表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

第10話:論理魔法戦のはじまり(中編)

高瀬との試合が終わり、観客席からの視線を感じながら歩き出す。

けれど、そのまま控室には戻らず――俺は、競技場の外縁にある関係者観覧席に立ち寄った。

ちょうど次の試合が始まるところだった。

名前が読み上げられる。


「第2試合――白川渚 vs 吉見太郎」


次は渚の試合。

競技場の中央に立つのは、細身のロッドを手にした渚。

いつもの“みそぎちゃん”ではない。小型の軽量武器、いわば模擬戦用の仮装備ということか。

そりゃクラスメートにあんな物騒なもの持ち出せないよな。安心した。

服は制服ではなく特訓の時の巫女服っぽい衣装だ。

あれが彼女の流儀ということなのだろう。


『論理展開、識域拡張』


渚が一気に吉田との距離を詰める。

相手の魔法が発動する前に、渚の体がスッと間合いに入り――ロッドの先で、的確に吉見の肩をついた。

吉田の詠唱が断ち切られる。

完全にタイミングを読み切っている……。

そのまま終始圧倒したまま、渚が勝利した。


「続いて――田中楓 vs 有本麻耶」


次に現れたのは楓。手には、メイド服を着て大盾を持っている。

これが彼女の正装ということだ。

しかしあの盾、改めて構えてるところ見ると……でけえな。

楓は一切詠唱せず、ただ相手の魔法と攻撃を完全に受けきる。

防御の合間に、読み切ったタイミングで突進と体当たりを重ねて崩し、空いた右手で打撃を入れる戦い方。

堅い……けど、守るってより、確実に“押し潰してる”

どこまでも堅実で、重く、鈍く、鋭い。

一撃一撃に、揺るぎない意志が込められているのが分かる。


「続いて――天羽鈴音 vs 葉山透」


最後に出てきたのは、ふわふわと笑う鈴音。

その両手にはショートソードが握られてる。

くっ、かっこいい……。

いちいち絵になるやつである。

鈴音は2本のショートソードをゆったりと軽く構えた。


「くるくる風よ、ひとまわりして、ひゅーんと抜けて、回れ右♪」


詩のような、歌のような……ふざけた詠唱。

なんであれで発動するんだよ! しかも4語。

それでも風の刃が周囲に複雑な軌道を描きながら、相手を翻弄していく。

おいおい、軌道が読めないぞ……。

見た目はふわっと軽いのに、魔法はちゃんと計算された奇襲。

油断した瞬間、相手の足元を風圧が切り抜け、転倒を誘った。


「おっけー、おっけー。次いこ次!」


笑顔で退場する鈴音の背を見送りながら、俺は観客席をあとにする。

……三人とも、やっぱりすげえな。

今さらだけどまともに勝負になるのか不安になってきたぞ……。

ゆっくりと競技場の裏手へ戻りながら、

俺は太刀の柄に軽く手を添え、もう一度だけ深呼吸した。


第2戦――

控室から再び競技場へと向かう俺に、観客席から視線が集まっているのが分かった。

さっきの一戦、どうやら少し“目立って”しまったらしい。

なまじ魔法使わずに勝ってしまったからか……。

次の対戦相手は女子――城戸きど小百合。

小柄で快活そうな雰囲気だが、地属性の演算に定評があるらしい。

彼女は小さく会釈してから、細めの杖を構える。

どうやら“術式先行型”の魔法タイプらしい。


「よろしくね、桐原くん。……手加減、してくれなくていいから!」



その笑顔に、少しだけ“強がり”が混じってる気がした。

すまん……、本当にこっちも手加減できる余裕ない。

この子、情報によれば“慎重派”らしい。支援型で、耐久も高め。

でもそれは“長期戦になれば強い”ってことだ。

相手のペースに持ち込まれる前に勝負をつけなければ。

FPSなんかの経験から、長期戦の得意なタイプは得てして最初はこちらの出方を伺いがち。

とすれば、やはり初手全力で仕掛けて行くことにする。


「位置について!」


教官の声。会場が再び静まり返る。


「始めッ!」


号令と同時に――俺は詠唱を口にした。


「空間把握、座標収束、電荷展開――」


城戸の目が、信じられないというように見開かれる。


「え――も、もう!?」


城戸があわてて自分も詠唱を開始する。

だが同じ詠唱語数なら先に始めた俺の方が早く終わるのが道理。


「――熱量圧縮、導線貫流――」


青白い光が、掌の内に集う。

静かな空気。張り詰めた静寂。

そして――


「雷閃!!」


視界が白く弾けた。

雷が疾走。炸裂する青白い光と衝撃波のあと、彼女は背中から吹き飛んで――

ドサッ、と転がる。

おそらく咄嗟に攻撃魔法を詠唱してしまったのだろう。

防御魔法が展開されず、雷閃が直撃した。

軽い痺れで動けない様子だが、このまま放っておいたらすぐに立ち上がってくるだろう。

俺は近づいて、しゃがみ込み、軽く額をこづく。


「ごめんな、これで終わりだ」


彼女は、ぼんやりしたまま頷いた。


「……ま、まいった……雷、こわ……」


観客席からどよめきの声が上がった。


「うそ……、ひいふうみい――6語詠唱!? いつの間に!」

「論理演算が“通ってる”感じが、すごく自然だった……」

「てか、桐原って雷属性だったの!?」


俺は観客の反応には目もくれず、静かに立ち上がる。

うまく行ってよかった。

誰も俺が6語詠唱できるなんて思ってなかったろうから不意をつけた。

でも次はこうはいかない。

鈴音と戦うためには一つ大きな壁がある。

渚は、2回戦は俺より先に試合をしていて、既に準決勝進出を決めていた。

背後で教官が次の試合を宣言し始めている。

その声を聞きながら、俺は大きく息を吐いた。




2回戦が終わった後、武闘館の裏手にある中庭――

ベンチに腰を下ろすと、すぐに隣からすっと“いつもの弁当箱”が差し出される。


「主、本日分です」

「サンキュ、楓。助かる」


こうして彼女が弁当を差し出すのは、もはや毎日のことだ。

俺が言うより早く、黙って座って、弁当を差し出してくる。

こうして楓と昼食とるのも既に日常の一部になっていた。

ふたを開けると、今日も栄養バランスと戦闘前後の消耗に合わせた見事な構成。


「……これ、昨日よりあっさりとした献立だね」

「はい。戦闘後の血流上昇を見越して、排出効率を考慮しています」

「本当に気がきくというか、何でもできるね」

「忠義とは、生命維持から戦果まで、仕える相手の全てを支えることを指します」


そこへ、空気を読まない銀髪ロリが当然のように現れた。


「相変わらず良い仕上がりですね、楓」

「お前食わなくてもいいのになんでいちいちやってくるんだよ」

「確認です。品質検査です。試食権は契約に含まれております」

「そんな契約した覚えないし! ってかしばらく契約って言葉口にしないで」


昨日の詐欺的契約でできた傷は、まだ癒えてないんだ。

ニャルは俺の抗議の声などまるで聞こえないかのように、料理の講評を始めた。


「……今日の煮物、味噌の香りが昨日より柔らかい。これは優しい勝利の味です」

「“優しい勝利”ってなんだよ!? 論理的な表現じゃないね!」


楓はそのやり取りを聞きながら、ほんの少し微笑んだ。

こうして食事をするのがすっかり日常になりつつある。

楓は自分の分の昼食を食べ終えると、楓が懐から小さく折りたたまれた紙を取り出し、静かに広げた。

対抗戦の対戦表だ。


「楓の次の試合は……」

「天羽さんとになります」


楓が一瞬だけ視線を伏せ、それから真っ直ぐに前を向く。


「そっか。じゃあ決勝は楓とになったりするかもな」

「はい、主の手を煩わせるまでもありません。先日お約束した通り賭けは私が無効に致します」


軽い気持ちで言った俺の言葉に、思った以上に真剣な返答だった。


「そっか、ありがとう」

「仕事ですので」


ニャルが唇の端をつり上げた。


「推論の結果、そもそもあなたが決勝にいけない可能性99%。白川渚との実力差は明白。楓がいなければほぼ間違いなく退学するかパシリ決定です」

「楽しそうにいうな!」


苦笑しながら弁当の最後の一口をかきこみ、 俺は一度深呼吸した。

渚、恩は成長した姿を見せることで返すことにするぜ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ