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第11話:かちかちとふわふわ(中編)

楓が準決勝のために控え室を出ていったあと、俺も控室を出て観客席へと自然と足が動いていた。

黙り込んだままのニャルといるのが気まずかったこともあるけど、楓の戦いを“ちゃんと見届けたい”――そんな気持ちがあったからだ。

手ごろな席はないかと当たりを見渡しながらスタンドを上がっていると、覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ? 先輩? おーい、こっちこっち」


希望だった。制服に薄手のジャケットを羽織り、手を振っている。


「先輩も楓の試合観に来たんですね」

「希望、一人なのか?」


わりといつもクラスメートと一緒に行動してるイメージの希望にしては珍しい。


「みんなもう一つの競技場にいっちゃいました。かっこいい先輩が出るからって。そっちは決勝ですし」

「へー」

「あっ、もちろんかっこいい先輩って先輩のことじゃないですよ」

「いちいち言わんでも話の流れでわかるわ!」

「あはは、ほらほら先輩、せっかくですから一緒に観よ」


隣の席をぽんぽんと叩かれ、俺が座ろうとした瞬間――


「悠真くん!」


制服をバタつかせながら、渚が階段を駆け上がってきた。


「スタンドから観戦にするつもりなら、誘ってくれてもいいじゃないですか。私が先生ですよ!」

「渚!?」


さっきあんなに怒ってたのに、向こうから声をかけてくるとは……。

戸惑いつつも、俺は返事をした。


「いや、だってあの流れで“一緒に観よ?”って誘えないだろ、普通……」


「渚さん? じゃあせっかくだから三人で並んで観戦しましょう。よかったですね、先輩。美少女2人に囲まれて試合が見れるなんて、命かけた甲斐がありましたね?」

「うっ、お前も試合見てたのか……」


「はい、1年は対抗戦ありませんので。午後からは好きな試合見学していいことになってまして」


「それも勉強ってことか」

「そういうことです」

「じゃあひょっとして隣に座ったらさっきのこと――」

「はい、こんこんと詰めに詰めるつもりでしたが、当事者が来られたのでやめときます。こってり絞られたみたいですし」


希望は俺の顔を見てにっこり微笑んだ。

ちょっと圧を感じる。

渚が来なかったら冗談じゃなく本当に詰められたな、これは。


「それはよかった。んじゃあ3人で一緒に見ようか」


そう言うと、俺は希望の隣に腰かける。

渚も続いて俺の隣に腰掛けた。

右から順に希望、俺、渚の順番である。

えっ?

渚そっちに座るの……。

やっぱりまだ怒り足りないのだろうか。

怖くて渚の方を見れなかったので、視線は自然と希望に向かう。

希望は一瞬驚いた顔をしたあと、顎に手を当てて何やら考えこみ始めた。

急にどうしたんだろう。

しかし、この二人と試合が見れるのはありがたい。

楓の応援をしつつ、万が一に備えての鈴音のデータ収集もできる。

俺が競技場の方に目を向けると、二人の選手がちょうど姿を現すところだった。


《準決勝第二試合――田中楓 対 天羽鈴音》


アナウンスが響く。

楓は競技場に静かに立ち、盾を構えている。

その向かいには、ゆるくカーディガンを羽織った鈴音。風に髪をなびかせて、笑顔で手を振る。


「ふわぁ……よろしくね、楓ちゃーんっ」


鈴音は気楽な調子で挨拶するとゆるゆると2本のショートソードを抜いた。


「天羽さんは相変わらずですね」


渚が苦笑して呟く。


「あんな感じだけど、強いんだよね、天羽先輩って」

「そうですね。論理式の構築に関してはアカデミー創立以来の天才っていう人もいるほどですし」

「えっ!? そこまでなの!」


渚の言葉に衝撃を受ける。

天才なのは知ってたけど、そんな何十年に一度のレベルだったの!?

改めて、とんでもない相手に勝負挑んでんだな、俺……。


「創立以来っていうのは大げさかもしれませんが……。そう噂されてもおかしくない程度にはすごい人です」


渚の言葉に、鈴音が時折見せたあの寂しげな笑顔がふと脳裏をよぎった。

天才であるが故に鈴音が払っている代償。誰も隣に来てくれない、自分ではどうしようもない孤独。

俺にはきっと本当の意味で理解してやることはできない。

そんなことを考えていると、希望が力を込めて言った。


「でも楓だって強いから。私よく知ってるし」


いつも真面目な楓だけど、先程の楓の宣言はこれ以上ないほど本気だった。

楓自身のためでなく、俺のためにそこまで真剣になってくれるのが嬉しかった。

ここで楓が勝つと、鈴音との賭けは終わりになる。

そうなったら少し複雑ではあるけれど、結果として今の俺の目的は果たせるのではないか。

俺は楓の勝ちを心から祈った。楓のためにも、そして鈴音のためにも。

そして次の瞬間、教師の合図と共に試合が始まった。

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