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46-再起をはかる者たち

「……本当にごめんなさい」


 なんとか誤解が解け、白鳥は顔を赤くしながら謝罪した。

 家のリビングにて。かつてないほどの客数を迎えた俺は、どうもてなしていいか分からず、忙しくしていた。


「えっと、パンケーキ食う?」

「たべるー!」

「オッケ、準備する……」

「ど、堂本。お湯、沸かない」

「あーこれ、コンセントの根本のスイッチ入れないと……」

「うぅ……複雑怪奇な家……」


「……あの、堂本くん。落ち着いて話をしたいのだけど」

「あ、ごめん! もうちょいで行けるから」


 みかんちゃんの皿にパンケーキとバターを乗せ、ようやく一息。

 白鳥の向かいの席に座ると、彼女は呆れたように首を振った。


「いつもこう、バタバタしてるの?」

「いやまあ、お客さんが来てるのに何もなしはちょっと……」

「まあ良いわ。早速だけど、本題に入らせて」


 咳払いをひとつ。白鳥はそれだけで、纏う空気を変えた。自然、俺も背筋が伸びる。


「……まず、コーポレーションでのアワナミ市警の敗北。ニュースでもやってるけど、報道されてるより酷いわ。後方で指揮を取ってた父さんが怪我で入院するほどだもの」

「白鳥のお父さんって、確か……」

「“白鳥 正一郎”。警備部長よ」


 つまり、警視長だ。市警でもかなりの大物。

 そんな人が出張って、包囲を破られる。異常事態だ。


「妙だった、と言っていたわ。ナハシュの動きが、途中から……包囲の突破より、警官達の殺害に力を注いでたように見えたそうよ」

「……!!」


 思わず、窓から上空の裂け目を見てしまう。

 “生贄”。アーク・プラザでの激闘が蘇り、その共通点に寒気を覚える。


「……やっぱりあの裂け目は」

「ええ。多分……プラザの時と同じか、もっと悪いものでしょうね」

「……」

「お父さんは、もはや事態が市警の手に負えるものじゃないと判断してる。知事を通して、自衛隊の派遣を要請することが正式に決まったらしいわ」


 少し前には笑って否定していた、最悪のシナリオだ。

 というか、なんでこんなことを白鳥が知ってる?


「お前、盗聴とかしてないんだよな?」

「……」

「……してないんですよね?」

「自衛隊派遣の目的はひとつ。“アワナミ市”の治安を取り戻すこと。……ナハシュ・シンジカートと、クラップロイド……あなたの排除よ」


 答えてくれない白鳥は、淡々と情報を開示してゆく。

 とうとうパブリックエネミーとなってしまった。いやまあ、正体を隠して犯罪者をぶん殴る以上、いつかこうなるとは思ってたけど。


「どうしよ……」

「そこが、今日来た理由。どうする?」

「うん……うん? いや、白鳥には関係……」

「関係あるわ。だって私達、“クラップロイドを標的にするなら絶縁する”って言って病院を飛び出してきたもの」

「……」


 その闘魂はどこから来たものなんだ……。

 にわかに狂犬じみて見えてきた白鳥から目を逸らす。……そして、とっくに出ていた結論を口に上らせた。


「……やるなら、そうだな。市警を変えようとするんじゃなくて、やっぱりシンジカートの方だ」


 ヴェニーノ。ディアブロ。サンシューター。……そして、クズハ。

 彼らの危険度は恐らく、自衛隊の戦力ですら過剰にはならないほど。そこに、あの“裂け目”も加味するとなると……。


 ……やっぱり、ここで座ってるだけでは、いけないのだろうな。


「やるよ。俺、シンジカートを倒す」

「ど、堂本……大丈夫、なの」

「多分大丈夫じゃない。キツイし、怖いけど……」


(((キミは、自分が思ってるよりずっと、強い子だ)))


 そうだ。もう少しだけ、あの言葉を信じてみよう。

 もう少しだけ、自分を見つめ直す時間として。ナハシュ・シンジカートを、追ってみよう。


「こんな俺を信じてくれる人が居るんだ。負けっぱなしじゃ終われないよ」

「……堂本」

「……そう。それじゃ早速調査を開始しましょうか」

「うん。え?」

「ここにお父さんの鞄から引っ張り出してコピーした、ナハシュの過去の“倉庫”の所在地があるわ」

「白鳥さん? いまなんて言いましたか?」

「彼らは倉庫を転々と移しているようね。警察が突入する頃には、いつももぬけの殻だそうよ」

「白鳥さん?」


 コイツ……! ポーカーフェイスで次々話を進めていきやがる!!

 確実にみかんちゃんの教育に悪いと思いつつ、止める術もなく聞き入る。


「見て。これが地図」

「……見事に沿岸部に集中してるな」

「こ、これ、旧コンビナートばっかし……」

「ええ。で、絶対に内陸の方には作ってないの」

「ちょっとゴメン。パラサイト、いるか? この地図見て、何かわからないか?」

(〜〜〜♪……あ、すみませんご主人様。なんか失神してたし、パリキュアの撮り溜め消化してました)

「……この地図なんだけど」


 久々に聞いてもやはりイラつく……。というか、俺の体内のどこでパリキュア観てんだ。

 パラサイトは迅速に地図データを取り込み、解析を開始。ものの数秒で終わった。


(あーこれ分かりやすいですね。犯罪組織の倉庫を間借りしてるみたいですよ)

「犯罪組織の倉庫を?」

(ほら、ここは“黒潮会”。この小さいやつは“シュトルム”で、こっちは“紅龍堂”)

「こくちょーかい……シュトルム、ほんろんたん??」

「えっ?」

「え?」


 おうむ返しにつぶやいていると、意外なところから反応があった。

 篠原だ。俺が挙げた名前に反応して、口元を手で抑えている。


「そ、その名前……聞いたこと、ある」

「……どこで?」

「その……アーク・プラザで、ハッキング中に。ナハシュ・シンジカートの、遠隔PCまで逆探知して……メール、盗み見たタイミングで」

「そ、そんなことしてたのか」


 コイツもコイツで結構な橋を渡ってるな……あれ? もしかしてまともな奴は居ないのか、この3人?


「な、なんか、良い取引を願ってるとか、遅れは許さないとか……そんなことが書いてあった、気がする」

「良い取引……」

「……遅れは、許さない?」


 なるほど、あらすじが読めてきた。


「つまり連中は、焦ってたんだ。そうだ、そうじゃないとコーポレーションを“また襲う”なんてこと……」

「間違いないわ。最初は“コーポレーションの生徒人質事件”。次は“アーク・プラザの武装強盗”。すべてが邪魔されて、だから予定が狂った。だから、コーポレーション襲撃に持てる力の全てを注いだのよ」

「……と、ということは……強奪品の“納期”が、近いってこと?」


 静寂。

 顔を見合わせ、俺たちは確信する。


 この情報を持っている俺たちこそが、ナハシュ・シンジカートの、アキレス腱になり得る存在。


「ど、ど、どうしよう。どうにかして、今の倉庫か……それか、取引相手を突き止めないと」

「あるいは、取引現場でも良いわ。……それか、彼らに繋がるほんのちょっとした手がかりでも」

「……ごめん。ちょっと、今の……電話したい人が居るんだけど。力になってくれるかもしれなくて」


 篠原も白鳥も、同じように首を傾げてこちらを見てくる。

 渡されていた紙片を取り出すと、俺はそれを広げた。書き殴られた電話番号に、ヘタクソな携帯の絵。


「鉄巻さん。トクタイの隊長」




「停職を食らった!!」

「え?」

「停職だよ、停職! 聞いたことくらいあるだろうが!」


 席についた途端、そう言われて面食らう。

 鉄巻さん指定のうどん屋にて。俺、白鳥、篠原の3人で向かったところ、開口一番コレ。


「ボロカスのクラップロイドを連れ帰るのが監視カメラに映ってて……で、家宅捜索じゃ何も出なかったが……とにかく、お偉方のトサカに来たとさ! これにてトクタイは私の手を離れた! 昔からのメンバーも全員停職! 満足か」

「いや、俺は別に……スミマセン」

「黙れ! お前の責任じゃない。図に乗るな」

「ッスゥー……」


 酔ってるだろこの人。

 

「……まさか、酔ってます? 鉄巻さん」

「酔ってない」

「よ、酔ってる人が、みんな言うやつ……」

「だまれ。そもそも私は認めてないんだ。公安から……内部調査員だとぉ……しかもそいつが次期リーダー……トクタイの心得も寝言で言えんひよっこが……」


 寝言で言えるのか……。

 困惑しきっていたが、白鳥が持ち直した。


「鉄巻さん。聞いてほしいお話があります」

「白鳥の嬢ちゃんか。……チッ、白鳥。白鳥 正一郎め、アイツ、トクタイを解体しようと躍起だ……」

「この地図なんですけど」


 お前! よく堂々と、勝手にコピーした重要書類を見せられるもんだな!! しかも警官に!!

 白鳥は涼しい顔だ。何でもないことのように話を進めている。


「あー……ナハシュの倉庫じゃないか。ケッ、血道をあげて探しても、いっつも空っぽの……」

「実は、近々ナハシュ・シンジカートが大口の取引をするらしいという情報が、調査で明らかになりました」

「……なんだと?」


 くだをまいていた鉄巻さんの目が、鋭く光った。

 その雰囲気が、変化する。獰猛な猟犬のソレへと。


「詳しく聞かせろ。情報ソースはどこだ」

「そ、そ、ソースは……私が、アーク・プラザで、逆ハッキングした……シンジカートのPC……」

「取引相手は? ある程度絞れてるのか?」

「黒潮会、紅龍堂、シュトルムのいずれかです」

「……」


 それを聞いた鉄巻さんは、すぐさま携帯を取り出し、通話を開始した。


「もしもし。ああ、私だ。……停職中なのは知ってる! 出動じゃない。お前、たしか組織犯罪対策課から流れてきたんだったな。昔取った杵柄だ、協力してほしいことがある……」


 なんというスピード感。彼女は電話口で次々に用件を伝えてゆく。


「ああ。ああ、三組織の倉庫のデータを転送してくれ。古いもので構わん。……奥さんを大事にしてやれ。イクメン? フン、この時期しかできんと思えよ。じゃあな」


 ピッ、と通話を切る。そして、何度かスマホをタップすると、とある画像を俺たちに見せてきた。

 それは、旧コンビナートにビッッッシリと打たれた点の集まりだ。


「……まさかこれ、全部……」

「しらみ潰しにするぞ。捜査の基本は、脚だ」

「し、しらみ潰しって。鉄巻さん、停職中なのに」

「なんだ、怖気付いたか」


 白けたような顔で、鉄巻さんは俺を睨んでくる。

 だが、やがて彼女は視線をあげた。


「……ナハシュには、煮湯を飲まされた。何度も何度も……部隊員や同僚を殺されて、何も思わないほど私も冷血じゃない」

「……」

「お前達が持ち込んでくれた手がかりだ。お前達がやめろと言うなら、従うほかない。だが……」

「行きましょう」


 即答したのは、なぜか白鳥。

 彼女は腕組みして、頷く。


「目的は同じだわ。ナハシュ・シンジカートを潰す」

「……いいのか、白鳥のお嬢さん……いや、白鳥。お前の親父は、コレを絶対に気に入らないぞ」

「だからやるのよ」

「気に入った」


 ガッシと握手する2人。


 俺と篠原は置いてけぼりですよ。


「他の停職連中にも声をかける。全員で当たればそう長くはかからんさ」

「……いいんですね。こんな事してて、上の人にどう言われるか分かりませんよ」

「生意気を言うな。戦うのは本来、大人の仕事だ。お前らガキどもの領分じゃない」


 一応、形だけの言葉をかけてみる。

 だが、鉄巻さんはそれを笑い飛ばした。


「だが、“やるだけをやる”。そこだけは、大人も子供も関係ない。……たとえ停職中であっても、な」

「……そう、すね」

「そうだ。さあ食うぞ、体力勝負がお待ちかねだ!」


 うげぇ、という顔つきの篠原。

 それでも俺たちは、運ばれてきたうどんに手をつけた!





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