童話のような読み聞かせ……?
「――という訳で、ご理解いただけましたでしょうか? ユリアお嬢様」
ティータイムの練習をした日の夜。約束通りアルベルトは私の部屋に訪れた。
私のベッドの横に椅子を置いて座り、昼間見せられた資料を片手で持ったアルベルトは……さり気ない雑談風にコンラート様の情報を私に話し出したのだが。
「分かりました先生。美しい金色の髪に青空のような瞳。その容姿の良さから一部からは王子と呼ばれファンクラブが存在している。そして身長は170.3cmと男性にしては少々小柄で細身、好きな果物は林檎。……今日の所はまとめるとこれくらいでしょう?」
童話のように読み聞かせてくれると言うので、のんびりとしたメルヘンな展開を想像していたのに。……私が理解出来たかを、まるで家庭教師の先生がするテストかのように、逐一チェックしてくるのである。おかげで嫌でもコンラート様の身長を小数点以下まで記憶してしまった。
(でもこの情報って、どこで聞いてきたのかしら? まさかコンラート様の屋敷まで行って見てきた訳ではあるまいし)
それに仮に見てきたとしても、身長なんて正確には分からないだろう。
「さすが私のユリアお嬢様。今日説明した部分に関しては完璧です」
「だって私の執事がスパルタなのよ。頑張ったからそろそろモフモフのアルベルトを抱っこしたいな……?」
アルベルトの文句をアルベルトに言い、アルベルトの抱っこを迫る。何から何までアルベルトだらけだが、仕方がない。だって私の愛犬で、なおかつ執事なのだから。
「約束ですから構いませんよ。ただし犬の時の私は人語は話せませんので、よろしくお願いしますね」
パァっと明るい光がアルベルトを包み込む。そして次第にその光が小さく、体高が低くなっていき……その光が収まった時にはもうすっかり私の愛犬、ジャイアントシュナウザーの姿となっていた。
「――アルベルト!」
愛犬ロスに近い状態だった私はベッドから降りて、その大きな体に飛びつくようにして抱きつく。首元に顔を埋めて匂いを嗅いで、肺の中を愛犬の香りでいっぱいにした私は、久々に堪能する愛犬との触れ合いで幸福メーターが振り切れた。
「ハァ……やっぱり好き。アルベルト大好きよ。世界で一番大好きで愛してるわ」
「ワン!」
まるで同意してくれているかのような返事。アルベルトは本当に賢くて……あ、そうだった。人間になってもやっていけるだけの天才犬だった! 飼い主として本当に鼻が高い。
「でも、何日もこうやってアルベルトに触れられなくて寂しかったの」
「ワフッ」
「ねぇアルベルトは別に私とこうやってギュッて出来なくても平気なの?」
「……グルル、ワン!」
最後のはどういう意味だろうか。「ワフッ」は私の寂しさを認めてくれた返事に聞こえたのだけど……。
「……ふふ。おいでアルベルト」
ベッドに上がって、「ここにおいで」と、ぽんぽんとベッドを手で叩く。尻尾を振って軽々とベッドに上がったアルベルトは、つい数日前までと同じようにゴロンと寛いで、私の膝に頭を乗せた。その頭を毛並みに沿って撫でると気持ちよさそうに目を閉じる様子が……見ていて私まで気持ちよくなってしまう。
多幸感に包まれた、何より大切な触れ合いの時間。
もう少しだけ……あと10分だけ。そのうちすっかり寝入ってしまったアルベルトの寝顔を見ながら、こんな時間が永遠に続けばいいのにと……首から下げている、石が割れてしまったペンダントに祈った。
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