42-本社ビル、急襲
(ひーふーみー、多いですね。恐らくは“ナハシュ・シンジカート”が総出です)
『なんでそんなに……クソ、コーポレーション狙われすぎだろ』
(接敵します。警戒してください)
警察の装備フロアに飛び出した俺は、そこで動く犯罪者たちを見渡した。全員、ケースや吊り下げられた展示品を運ぼうとしていたようだ。
連中も、一瞬動きを止める。だが、即座に武器を構えた。
「クラップロイドが出たぞ! ヴェニーノ様へ報告しろ!」
「“災害救助フロア”の連中も呼べ!」
待つ義理なし! 群れに飛び込み、乱闘を開始する!
1人を殴り飛ばし、1人の足を蹴折り、1人を投げ倒す! 次に向かおうとして、背中に不可解な痺れ。
振り向けば、数名がスマートガンを向けてきていた。その銃口から、スパーク!!
アーマー肩部に、衝撃! ダラリと垂れる左腕に広がる痺れ!
『く、ぐっ、これは』
(前回の戦いで、防弾仕様のアーマーに対策を用意されましたね。ですがご安心ください! 私もアーマーの耐電性を高めました!)
『た、高めてコレか、もしかして』
(高めてコレです。昨日の今日ですよ。関節部は撃たれないよう気をつけてください)
「効いてるぞ! このまま殺せ!」
さらに数名駆けてくる。全員がスマートガン装備。
トクタイも使ってる最先端装備を、どうして連中のような犯罪者が。誰か横流しでもしてるのか……などと思考する暇はない。回避と防御に専念だ。
右腕で電撃弾をガードし、手近な1人の頭を掴む。盾のように構え、蹴り飛ばす!
ボーリングのように倒れ込む犯罪者たち! その頭上を飛び越え、できる限り彼らの陣形の内側に潜る!
「くそっ、撃つな! 俺らに当たるぞ!」
「屈め! いいから離れろ!」
広がる混乱。もちろん誤射を恐れて撃てないだろう。今度は倒す順番を考えながら、動き続ける。
その時、天井をぶち抜いて、車じみた巨大な塊が落下してきた!
『!!!』
押し潰される寸前にバックステップ。構え直して、その“大質量”を警戒する。
軋む床に、食い込む十字レッグ。灰色の蜘蛛じみたマニピュレータが開閉し、こちらを捉えるカメラアイが威圧的に光る。
灰色の、鉄人。コンクリート片を体からパラパラと落としながら、犯罪者と立ち並ぶ。天井に頭がつきそうなほどの巨体……。
(災害救助用ロボスーツ“タロス”。ハッキングされてますね。ラジコン状態です)
『……コーポレーションはハッキングウェルカムなのか?』
(まー雑魚が増えたところで……ねぇ?)
『ねぇ、じゃねえよ』
射撃再開! 同時に、タロスもドシドシと向かってくる!
痺れから復帰した左腕で、電撃をいなしつつ突進を受け止める! 衝撃で床が割れ、破片が飛び散る!
後悔はすぐにやってきた。受け止めた腕が、押し込まれる……そのパワー! 通り一遍の敵とは桁違いだ!
右腕も動員すると、空いた胴体に射撃が集中! 悪寒と痺れが、全身を駆け巡る!
『だ、で、いだだ、しししびれ、』
(ちなみに言っておくと、あんまり心臓付近に電撃を喰らいすぎると私の機能がジャミングされザザザザザザザザ……)
『うううううそそそそででででしししょ……』
ノイズに飲まれるパラサイトの声に、絶望が色濃くなる。もっと撃たれにくい所に居ろよ。
電撃が重なるごとに、脊椎を氷の指先で撫でられるような、嫌な感覚が積み重なってゆく。徐々に、痺れが、末端まで満たしゆく……!
今、やらねば! 全身に喝を入れ、タロスのマニピュレータに拳を叩き込む!
そのパンチが、捉えられる! 蜘蛛じみて開いていた機械腕が閉じ、いよいよ身動きが取れなくなる!
「バカが! かかったぞ!」
「今だ、撃ち殺せッ!!」
犯罪者たちの快哉の声を聞きながら、俺はヘルメットの下で笑っていた。
かかったのは、お前らだよ。これなら、腕の先が痺れていようが関係ないからな!!
『うぉ……ぉぉおおお!!』
床が凹むほどの力を込め、タロスを持ち上げる。その十字レッグがコンクリートから剥がれ、巨体が宙ぶらりんに浮く。
ラジコン状態のコイツは、セオリーにない動きに戸惑っているのが分かる。脚部が意味もなくもがいているのを見るに、操縦者も焦っているようだ。
「うそだろ、どれだけ重いと思ってやがる!?」
「う、撃て、とにかく撃てェ!!」
周囲の犯罪者たちは、呆気に取られながら銃口を持ち上げる。
遅い。浮いたタロスを、俺はグルグルと振り回し始めていた。
合体した腕を支点に、台風のようなジャイアントスイング! 周囲のすべてを巻き込み、火花を散らしながら、回転は止まらない!!
「う、うわあぁぁぁぁ!!!」
「逃げろ!! 逃げグェッ」
「ひいぃぃ!! 助けて!!」
鈍い手応えが返るたび、短い悲鳴が上がる。肘が伸び切るほどの重量を、必死に遠心力へ散らす。
そのうち周囲の風景が色だけになり、タロスと見つめ合いながら回り続ける。
灰色の巨体も、徐々に軽くなってゆく。合金の板が剥がれ、鉄の骨組みが吹き飛び、マニピュレータが脱落し……
すぽーん、と抜けた最後の破片が、壁に突き刺さる。
そこでようやく、俺は止まった。握手のような形で停止したタロスのマニピュレータを剥がすと、辺りを見回す。
あれだけいた犯罪者たちは、皆一様に床に倒れていた。呻き声と、咳き込む声だけが時折聞こえてくる。
『……このフロアは制圧か』
(ハローワールド。完璧天才AIのパラサイトちゃんが復帰いたしました。……おや? タロスは?)
『次のフロアに向かうぞ。島善さんはそこにいる……っ!?』
救助ロボの残骸を踏み越えようとして、少しふらつく。残る痺れが、体の奥でわだかまっていた。
ムチャをしすぎたのだ。最短で突破しようとして、ダメージ上等な戦い方を……。
(消耗レベル:中。推奨:一旦退却)
『……ありえないね』
頭を振って視界を固定すると、今度こそ駆け出す。
ナハシュ・シンジカートの脅威、その中心めがけ!
◆
「さぁて! コイツが“ネオ・プロメテウス”……フォールンやイカロスを“強化”する夢の装置ってヤツか!」
パン、と手を叩き、ヴェニーノは歓声をあげる。
その目の前には、カプセル状の装置。人が1人入れるほどの大きさのソレは、ぽっかりと入り口を開けていた。
「……そんな装置が、あると思うかい。ありえないよ……力には代償が伴うんだ。無計画に能力を強化すれば、どうなるか」
「貴重な知見に感謝するぜ、ドクター。ずいぶんこの装置で“実験”を経たようじゃないか」
言い返され、顔をこわばらせる島善。
彼の膝は撃ち抜かれ、血だまりがカーペットに吸われていた。尻餅をついた状態で、動けないのだ。
「だが、心配するな。コイツを使いたいってのは俺たちじゃねえ……ブツを届ければ、それで終わりさ。だから知ったことじゃねえ」
「喋りすぎるな、ヴェニーノ」
楽しげな声が、遮られる。
それは、腕を組んで、窓から夜景を見下ろす巨漢の警告だ。
傭兵長、ディアブロ。険しい目で都市の動きを見つめ、油断なく外の動きを警戒している。
ヴェニーノは悪びれず、笑っている。
「怯えてるのか? 俺らは“フルハウス”でここに来たってのに、慎重だねェ」
「ましかし、ディアブロの言うことも一理ある。“クラップロイド”も来ているらしいからな、余計な情報は遮断しておきたいものだ」
仲裁するように言うのは、巨大なスナイパーライフルを担いだ男。
特殊フィルターで視界を保護するソイツは、サンシューターだ。薄く笑み、目を閉じている。
「この目の恨み、晴らすためにも……ドクター、とある鉱石について尋ねても良いかね」
「……」
「……なんと、非協力的な態度だな。大した度胸だ」
「言ったハズだよ。僕はキミたちに協力するつもりはない」
ゴッ! ヴェニーノが銃床で島善の頬を殴りつける。
血を噴き、床を力無く見つめながら、それでも島善は無言。
「……悪いな、“尋問”はレオの分野だったから」
「構わんさ。ドクター、“ダオロスマイト”はあるかね」
「……!」
「この世で最も硬いと言われる、地球外の鉱石……ああ、今の反応でわかった。ここにあるようだな」
サンシューターは細く目を見開き、口を歪めて笑う。
「コーポレーションには感謝してもしきれん。俺が“クラップロイド”にリベンジする時、必ずやその鉱石が“シルバーバレット”となってくれようから」
「……キミたちは、勘違いしている」
「何?」
血を垂らしながら、それでも静かに言葉を紡ぐ島善。
その声に、ヴェニーノも、サンシューターも、ディアブロも注意を向けた。
「クラップロイドは、この程度の罠で殺せない。アーマーを貫く弾を用意しようが、数を頼みに叩き伏せようが……」
「……大した信頼じゃねぇか」
「確信だ。彼は弱くない」
島善は顔を上げた。その目に燃える闘志。
ヴェニーノは嘲笑う。サンシューターは口笛を吹き、ディアブロは無言で険しい顔になる。
「彼は必ず乗り越える。キミたちの卑怯な作戦なんか、必ず」
『島善さん!!!!』
その時、階段から、銀の閃光じみた存在が飛び出した。
それはカーペットを両足で踏み締め、悪党たちと対峙する。
クラップロイド。上下する肩は、怒りによるものか。構えた拳に力が漲り、震えが走る。
ディアブロが構えた。サンシューターがライフルを上げ、ヴェニーノが感嘆したように笑う。
「そうか! それじゃ、コイツが“クラップロイド”ってことか」
「油断するな。レオはコイツに倒された」
「久しいな! トクタイから逃げおおせたとは、マグニフィセント」
『テメェら……島善さんを撃ったのか』
憤怒のあまり、裏返りかける声。
その場の空気が、澱んでゆく。殺意と憎悪が入り混じり、重圧が増す。
そんな中でも、ヴェニーノは酷薄な笑みを絶やさない。
「撃ったさ。次はどこを撃つか、賭けでもしようとしてたところだ」
『ッ!!』
豹のように飛び掛かる怪物を、ディアブロが受け止める! 拳同士がぶつかり、衝撃波が散った!
『テメェらだけは! ここで!!』
「フン」
軽く拳を振り抜き、クラップロイドを弾く。
そして、ディアブロはポキポキと指を鳴らした。
「作業を続けろ。1人で充分だ」
「俺も楽しみたかったんだがねェ」
「効率を考えろ」
『……!!』
着地したクラップロイドが、構え直す。
その目の前、城砦の如きディアブロが、遥かに威圧的な構えをとる……!




