六 人間と地球
「人間は大宇宙の中の小宇宙である」
アーユルヴェーダ
人間の生命は、様々な臓器が協力して働くことで維持されています。脳は全身から情報を受け取り、指令を出す役割を担っています。肺は酸素を取り入み、心臓はその酸素を血液に乗せて全身へ送り届けます。酸素は体内のさまざまな場所でエネルギーを生み出すために使われます。
消化器官である胃や腸は、食べたものを消化し、栄養を吸収します。肝臓は取り込まれた栄養を代謝して利用できる形にしたり、有害物質を解毒したり、胆汁を作って消化を助けたり、エネルギーを蓄えたりします。腎臓や大腸は、水分やミネラルのバランスを調節し、不要なものを体の外に排出します。このように、各臓器がそれぞれの役割を果たすことで、人間の生命が維持されています。
人間の体には、脊髄を中心に全身に神経が広がっており、脳はこの神経を通じて全身とやり取りしています。脊髄は神経の束で、背骨によって守られています。また、脳と神経、さらにホルモンが連携して、体の状態を一定に保つ「恒常性」を維持しています。この恒常性のおかげで、寒い場所では体温が上がり、暑い場所では下がるなど、環境の変化に適当できるのです。もし恒常性がなければ、人間は寒さに耐えられず、すぐに凍えてしまうでしょう。
地球も同じように、多くの要素が協力することで成り立っています。オゾン層は紫外線から生物を守り、植物は酸素を作り出し、微生物は生物の死骸や排泄物を分解して環境を整えます。こうした働きによって、地球は生物が暮らせる環境を保っているのです。
見方を変えてみると、地球を大きな人間、あるいは人間を小さな地球と考えることができます。たとえば、オゾン層は皮膚を守る髪の毛のような役割を果たし、植物は呼吸に必要な肺のようです。また、微生物は食物を消化・吸収する胃腸のような働きをしています。
古代中国の五行説という思想では、この世界のすべてが「木」「火」「土」「金」「水」の五つの元素から成り立つと考えられていました。これらの元素は互いに深く関わり合い、影響を与え合っています。たとえば、「木」は「火」を生み、「火」は「土」を生み、「土」は「金」を生み、「金」は「水」を生み、「水」は「木」を育みます。一方で、「水」は「火」を消し、「火」は「金」を溶かし、「金」は「木」を傷つけ、「木」は「土」の栄養を奪い、「土」は「水」を吸収します。このように、五行は絶えずバランスを取りながら、宇宙や自然界の秩序を形作っているのです。
これらの五つの元素は肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓に対応し、東洋医学の基礎となっています。これらの臓器が互いに協力し、バランスを保つことで、私たちの体は健康を維持できるのです。さらに、五行説は季節や感情、徳など、さまざまなものにも結び付けられています。自然界だけでなく人間の精神面においても、これら五つの要素が調和することで成り立っていると考えられているのです。
地球も人間も、多様な要素が組み合わさることで成り立っています。それぞれの要素が協力し合あうことで、絶妙なバランスが保たれているのです。人間は地球の一部でもあると同時に、無数の細胞や分子が集まった存在でもあります。私たちは地球と人間を分けて考えがちですが、実際にはその間に明確な境界線はないのかもしれません。人間が地球の一部であることは、手が体の一部であるのと同じことなのです。
植物と人間を別々の存在として捉えることは、肺と心臓が無関係な臓器だと言うようなものかもしれません。実際には、植物が作る酸素を私たちは吸いこみ、私たちが吐き出す二酸化炭素を植物は利用しています。このように、私たちはお互いに支え合いながら生きているのです。
そう考えると、この世界のすべては深くつながっていて、私たちには孤独などないのかもしれません。