23-乱入者あらわる(2)
『くっそ気色悪りい……!』
(あら口の悪い)
2人を相手に、俺は大苦戦していた。
エクソギアのエンハンスパワーを全開にし、手足を潰しながらも攻撃してくる二人組。パンチもキックも、止めるたびにグシャリと鳴る。
不気味なのは、彼らの顔に“痛み”がないこと。怯みすらせず、ただ向かってくる。
『ブラッドフォグってそんなにヤバい薬なのかよ!』
(いやーバイオハザード。しかも初代のやつ)
『お前映画作品の話してるだろ! こんな時に!』
ちなみに3以降は認めてない。
そんなことを言っていたら、吹き抜けの上階から誰かが飛び降りてきた。
激しい音と共に着地したのは……180以上の高身長に、引き締まった体格。サングラス越しの瞳に、憤怒を燃やす狙撃手!
(警告! 警告! イカロス反応アリ!)
『イカロス!? コイツもか!』
(“サンシューター”。本名マーク・オルドリッチ。“イカロス”、視覚特化)
ヤツはボキボキと首を鳴らすと、2丁拳銃をこちらに向けた!
「さぁて、“銀の怪物”よ。お前のおかげで、俺のプライドはボロボロだ」
『お前、自分のプライドよりこいつらの体を心配してやれよ危ねっ!!』
一瞬目を奪われたが、エクソギア2人の猛攻がすぐに再開する。
やりづらいことこの上ない。相手が常に攻勢である以上、俺の攻撃はカウンターだ。そしてこの威力へのカウンターは、致命打となる可能性が高い!
(えー殺しましょうよ。ブーブー)
『マジでやめろ、マジで、やめろ』
パラサイトの物騒な声に慄きながら、キックを防御! ガードを押し返し、足首を刈り、ほんの少しの猶予を得る!
そこに、銃弾! ヘルメットスレスレまで迫っていた2発に気付き、半ば転けるようにして回避!
「踊りは得意かね。ならばコイツらを気に入るぞォ」
『いちいちキザな喋り方しないと死ぬのかアンタは……』
サンシューターだ。クルクルと2丁拳銃を回すと、その銃口を向けてくる。
かなり大口径。スナイパーライフルほどではないが、これも当たれば隙を生む。
そして……やつは何も、狙撃という手段を捨てたわけではない。背負ったスナイパーライフルは、ちゃっかり銃身が短く交換されている。近接戦での取り回しをよくしているのだ。
「ん? どうしたね。ホラ、かかって来ないか」
『性格悪ッ!』
吐き捨て、向かってきていたエクソギア2名の相手に戻る。
正直、この2人も、1対1ならさほど苦労もない。いかにエクソギアのパワー供給が凄まじくとも、扱うのが凡人ならば。
だが、サンシューター。コイツが戦場を常に見張っていることで、俺は数倍やりにくい。
欲をかいて追撃すれば、必ず奴はあの“大口径ライフル”を出してくる。隙を少なく、用心深く立ち回るしかない。
(“エクリプス”。サンシューターが扱う、試作スナイパーライフルです。発射するごとにあまりのエネルギーで銃身が使い物にならなくなるので、“バレルカートリッジ式”だとか)
『は!? 欠陥品じゃねーか!』
「なに! いま我が愛銃の悪口を言ったのか!?」
『よく分かったなそうだよ!』
プロフェッショナルですみたいな顔して使ってる銃が馬鹿すぎだろ!
エクソギア2人の胸を同時に押し返し、一撃ずつ蹴って突き放す! そこへサンシューターが飛び込んでくる!!
『くっ』
「ならば汚名返上といくか、なあ“エクリプス”!」
2丁拳銃! 奴の右腕がフックのように飛来し、受け止めた先で射撃!
首を傾げて躱し、伸びてきた左の拳銃を弾く!
弾いた銃口が逸れ、気が緩む一瞬。その瞬間、銃口から光が溢れ出した。
『な゛ッ……』
「閃光弾は初めてかね? 最後になるゆえ安心しろ」
よろめく。すぐに視界が戻る。腹に突きつけられたエクリプスが見えた。
(ちょいと失礼、コントローラー渡してください)
『えっ』
ゴガァン!! 耳を聾する轟音、衝撃波に歪む景色!! 滑り出す巨弾が、スローモーションで迫り来る!
俺の肉体は勝手に動いていた。非人間的なパワーで背骨が反り返り、消し炭の未来を回避に動いたのだ!
腹、鳩尾、喉、顎! 熱い感触が掠り抜け、目の前の天井を貫く! 命はあった。空中を吹き飛びながら、赤熱するアーマーが見えた。
家電製品の商品棚に、頭から突っ込む! 意識が飛びかけ、取り戻す。ここで気絶すれば、本当に死ぬ!
(すみません、見ていられなかったもので)
『ゲホッ、できれば最後までやってくれないかな……』
(短時間で乱発してたら脳みそロースト一丁上がりになりますよ)
『怖えよ……』
「ヒュウ。取ったと思ったが」
サンシューターは起き上がる俺を見、サングラスを上げて口笛を吹く。そして低く言った。
「時間を稼げ。2人でな」
その命令を受け、突っ込んでくるエクソギア2名!
カートリッジ交換も、数秒で終わるだろう。あまりにも窮地だ。このままでは、遠からず殺される。
その時ふと、焦りが内心を支配していることに気付いた。
目を瞑り、息を吸う。強張った体を、どうにかリラックスさせようとする。
篠原、白鳥との約束を思い出す。ここで膝を屈するわけにはいかない。突破口は、必ずある。
目を開き、構え直す。到達した2人と、戦いが始まった。
混戦になりながら、チラとサンシューターを見やる。交換を終え、静かに狙撃体制に入っている。まさに狩人。
それでいい。今、とっておきを思いついたところだ。
振り向き、柱に備え付けてある消火器を蹴り付ける! 破砕したそれが爆発し、粉塵をそこら中に撒き散らした!!
「なんと! いいぞ。貴殿らの国では“徒労”と呼ぶのだったかな?」
『へっ、誰が誰だか分かるってか!?』
「……俺をナメているようだな、怪物どの」
もうもうと煙る消火剤の中、その返答に俺は頷く。
そうだ、関係ない。誰が誰だか分からなくとも、お前は撃つ。さっき経験したからな。
あるいは、見極めようとしているのだろう。サングラスを外して、精度の良いスコープで、少しの光も逃さぬように!!
それが、穴だ!!
バチン! 置いてあった屋外用のライトを、光量全開で点灯する!!
夜間すら昼間の如く照らし出すコーポレーション製品!
「ぐ、ぬぅっ!?」
悲鳴! 薄れゆく煙幕の向こう、目を抑えるサンシューター! 頭の上のサングラスを下ろそうとし、指が震えて取り落とす!
チャンスだ! 煙幕の中、訳も分からず光源に向かおうとするエクソギアの一名を、背後から掴んで柱に叩きつける! そのスーツのバッテリーを、引き千切る!
カバーに来たもう1人の、キック! 脇に抱え止め、捻り投げてギア関節部を破壊!
無力化、完了。立つ力も失って倒れる2名を横目に、サンシューターへ向き直る。
やつは抑えていた目から手を離し、息も荒く顔を上げた。その瞳は、深刻なダメージを映すかのごとく小刻みに揺れる。
「み、みえん、ボヤける……きさま……俺の、目を」
『ハン! 最初っから目が弱いって分かってたよ。わざわざショッピングエリア全体を薄暗くしやがって、モグラかっての』
「一度ならず、二度までも……怪物、如きがァッ……!!」
憤怒が、憎悪に変わる唸り! サンシューターはエクリプスを構えようとし、震える腕が上下する!
気絶させた犯罪者たちが、徐々に起き上がるのが見える。チャンスは今、ここしか有り得ない!
トドメの、一歩! 床を踏み砕き、歯を食いしばるサンシューターめがけた一撃を……
振り抜こうとした、その時!!
《気をつけて!!》
スピーカーが震え、ショッピングエリア全体に声が響き渡った。
同時に、ショッピングエリアとライブエリアを繋ぐシャッターが、閃光と共に吹き飛ばされる!!
『!!』
「……!?」
俺も、犯罪者たちも、サンシューターですら視線を奪われた。
バシュン! 通路から何かの射出音。スモークの塊が飛来し、エリアの中央に着弾する。
床で回転するそれは、発煙弾だ。バシュンバシュンと音が続き、ショッピングエリアが瞬く間に薄煙に包まれる。
そして、足音! 一糸乱れぬ行進の音! 近づいてくるそれらが、静寂を乱す!
「あぅっ」
出入り口に近かった悪党の1人が、眉間から血を噴いて倒れた。虚ろに開いた穴から、ドクドクと血液が漏れ出てゆく。
シャッターの残骸を踏み越えて現れたのは、青い鎧とヘルメットに身を包んだ武装集団だった。胸部プレートに刻まれた“特殊事件対策室”の文字。
銃を手に、彼らは即時射撃を開始する。悪党どもは抵抗する暇もなく、あっという間にボロクズのようになって倒れる!
やがて集団のうち、一部がコチラを見つけた。冷徹な敵意が剥き出しになり、いくつものレーザーサイトがヘルメットに集中する。
そして、マズルフラッシュが連続した!
『……!!』
銃弾が迫る中、俺は——。




