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19-プラザでの戦闘

 目の前の事実は、突きつけられてなお、受け入れ難いものだった。


 見知った顔が、一瞬で銀の怪物に変わる瞬間。“アレが正体”とでも言うような、淀みない動き。


 いま、銃弾をはじき、犯罪者たちに飛び掛かるその存在……。それが、堂本くんだったなんて。


 だとしたら。


 だとしたら、私は。


 ずっと彼の逃げ癖を嫌っていた、私は。


 彼の、何を見ていたというの?





(はい余裕〜。いやー目ついてないんですかねこの人たち。さっきから銃の効果ないでしょ!)

『口が悪いんだよお前は!』


 胸ぐらを掴み、犯罪者の1人をブン殴って気絶させる。

 まだまだ敵は大量にいるらしく、グラウンドの銃声は止まない。パニックの人混みが、倒れる量を少しずつ増す。



 目立たなければ。銃口を俺に集めなければ!



『おし……良いこと考えた!』

(えーなんです? 晒し首にするとかですか?)

『怖えよ!』


 倒れた体をまさぐると……やはりあった。無線機だ。

 あまりにもタイミングよく事が起こったからな。コレでチマチマ打ち合わせしてたってわけだ。


 オンにして、口元にかざす。


『あー、あー、スポーツエリアで銀の怪物に襲われていますどうぞ。シャッターの近くなので至急応援をよろしくどうぞ』

(よろしくどうぞは何か違いません?)

『とにかく来いって! いいから!』


 適当言って、胸に無線機をつける。困惑の声がスピーカーから漏れてきた。


《おい、銀の怪物とは何だ!?》

《生贄は足りたのか》

《ネットワーク掌握率、まだ足りません。レオ様、ご指示を》

《……銀の怪物とやらの詳細を》


 聞こえる情報に注意を割きながら、また1人の腹にキックを叩き込む! くの字に折れた犯罪者の首筋に肘落とし、制圧!


『フゥ! えーっと、銀の怪物はですね……銃が効かない! それから、あー……また1人やられた! これは全員でかかったほうがいいっすね。スポーツエリアの人員を集中させたらどうすか?』

《銃弾が効かないだと!?》

《レオ様、“サンシューター”を向かわせるべきです!》

《……お前、何者です》

『は? いやえーっと……俺俺、俺。俺ですって』

《全員、周波数を変えなさい》

『は!? おーい!』


 悪党もSNSイジメをやる時代かよ! マジで最低だな、軽蔑します。

 やり場のない怒りに囚われていると、後頭部で軽い衝撃が弾けた。


 振り返れば、数名の犯罪者どもが俺に銃口を向けていた。


『おお、やってみた甲斐があったな』

(ふーむ……一山幾らって感じのゴロツキですねぇ。さらっと平らげちゃいましょー!)

『言われなくても!』


 踏み込む! バチバチとアーマーを叩く弾丸を無視し、手前の1人を殴りつける!

 顔を支点に風車じみて回るソイツを無視し、次のテロリストに手を伸ばす!


「ばけもの、」


 言いかけた口を捉え、別の1人に投げつける! だがソイツは軽々と受け止めた!


『!』

(エクソギア。丁度いいんでスペックの違いを見せつけちゃいましょうか)


 灰色のスーツを着用したソイツが、得意げな笑みを浮かべた。

 1人だけではない。もう2人、エクソギアを装着した状態で現れる。舌なめずりする奴、無表情の奴。


「ぶっ殺せば“シンジカート”にクチ利いてもらえんだろォ?」

「油断するなよ。レオ様に面倒をかけることになる」

「そこまで厄介な相手かよ?」


 3対1。これまでのように楽々、とはいかないだろう。こめかみを伝う汗は、幸いヘルメットで隠されている。

 3人は油断のない立ち回り。俺を囲うような動きで、ジリジリと包囲を狭めてくる。

 


(ぶつかり稽古といきますか! 胸貸してやってくださいよ親方!)

『ありえない話し』


 一瞬後、舌舐めずり野郎が蹴りを放ってきた! 人間とは比する事もできないスピードのソレをいなし、その脇腹にフックを放つ!


 が、鈍い音と共に受け止められた。しまった手加減しすぎた、と思う暇なく吹き飛ばされる!


 無表情野郎のタックルだ! 機関車じみたその突進を、蹴りで突き放して地面を転がる! 急いで起き上がり、体制を整えようとする!


 案の定、得意げ野郎がパンチを振りかぶっていた! 咄嗟に上げたガードに、激突! 上体が揺らぐ!!


『油断してたかッ』

(なら次は?)

『気ィ引き締める!』


 そう、油断だ。浮ついた心が鎮まり、呼吸がフラットになる。

 コイツら1人1人の連携は、大したものではない。そこだけ切り取るなら、ディアブロ部隊の方がよほど厄介。



 証拠にいま、追撃に来た得意げ野郎は孤立している。


(では、誘いましょう!)


 そうしよう。パラサイトと俺の思考が同期され、“わざと” よろめく。大きな隙を晒す。

 そこへ、更なる拳! 得意げ野郎はフィニッシュブローとばかり、大ぶりなパンチを放ってきた!



 トドメにしてもお粗末だ。思わず鼻が鳴る。奴の上体は完全にバランスを欠き、伸び切ろうとする拳はどう見ても引き戻せず一歩に体重を預けすぎでほんの少しでも押せばたちまちスリップして叩き伏せれるようでスーツ任せのお粗末な攻め手なのが見ただけで丸わかり……



 拳の側面に、手のひら。円を描くように回して足を掛け、肘、肩を完全に極める。スーツ越しだろうと関係のない合気道! 生駒先生からラーニング済みだ!!



 ……と思っていたのだが、握っていた腕からボギボギと音が鳴った。


「ぎぃあああああ!! いぎゃああああ!!」

『あっ、えっ!? そこまでするつもりは……』

(あーあやった。最悪ですよご主人様。こんな暴力的な人だったなんて)


 ああ完全に失念してた! なまじ相手の力を利用する動きだっただけに、スーツのパワーをまともに受けた腕が耐えられなかったのだ!


 泡を吹いてのたうち回る元・得意げ野郎。見る影もないその振る舞いに、流石に罪悪感が湧いてくる。



 舌なめずり野郎と無表情野郎を見る。2人とも、とんだバケモノを見る目をしていた。いや違うんですよ……。


「……どうする」

「2人じゃキツいな。“サンシューター”の居るエリアまで撤退だ」

「そうだな」


 舌なめずり野郎は意外と冷静な事を言い、懐からなにか筒のような物を落とした。

 一瞬後、耳をつんざく爆音と白で塗り潰される世界。視界が戻った時には、2人は遥か遠くで、上がったシャッターを潜ってショッピングエリアへ消えるのが見えた。


 戻ってくる静寂。遠くの悲鳴と、呻き声。


 どうやら、スポーツエリアの安全は確保できたようだ。


 そこに、声がした。


「ど、……ど、どーもt……その、あの!」

『おぉ。よっ』


 篠原だ。震える脚で、よたよた駆け寄ってくる。

 そばまでくると、震える指でひとつひとつ、装甲を確かめてゆく。その息遣いが徐々に落ち着き、俺もホッと息を吐いた。


「け、けが、ない……よかった」

『ああ、楽勝。……お前は?』

「だ、だ、大丈夫」

『良かった』


 ひとまず安心。俺たちは難局を乗り越えたのだ。

 

 あたりには怪我人が多い。蹲って呻いていたり、泣きながら仰向けに倒れていたり。俺たちに注意を割くような余裕は無さそうだ。


「……あの」


 と、さらに人が増える。白鳥だ。ミカちゃんの手を握って、俺たちのそばに立っていた。


『ああ。ミカちゃん、大丈夫だったか?』

「ええ、その……ありがとう。命を助けられたわ」

「おにーちゃん、カッコいい! パリキュアみたーい!」

『パリキュアっていまこんな敵側みたいなビジュアルなの……?』


 もっとパリコレでキュアキュアみたいな話だったじゃん……。

 ミカちゃんは無邪気そのもの。さっきまで犯罪者どもを殴り倒していた手に触って喜んでいる。


『……このままここでゆっくりしてたいけど、そうもいかない。無線で聞いた感じ、連中は殺しにすごく積極的だ……まだまだ隠し玉もある感じだし、どうにか逃げないと』

「逃げるって……どこに?」

『エリアごとのマップか、監視カメラにでも接続できればな……』


 不安そうな白鳥。周囲の人々は怪我人だらけだ。彼らを連れて逃げるのは、一筋縄ではいかないだろう。

 情報が欲しいのに、それを手に入れる手段が……。


「……やってみる」

『やってみる?』


 声を上げたのは、篠原。彼女はいつものような怯えた目ではなく、覚悟に光る瞳だ。


「わ、私、ここに来るまでに勉強してきた、から。……このプラザは“ターミナル”にセキュリティシステムが集約されてる筈」

『ターミナル?』

「う、うん。そこに行けば、エリアマップとか、監視カメラ映像とか……見られるかも」

(一理あります。特にコーポレーション製の建造物には多く見られるコンセプトですね)


 とんでもねえクソセキュリティだ。そこ抑えたら勝ちとか、タワーディフェンスやってるんじゃないんだぞ。

 ……いや、だからこそ、か。今、目指そうとする俺の気持ちが既に挫けそうだ。


『ターミナルなんて、そう簡単に扱えるのか?』

「……私、ずっと引きこもってたから……ふへ。機械いじりとか、ハッキングとかも、ちょっとできる……」

『……ちょっと?』

「……クラリスのホームページにログインしたり……管理者画面で、おもしろフラッシュ見たり……」

『だいぶ悪質!』


 しかし、どうしたものか。ターミナルに到着するまでは完全に手探りの行軍になってしまう。

 仮に辿り着けたとして、俺にクラッキングなんて器用な真似、出来るかな……。


「わ、私、やるよ。ついていく」

『……篠原』

「わ、私、ぜんぜん強くないけど……でも、こんな状況で、ずっと怯えたままなのも、嫌。ど、堂本だけ、戦わせたくない」

『……』


 ぎゅっと手を握ってくる篠原は、真剣そのものだ。いつもなら下を向く視線は、じっと俺のヘルメットを見ている。

 言葉に詰まる逡巡。だが、俺はすぐに腹を決めた。


『分かった。お前の案に乗る。けど……俺が逃げろって言ったら絶対逃げろよ』

「わ、わかっ、た」


「……待って」


 ずっと黙っていた白鳥が、口を開いた。見れば、何か思い詰めたような表情で、彼女はこちらを見つめている。


「私も行くわ。ここに怪我人を残していくのは……すごく怖いけど」

『え? いや、安全確保の人員も必要だし、リーダーのお前が……』

「私が見守るだけの人間だって決めつけないで! 私にも、出来ることがある筈だから」


 頑なな白鳥は、なにか切羽詰まっているようにも見える。

 言葉を探して、結局諦めた。俺たちは極限環境においてド素人だ。1人も2人も変わらない。


『ミカちゃん泣かすなよ。ちゃんと話して説得しろ』

「分かってる」


 背中を向ける彼女に、思わずため息が出そうになる。


 前途多難すぎる。そもそもどこに向かえば良いんだ。シラミ潰しなんぞしてたら、ターミナルに辿り着く頃にはボロッボロ。


(ショッピングエリアですよ)

『は?』

(ですから、ターミナルはショッピングエリアです)


 何でもないことのように、パラサイトがそう伝えてくる。いや、何で知ってる?


(さっきの舌なめずり野郎が撤退していった方向もショッピングエリアで、サンシューターがいるのもそこ。守りが手厚いなら、取り返されたくないものがあるんです)

『すげー』

(でしょう? いま構造を思い出して、適当に理由付けただけですけど)


 最悪だよクソAI。感心を返せ。


『何で構造なんて知ってんだよ』

(昔、管理者画面でおもしろフラッシュを見てた時にチョロっと……)

『お前ら2人揃って……くそ、つまり何だよ。俺らは敵陣のど真ん中に突っ込むワケ?』

(いやぁワクワクしますね!)

『お前だけだからな』


 げんなりしながら、ショッピングエリアへ繋がる通路を見る。


 システムが乗っ取られたその先は、暗闇に覆われていた。





「出動だ」

「おぉ!? てことは、シンジカートか」

「さあな。プラザ絡みなら、コーポレーションの命令だろう。配備された警官がやられたらしい」


 女警官の目が鋭く光る。ピリつく空気は、署内全体に充満していた。

 出動許可の降りない部署から、恨めしげな視線が飛ぶ。


「発砲は?」

「許可などいらん。そのための“トクタイ”だ」

「ハッハ、サイコー! ……銀の怪物は?」

「傍受された無線じゃ、どうも噛んでるようだ。基本は射殺、うまくいけば逮捕」

「アイアイサ」


 ガチャリと扉が開かれる。室内にひしめく隊員が、装備を整える手を止める。

 ヘルメット、シールド、銃にスタンバトン。分厚い鎧を身に纏う彼らは、ギラつく視線で女性警官を見た。


「全員、すでに報告は受けているな」

「「「はい」」」

「致死性弾の使用は常に許可されている。現場を速やかに制圧すべし。交渉はない。以上だ、移動開始」


 その号令を皮切りに、全員が動き始めた。


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