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53-銀の弾丸

 巡回ドローンがビルの合間を飛び交うのを頭上に、俺は少しずつ座標へ近づいていた。

 旧コンビナートまであと少し。そこまで辿り着けば、監視網も緩くなる筈。“タンカー”もそこに……。


《ど、堂本! こっち!》

『?? 篠原か?』


 聞き覚えのある声を耳にし、そちらを見る。

 そこには、一機のドローンが浮いていた。なんだか派手な赤青のペイントだ。


《へへ。な、ナミノヒ祭の出し物ドローン! 勝手に借りたんだ》

『いいね。1人で行くの怖かったし』

《が、ガソリンも、持ってきた。いる?》

『……お前ホント天才だよ』


 そろそろ疲労感がのしかかってくる頃合いだ。ドローンのメカアームからポリタンクを受け取り、補給を開始する。


《えっと……自衛隊のドローンもハッキングできれば良かった、けど。さ、流石にキツい》

『ごくっ、ごくっ……っぷは。だよな。そこまでは』

《だ、だから、パターンを解析した。ドローンの、巡回……》

『……ハッキングより難しくない??』

《ぜ、ぜんぜん楽勝! 2分で済んだし》


 そういやコイツ、学校にいた頃はあの白鳥を抑えて才媛の名をほしいままにしてた女だったな……。

 ガソリンを飲み干し、ポリタンクを放る。準備万端だ。


『オッケー。旧コンビナートまで案内よろしく、天才ハッカー』

《ま、任せて! 行こう!》


 ヴェニーノ、ディアブロ、サンシューター。残るシンジカート幹部は、この3人。

 次に出てくるのは誰なのか。あるいは、3人同時か……クズハ戦で残るダメージを感じながら、俺はこの先の地獄を予感していた。



「……先に行け」


 その言葉を聞き、ディアブロは眉根を寄せて振り向いた。


 旧コンビナート、港湾部。使われなくなって久しいこの場所に、あらゆる灯りを消した巨大船が停泊していた。

 夜の闇に溶けてほとんど視認も不可能なそれは、波が打ち寄せてはじめて存在を感じるほど。


 ナハシュ・シンジカート。武器密輸のための、“タンカー”だった。


「どうした」

「客をもてなす……」

「……そうか」


 廃倉庫、木箱に座って動かないのはサンシューターだ。言葉少なに、スナイパーライフルの銃身を磨いている。

 それだけで、ディアブロは理解したようだった。懐から、無線を放る。サンシューターがキャッチすると、低く笑った。


「お前とはまた仕事をしたい。連絡させてもらう」

「ディアブロ殿に言われるとは、地道にキャリアを積み上げてきた甲斐があったというもの。……ではまたいずれ」

「ではな」


 ドシリ、ドシリ。ディアブロはタンカーに乗り込んでゆく。

 船が、離岸する。コーポレーションの技術を積み、武器を満載した船が。


 運ばれた先で、混乱と死を引き起こすだろう。だがそれは、ナハシュ・シンジカートの知ったことではない。

 人が何人死のうが、そんなことに意味などない。所詮は数字の問題だ。“武器”の価値を証明するための犠牲。



「……お前の“価値”も、今から証明されるぞォ」


 サンシューターは、“銀に輝く弾丸”をためつすがめつ、薄く笑う。

 “ダオロスマイト”。地球外から飛来したと言われる、未知の鉱石。地球上のいかなる金属も凌駕する硬度。


 アーク・プラザでは、クラップロイドに何度も弾丸を防がれた。だからこそ用意した“切り札”。

 時間をかけて加工し、弾丸の体裁を整え、そして今。最初で最後の獲物が来る。



 倉庫の扉が吹き飛び、銀の閃光が飛び込んだ!

 サンシューターは立ち上がる。笑いながら!


「ようやく来たか、クラップロイド! 待ちくたびれたぞ!」

『サンシューター……! “タンカー”はどこだ!』

「一歩遅い。彼らはすでに出発した」


 巨大スナイパーライフル“エクリプス”を構え、サンシューターは臨戦態勢。

 クラップロイドも、ジリジリと動き続ける。互いの隙を伺うような膠着。


「自国の軍の包囲を切り抜け、よくぞ辿り着いてくれたものだ。俺の歓待の意思が無駄にならん……」

『“ここは俺に任せて先に行け”ってか? お前らみたいな連中にも仲間意識があるとはな』

「ひとつめ。これは仲間意識ではなく、貴様への復讐心だ。ふたつめ……俺たちのようなクズにこそ、仲間意識はあるさッ!」


 サンシューターのストンプ! その足元で、なんらかの機構が押し込まれる音!

 その瞬間、クラップロイドは倉庫の窓から覗く光に気づく! 吊り下げられた大口径ライフル!


 屈む! 反対の壁に大穴が開く! 彼が顔を上げた時、サンシューターは消えていた。


 クラップロイドの視界が忙しく切り替わる。サーモグラフィー、パッシブソナー、X線……感知するものはない。遠すぎるのか。



「「「スナイパーは嫌われやすい存在だ。俺もまあ、例に漏れずというところ……」」」

『アンタが嫌われてる理由は絶対他にあるね』

「「「これはしたり。だが、貴殿はもはや蜘蛛の巣にかかった蝶よ。せいぜい醜く足掻いてくれ」」」


 窓が割れる! クラップロイドが咄嗟に転がって回避行動を取る。

 だがそれは、石つぶてだ。吹き込む潮風が、不気味な風鳴りをもたらす。


「「「そうだ。丁度このように、心身を弱らせる」」」

『……良い性格してる』

「「「無論、そうでなくては務まらんゆえ」」」


 クラップロイドは突如、頭上の電灯を破壊! いくつも連なる蛍光灯に、転がるコンクリ片を投げつける!

 スパークが散り、破片が落下! すぐに辺りは月明かりだけになった。


「「「ほう。見えないと思うか」」」

『見えてるよな……』

「「「ちなみに言っておくと……そこから急激に“光量”を増やしたりしても、もう効かんぞ。前回で懲りたゆえ」」」

『はいはいご注意ありがとう! やろうとしてたよ』


 闇の中で身を屈めながら、クラップロイドは呼吸を鎮める。敵がどうやって彼を視認しているか分からない以上、迂闊な探索すら危険と言えた。


「「「そろそろ狙撃を開始するぞォ? 銀の怪物くんは、しっかりと隠れられたかな?」」」

『……っ……』

「「「も〜い〜かい?」」」


 轟音! クラップロイドは咄嗟の前転回避! 踵を掠める弾丸が、コンクリートに着弾、真っ赤に溶解させる!!

 射撃角度把握! 旧コンビナート、工業地帯の方角だ! 咄嗟にそちらを向くクラップロイドには、誰もいない煙突しか見えない。


「「「ははは……今ので取れんことくらい分かっている。わざわざ残って結果を確認しようとは思わんなぁ」」」

『……俺もスナイパー、嫌いになりそう』

「「「嘆かわしい男だ。辛抱が足りん……」」」


 また、心音すらうるさい時間が訪れる。


 猛スピードで思考するクラップロイド。やつはどうやってこちらを視認している? この闇の中で。

 そして、最大の問題。“どこにいる?”それが分からなければ、タンカーを追うなど夢のまた夢。じわじわとなぶり殺されるのみ。


「「「さーあ、今度は……ど、こ、か、ら、撃、と、う、か、な……」」」

『……ッ』

「「「うむ、決めたぞォ。特等席はここだ」」」


 あらゆる方向から反射して聞こえる声。もちろん、そうなるよう狙撃位置を選んだのだろう。

 ストレスでおかしくなりそうな呼吸を必死に回して、クラップロイドは思考しようとする。突破口が……あるはず。必ず、あるはず!


 そこに、気配。倉庫の端を走る、ネズミ。

 クラップロイドは電撃的閃きに身を任せ、それを捕まえる! そして闇の中、ひょいと窓の外に放り投げた!


 ……なんの反応もない。


『おいっ、サーモグラフィーじゃないのかよ!!』

「「「違う違う違う!! 無駄なのだよ! お前がお前である限り、勝ち目など1ミリもない……」」」


 雷鳴のごとき銃声! 窓際のクラップロイドは躱し、損ねる!!

 脇腹に喰らい、吹っ飛んで壁に叩きつけられた! そして、上から降ってきたトタンにのしかかられる!!


『げっ……ホッ、ゴホッ、ちくしょう……』


 クラップロイドは、あまりの衝撃で混乱した内臓の動きを取り戻そうとする。

 痙攣する肺で、必死に呼吸。力のこもらない腕で、トタン板を押し退けようとする。


 急がなければ。また狙撃されて、今度こそ直撃する。

 だが腕が、力を取り戻さない。当たりどころが悪かったか。クズハ戦のダメージも回復しきっていない……。



 ……そうして、違和感に気付く。


 たっぷり30秒は苦戦していた。なのになぜ、撃ってこない?


 リロードに時間がかかっている? ありえない。こんな大チャンス、相手だって見過ごすわけにいかない。

 ならば。なぜ。


(((お前がお前である限り、勝ち目など……)))


 クラップロイドは己のアーマーに触れた。そして、自分を覆い隠すトタンに。

 そうだ。答えは、これなんじゃないのか?

 


『……解除』


 堂本の身を包んでいたスーツが、消滅した。




「……」


 トタン板に押し潰されたクラップロイドが、出てこない。サンシューターは苛立ち始めていた。

 旧コンビナート、廃ビルの上。彼は何度か、“めくら撃ち”を迷った。だが、彼の美学がそれを妨げる。標的を当てずっぽうに撃つなど、ナンセンスの極み。



 だがこの時間はなんだ? この、何一つ進展のない時間は?

 もしや、押し潰されて死んだか? それこそあり得ない話……この疑心暗鬼こそ、奴の望むものか?



『テラヘルツイメージング』


 歪んだ声が。背後から、聞こえた。

 サンシューターはスコープから顔を離す。……これは。


『非金属を透過し、金属で跳ね返る波を利用したシステム。空港の手荷物検査でも採用されてるし、市警の装備にもある……敵の武装を見抜くためのものだ』


 サンシューターは振り向き撃ち! 伝説のガンマンじみたスピード!!

 それは、クラップロイド……のような形をしたトタンを貫通し、溶解させる!


 クラップロイドは少し横にいた。サンシューターの腕を掴み、握りしめる。


『タネは割れたぜ。サンシューター……ようやく会えたな』

「……!」


 スチームを吐き、エクリプスのバレルが排出されてゆく。リロードはバレルを交換するしかない。……バレルを。取り出せない。

 ドローンが傍に浮遊している。赤と青に塗られた、派手なドローンが。カメラでサンシューターを捉え、離さない。


「……」

『……』

 

 沈黙。潮騒の音。ドローンの駆動音。

 サンシューターが拳銃に手を伸ばす! その頬に、拳!! 吹き飛ぶ!!


『サンシューター! 隠れんぼはおしまいだ!!』

「全く貴様という獲物はッ……!!」


 廃ビルから落下! クラップロイドは追って跳躍!!

 サンシューターは笑いながら、とうとうダオロスマイトの弾丸を取り出した!!


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