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今日はアルベルトの散歩……? です

 3日目。アルベルトとお散歩訓練第二弾!



「今日は執事である私と一緒に庭をぐるりと歩きましょう。徐々に距離を詰めて、最終私の手を取って歩けるようになれば合格です」


 昨日の犬の散歩を一緒にした際に結構近寄れたので、今日に関しては余裕だろう。そうたかを括っていたのだが。


「ユリアお嬢様? どうかなさいましたか」


 私から1m程離れた所に立っているアルベルト。怖いわけがないとたかを括っていたのだけど……


(こうやって真正面に立つと思ったより背が高くて……威圧感が)


 やはり元が大型犬のジャイアントシュナウザーだからだろうか。身長190cm近くあるのでは? と思われる体。屋敷を守る兵士達のように筋骨隆々という訳ではないが、それでも彼らより上背がある分同じくらいの威圧感がある。私も身長は平均より高いのだが、それでもだ。


「やっぱり緊張しますか?」

「……正直に言うと、少し。昨日は意識していなかったから大丈夫だったけど、面と向かって立って『今からこの人に近寄るんだ』って雰囲気が怖いのかも知れないわ」


 キュッと胸の前で両手を握るようにして足元に視線を下げる。


(大丈夫怖くない……これはアルベルトなんだから平気なはずよ)


「なるほど。……ではユリアお嬢様、こういたしましょう」


 アルベルトはそう言うとパァッと光に包まれて、姿が犬の形に変わった。そして愛犬アルベルトはどこに置いてあったのか、リードを咥えて持ってきて私に渡す。


「え? リード?」

「ワンワンッ」


 リードとアルベルトを交互に見つめるが……散歩に連れて行けと言われているようにしか思えない。


「……お散歩したらいいの?」

「ワン!」


 どうせなら人の姿の時に説明しておいてくれればいいのに……と若干思ったが。とりあえずリードを繋いで散歩して欲しいようだ。


「よく分からないけど、とりあえずいつも通りお散歩したらいいのかな? うちの庭園の中でいいの?」


 かちゃりとリードを繋ぐと、アルベルトは私をグイグイと引っ張るようにして庭園を歩き出す。

 いきなりどうしたのだろうと思っていた私だったが、歩いているうちにいつもの散歩感覚になってきて。時々立ち止まって一緒に花の匂いを嗅いだり、風が気持ちいいねと話し掛けたり。

 庭を一周する頃には特訓の事はすっぽりと頭から抜け落ちて、楽しくなってしまっていた。


「楽しいねアルベルト! もう一周する?」


 私がそう問いかけた所でアルベルトの体が光り、人間の姿を取る。最後に人間の状態で着ていた衣服がある程度そのまま反映されるらしく、その姿は執事服だった。おかげで、初変化時の悲劇の再来は心配しなくていい。


「そうですね。では次の一周はこの姿でお願いします」


 満面の笑みで返事が返ってくる……が。


「……リード?」


 何故か首輪とリードが人間のアルベルトについたままになっている。変化するときに上手くできなかったのだろうか?


「ええ、私はユリアお嬢様の犬ですから。リード付きで結構ですよ」


(人間相手に……首輪とリード!?)


 外見年齢40代男性を首輪で繋いで散歩する令嬢……駄目だ。絶対に駄目なやつだ。外部にこれが漏れた瞬間、私の社会的地位は無くなってしまう……!


 ――無理ですッ!! 私、そんな変わった趣味の人間じゃないんですよ!?


 わなわなと震える手から、ポロリとリードが落ちた。アルベルトは自分の手を首の後ろに回して首輪とリードを外し、くるりと纏めて地面に置く。


「じゃあリードは無しで。代わりに私が手を引いて散歩いたしましょう」

「え!?」


 呆気に取られている間に私の手は取られ、引っ張られるようにして歩き出す。アルベルトは執事らしく白手袋をはめているせいか、触れている手からはあまり体温が感じられない。それが幸いしたのか、拒絶感も無ければ失神したりもしない!


「ほら、ユリアお嬢様。昨日より雲が少ないですよ。午後からは少し気温が上がりそうですね」


 初夏の太陽に照らされて、犬の時の毛並みと同じ黒髪がきらりと光った。人間の姿の姿のはずなのに、犬の時の姿と重なって見える。


 まるで先ほど犬の姿とアルベルトと一緒に歩いた時のように。何気ない風景を切り取って立ち止まって。先程の散歩1周目では、私が犬のアルベルトに声をかけていたのに、今度はアルベルトが私に沢山話しかけてくれる。


 この手に握っているのはリードではなくて、男性の手。沢山話しかけてくれるのは……私が意識しすぎないようにする為なの?


 そう考えると、どこまでも優しいアルベルトに対する愛おしさが増した。


 (……次に犬の姿になったときは思いっきり撫で回そう!)


「先程、この花の所で立ち止まったでしょう? この花は、ユリアお嬢様が私に初めて名前を教えてくれた花なんですよ」

「ベゴニアが?」


 ピンクに近い赤色で重ね咲の花。人気のある花で沢山の品種があり、この伯爵家の庭園にはよく植っている。しかし、アルベルトには申し訳ないのだけど私は……そんな細かい所まではよく覚えていない。


「花言葉は『幸福な日々、片思い、愛の告白』……ユリアお嬢様が忘れたって、私は全て覚えておりますよ」


 アルベルトは少しだけ屈んで、私の手を握っていない方の手で花を摘んだ。そしてそのまま摘んだ花を私の髪に挿す。ちょいちょいとその周囲の髪を指先で整えて。アルベルトは哀愁漂う笑みを浮かべた。


「やっぱりよくお似合いです。金のお髪には赤が映えて美しい。……昔からずっと、こうやってこの花を挿して差し上げたいと思っていました」


 似合っていると言われているのに、何故そんな悲しげに笑うのか、私にはよくわからなかった。


「ありがとう、そんなに赤が似合うかな? 変じゃない?」


 金の髪にブルーグレーの瞳。そしてユリアという名前の響きから、揃えられたドレスやアクセサリーは白系統から青系統、透明感のあるカラーが選ばれる事が多かった。赤色をさすのは初めてかもしれない。


「ええ、よくお似合いです。このまま閉じ込めて誰にも見せたくないと願ってしまう程には」


 そこまで褒めてくれるとは思っていなかったので。私はつい喜色満面になってしまう。


「それで……手を繋いだままですが、まだ怖いですか?」

「全然怖くなくて、普通の散歩だったわ。犬の姿のアルベルトと一緒に歩いた時と同じ感覚で、自然に歩けたの」


 でもそれは相手がアルベルトだからであって、他の男性でも同様に出来るかは分からない。

 そんな私の考えがバレてしまったのか、アルベルトは手を繋いだままもう片方の手で私の頭をゆっくりと撫でる。

 拒絶感は……無かった。


「私はユリアお嬢様の愛犬なのですから、お嬢様が怖いことをする訳が無い。その前提条件は、他の男性だって似たようなもの。……普段からユリアお嬢様を守ってくれている兵士が何かすると思いますか?」

「……いいえ。」


「世の中には荒々しい人間もいます。でもそれは犬だって同じこと。100匹いれば100匹違う性格で、相性が合う合わないがある。男性だって同じ、中身は全員違う。だから合う合わないがあります」


 まさしくお父様が飼っている頭数が丁度百だが、確かに誰一匹として同じ性格の子はいない。


「仮にコンラート様が怖くて駄目なら他の人を探せば良いのです。お嬢様が怖くないピッタリ合う男性を」

「え? だってもう婚約しちゃってるし……」


 万が一そんな事態になってしまったら。……私のせいで皆に迷惑がかかってしまう。


「ユリアお嬢様の人生なのですから、幸せになる為ならそれくらいの迷惑掛けていいんです。例えそんな人にたどり着くまでに何年も幾人かかろうとも、私だけはずっとユリアお嬢様の側に居ますから」


 その言葉は私の心にずっしり掛かっていたプレッシャーという重荷を、少しだけ軽くしてくれた気がした。


 婚約者との対面まであと――6日。

花言葉大好き作者です。

想いを花言葉に乗せているのに、全く気が付かないユリア。なんて不憫なヒーロー……


いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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