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95-見えだす終わり

「ど〜しよっかなぁ。この映像。なあ、堂本はどうしてほしいよ?」

「……」


 緋村はニヤニヤと笑い、そのスマホを見せびらかす。

 叩き壊してやろうかなと思ったが、その時間も惜しい。体育館に直行しなければ。



 無視して隣を通ろうとすると、ガッと襟首を掴んできた。


「おい、無視してんじゃねえよ。何様のつもりだ?」

「急いでる。退いてくれ」

「立場分かってねえのかー? おーい、頭、動いて、ますかー?」


 コンコンとこめかみを叩いてくる緋村。こんな露悪的な奴だっけ……。


「爆発が見えなかったのか、お前。こんなことしてる場合じゃないだろ」

「んでぇ、堂本くんは俺の録画したモノが見えなかったのかなぁ? 正体、バレたくないよな?」

「……俺にどうしてほしいんだ。泣いて縋って、動画を消してくださいなんて言うわけないだろ。特にこんな忙しい時に!」

「は? んなクチきいていいと思ってんの?」


 え、本当にそんなことしてほしかったの……。


「お前といい白鳥といい、ナマイキなんだよな〜。ま、体育館にいる白鳥は“痛い目”見てそうだしいいとして。お前は、もうちょっと苦しんでもいいよなぁ?」

「……緋村。本気で言ってるのか、それ」

「決まってんじゃん! なあ、とりあえず土下座してみ? それも録画しといてやるからさ!」


 無邪気に、邪悪な笑みを浮かべる緋村。その姿を見ていると、犬飼さんの“互いに信じるなんて無理”って言葉に頷きそうになる……。


「…………はあ」

「あ?」

「なあ。悪かったよ、緋村」

「えー! それで謝ってるつもり……」

「たぶん寂しかったんだよな。構ってほしくて」


 バカな息子をそれでも愛すよ俺は……。

 パチパチとまばたきする緋村。言葉通じてないなコレ。


「いつも鮫島の陰に隠れてて、やっと自己主張できると思ったら俺らから総スカン。そりゃ、傷付くよな」

「……は?」

「けど、人生って長いからさ……たぶん白鳥も、お前のことを見直すことがあるかもしれないよ。ないかもしれない。もういい? 俺行くけど」


 掴まれた胸ぐらを、押そうとする力がこもった。

 俺が押されなかったので、結局緋村と顔が近づいただけで終わったが。


 すごい顔になっている。血管がこめかみで脈打っているのが見えるほどだ。


「……決めたわ。この動画、拡散してさぁ……テメェの住所も、ばら撒いてやる。前の動画もセットでなぁ!!」

「前の?」

「決まってんだろ!! テメェがリトルチャイナで暴れてた動画だよ!!」

「ああ、アレ……」


 子供を襲ってるように見える、悪質な動画ね。コイツだったんかい。


「よかった。心が決まったみたいで……じゃあ俺行くよ」

「スカしてんじゃねえぞ、クズ! みんなテメェの本性をすぐに知るぞ……そうしたらお前に逃げ場なんてなくなるんだ!! いっつもお前にくっついてる、あの根暗な引きこもり女もなァ!!」



 コォン!!! その後頭部に、パイプ椅子の角が叩きつけられた。

 白目をむいて倒れる緋村。その背後には、息を荒げる篠原が立っている。


「へ……ふ、ふひ。ね、根暗な引きこもり女、登場」

「篠原……」

「か、覚悟なかったら、こんな活動、付き合ってないし……ひひ。ど、動画消去は、任せて。ど、堂本は、急いで」

「……ありがとな」

「お、お礼は、クソ映画リレーで……」



 いやです。


 隣を過ぎるタイミングでこぶしをぶつけ合い、俺は旧校舎から飛び出す。


「変身!」

《ス・ス・ス・スーツアップ! スタンダード!!》


 銀のアーマーに包まれ、アスファルトを蹴って駆け抜ける! 体育館へと!!





「!!」


 カ、カカカッ!! 燃える尾羽が数枚、床に突き刺さる。

 それをギリギリで見切って躱し、白鳥は頬から流れる血を拭った。すでに、服にいくつも切れ込みが入っている。



 その目の前で、御影が変身した“フクロウ”の変異体が目を細めている。抜けた尾羽が、すぐに生え変わる……!



 体育館内にて。“天”、変異体、ゲートたち。この三つ巴が、混沌をもたらしていた。


「フン!」


 何度目か、飛来した瓦礫を、突きで破壊する“天”。すぐに粉砕されるソレらは、燃えながら粉々になるのだが……。


「大した技術だ。いつまでもつやら」


 眼帯の男が、懐中時計をもてあそびながら呟く。

 すると、瓦礫は“逆再生”のように元通りに形成され、また凌天をめがけて飛んでゆくのだ。


「索然無味! ラチがあかないな、お前との戦いは!!」


 肘で打ち壊すと、“天”は駆ける! 眼帯の男へ、拳を構えて!

 その一撃が、男を捉え……損ねる。彼は一歩横に退き、反撃の掌底を叩き込んでいた。


「ぐ、うぐぉ!?」

「少し待て。今のは、あまりうまくない」


 吹き飛ぶ“天”! しかし眼帯の男は不満げに呟き、懐中時計を操作する。

 すると、なんと吹っ飛ぶ途中の“天”が、見えない糸に操られるように戻ってくる!


「うむ……これか」


 打撃の瞬間に戻ってきた“天”へ、正確に、同じ位置へと、今度は“キック”を叩き込む男。

 直後、またも“天”が吹き飛ぶ! 今度こそ床に打ち付けられ、彼は吐血した。


「その熱。手で受けていれば、片手が潰れていただろうな。足が最適解だ」

「ぐっ……くく。面白くなってきた」


 手をつく床を焦がしながら、天がもう一度立ち上がる。その目には、狂気。

 ゲート副長も笑みを浮かべた。残虐な笑みを。


「簡単に死なぬなら、なぶり甲斐がある」

「おい! ソイツさっさと片付けろ! 熱のせいで空気が乾燥して、クソ……全員厄介になってんだよ!!」


 スパークを残す回避で炎を避け、浅黒い肌の少女が叫ぶ。

 数体の変異体に囲まれながら、それでも余裕がある立ち回りだ。一体を殴り、反対の一体を蹴り、隣の一体へ飛び掛かる。すべて、一呼吸以内。電撃じみたスピード。




 注意を逸らしていた白鳥は、風切り音で視線を戻す! 紙一重で尾羽を回避! 

 飛ぶ尾羽は、あまりのスピードに空中で発火。目の前で光を受け、白鳥の視界が潰れる。



 目をつぶった彼女は、闇の中、直観に従って回転跳躍!

 その脇腹を、フクロウ変異体のかぎ爪が掠めてゆく! 血を振り飛ばしながら、白鳥は辛うじて着地!



 だくだくと血の漏れる傷口を抑え、荒い息を繰り返す。冷たい汗がいく筋も額を伝う。それでも、彼女は闘志を絶やさない。


 なぜなら、絶やせば。



「!!」



 “無意識”を押し開いて現れた直政へ、白鳥は咄嗟に蹴り!

 御影への攻撃途中でナイフを弾かれ、直政はおおきく後ろへ下がった。


「やめて! 彼女はまだ間に合うわ!」

「……その体で、まだ意地を張るつもりかね」

「……!」


 攻撃を1発繰り出すだけで、白鳥の脇腹からの出血がますます激しくなる。

 それを見た直政が、悲しげに目を細めた。


「なあ……アンタも、貴も。人を信じて、どうなった? “これ”だ。もう分かるだろう? 信じても、傷付くだけだ」

「それがあなたの結論なの? シュルツさんが守ろうとしたものを見ても、本当にそんな結論になってしまったの……!?」

「……吾輩は、疲れたよ」


 そのナイフが、白鳥にすら向く。


 次の瞬間、フクロウ変異体の脇腹を、“レーザー”が貫いた。


「え!?」

「!!」

「む」


 くずおれる変異体。戦場の視線が、その射出元に集まる。


 次に、“天”がそのレーザーをガードで受けた! 異常発熱する肉体で、それでも彼が顔をしかめるほどの熱量!

 一本、だけではない! 四方八方から、“天”に光の束が集中! ジュウジュウと音を立てながら、全身が燃え上がりはじめる……!


 次に殺到する鉛玉を、ブリッツは電撃の盾で防御! 副長は一歩横に回避する!



「A-SAD。ターゲットは“紅龍堂”、“ゲート”です」


 それを撃つのは、黒部隊の構えた奇妙な形の銃だ。どれも、屋外に設置された円筒状の機械にワイヤー接続されている。


 彼らを指揮し、戦場を包囲させるのは“犬飼 衛”。冷たい目で敵を睨む。


「これはこれは、“紅龍堂”。あなた方の残していった“変異体”の研究で、高威力のレーザー銃が実用段階に入ったのは皮肉ですね」

「……!」

「そして……初めまして、“ゲート”のみなさん。揃いも揃って、ここまでアワナミを踏み躙ってくれたことに感謝しますよ」

「ああ、国家権力。どーりで鼻につく喋りだぜ、ガリベン野郎」


 ブリッツが青い火花を散らしながら、バルコニーへ移動する。

 眼帯の男が振り向く。手の中の懐中時計が、かすかに光る。


「くだらぬ。その狭い了見で邪魔をしにきたか」

「ええ。そして、選択肢などあると思わないほうがいい」

「それは、どちらの話をしている?」


 犬飼。眼帯の男。睨み合う。


 

 次の瞬間、異変があった。



 かすかな、水音が聞こえはじめたのだ。


「……?」


 まず気づいたのは、白鳥。かすむ目を擦っていると、すぐ背後から、湿った泥を踏むような音。

 振り向けば、フクロウ変異体……御影の抉れた脇腹が、グチュグチュと音を立てていた。見えない手でこねられる泥のように、肉と皮膚があらわれる。


 それは異常速度で回復する細胞の音だ。ものの10秒ほどで、彼女の傷口は完全に塞がった。


 それは他の、倒れていた変異体も同じである。


 同様の水音を、潰れた内臓、折れた骨、切られた喉から立てながら、立ち上がる……!!

 全員、無傷! 苦しげに唸り、ふらつきながら、それでも戦う意志を見せる!



「……チッ。紅龍堂、厄介なものを……」

「く。く、ははは。当たり外れのでかい博打だな……イカロスとフォールンを混ぜると、こうなるか」


 レーザーに灼かれながら、天が笑う。長時間の照射にも関わらず、大したダメージには見えない。

 犬飼も、もはや決断の時だ。いつまでも火力を一点集中すれば、変異体を逃す。


「全隊へ通達。民間人の巻き添えは考慮しなくて良い。たった今より、あらゆる武装の使用を許可する」

「……!」


 白鳥が歯を食いしばる。その時!!



 体育館のスチールドアが吹き飛び、風が吹き荒んだ!!


「!!」

「!」

「誰だァ?」

「ほう?」

「チッ」


 曇天を背に、陽光と共に飛び入るその存在!

 白鳥は思わず笑った。笑って、すぐそばに着地した“彼”に背を預ける!


「遅いわよ」

『悪い! 篠原のファンボーイやってた』

「いいわ。それなら仕方ないから許してあげる」


 クラップロイド! 白鳥と背中合わせで、自分の両拳を叩き合わせる!! そのバイザーから溢れる光が、青く燃え盛る!


『人が多いな! やることは変わらないってカンジでオッケー!?』

「ええ。いつも通り、馬鹿みたいに助けること」

『へっ、分かりやすくていいね』


 白鳥も、自分の服を躊躇なく裂き、傷口を縛り上げる。異常再生など、なくても戦える!


「……ンだアイツ」

「クラップロイドだ。……心しろ。アイツの前では、ゲートとしての業務は滞るぞ」

「なんで嬉しそうなンだよ、オッサン」


 気に入らなそうに鼻を鳴らすブリッツ。補足する直政は、自分の手にあるナイフを一瞥して、また構え直す。


「……さあて。どう乗り越えたものか」


「……厄介なところに、厄介なものが来る」

「く、はははは! 待たせてくれる、クラップロイド!!」


 完全に嫌な顔の犬飼。大笑する“天”。

 眼帯の男は、懐中時計をパタリと閉じ、無言。銀の怪物を見るその視線には、最大限の警戒の色。



 それらすべてを一身に、クラップロイドは高らかに宣言する!!



『全員死なない程度に殴る!!』

 


 その言葉を聞き、全員が理解した。コイツは、馬鹿であると!!


 戦場が再び、動き出した!!!




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