた地図とやらは、縦に長い地形の真ん中をくり抜くように、大きな湖のような水の塊が存在している。その水の塊を取り囲むように、平野部や山脈が存在し、それはさながら、ボクの自宅がある近江盆地やその周りを囲む鈴鹿山脈、比良山地のようだ。


「湖の周りに一部の平野と山地って、まるっきり滋賀やないか!」


 あえての関西弁で主張をすると、オッサンは、プロのプライドをかなぐり捨てたのか、漫才を再現しようとする素人が、誰でも真似をしてしまう有名コンビのネタを振ってきた。


「けどな、オカンが言うには、これは滋賀とちゃうらしいねん。なんでも、トランプ大統領がこの場所を狙ってるって言うんよ」


 後輩と思われるコンビのネタをまるまるパクるなど、お笑い芸人として、どうなんだ? と指摘をしたくなるところだが、こんなネタを振られたら反応せざるをえない。


「ほな滋賀と違うか〜。アメリカ大統領に目えつけられるような存在感ある所と違うからね滋賀は。滋賀てそういう所なんよ〜。他にオカン何か言うてなかった?」


「オカンが言うには大阪と京都からはバカにされてる言うねん」


「滋賀やないか。他県から豹柄のおばちゃんで笑われてる大阪とイケずでイジられてる京都が、唯一いちゃもんつけられる県やねんから滋賀は。滋賀で決まりよこんなもん」


「でも、オカンが言うには、夏でも寒すぎて湖で泳ぐなんてありえへんらしいねん」


「ほな、滋賀と違うか〜? 塩水のベタつきが無い琵琶湖の湖水浴が無くなったら、あとは、花火大会くらいしか滋賀の夏の楽しみはないからね。他になんか言うてなかった?」


「他の特徴としては、食べ物のクセがスゴいって言うてたわ」


「滋賀やないか! 赤こんにゃくに、たくわんを挟んだサラダパン、滋賀県は、クセがスゴい食べ物の宝庫なんやから」


「けどな、オカンが言うには、肉や魚が名物やけど、それはトナカイとか白イルカのことらしいねん」

 

「ほな、滋賀と違うか〜? 滋賀の名物の肉と魚といえば、近江牛と鮒寿司(ふなずし)やからね! 鮒寿司以上にクセがスゴい食べ物って、なかなか無いよ? 滋賀の名物って、そういうもんよ? 他はなんか言うてなかった?」


「うん、オカンが言うには、そこに住んでる人は、良く『平和? どう?』って声をかけられるらしいねん」


「滋賀やないか! ♫かけっこ とびっこ 元気っこ みんな あつまれ 平和堂 ♫わんぱくぼうやも なかよしも ママのあとから ついていく はずむこころの おかいもの〜」


「「へ〜いわ ど〜う!!」」


「って、滋賀に住んでる人は、みんなスーパー平和堂のBGMを聞いて育ったんやから。滋賀で決まりよ、こんなもん」


「でもな、オカンが言うには『それはグリーンランドのことや』って言うねん」


「ほな最初から、グリーンランドって言えや! グリーンランドと滋賀県、全然似てへんがな!」


「もうええわ」


「ありがとうございました〜!」

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