今日はお茶会です 2
私が6歳のになったばかりの夏。「お父様のように自分の犬を飼いたい!」と言い出した私の為に、お父様は屋敷に商人を呼びつけた。
「ほらユリア。どれでも好きな犬を選びなさい」
犬を入れた檻が何十も目の前に並べられるという圧巻の光景。そして順番に回って1匹ずつ見ているうちに、私の犬を飼うはずだったのにお父様の方が乗り気になってしまって、商人と一緒に自分用の新しい犬を探し始めてしまっていた。
(お父様は相変わらずね)
しかしそれも想定内の私は一人で犬を見ているうちに……一つだけ、影に隠れた場所に置かれている檻を発見した。しかも目に付き辛いように黒い布を被せてある。
「ワンちゃん、どうしたの?」
スッと布を捲ると、怯えているのか身を小さくした黒い子犬が一匹。口周りの毛が長くて少し垂れ目気味に見える子犬は、シュナウザー系統の種類のように思えた。「クゥ……」と小さい鳴き声がなんとも哀愁深くて檻の前にしゃがむと、まるで助けを求めてきているかのように檻の中から手を差し出してきた。
「ユリア様! 申し訳ございません、その犬は売り物じゃないんですよ」
私の元へ慌てて商人が走ってきて、捲っていた布を元に戻される。
「ごめんなさい、もしかしてもう買い手が付いてしまっているのかしら」
「いいえ、こいつはちょっと毛色が悪くてね。ジャイアントシュナウザーはブラックじゃないと、お貴族様にはなかなか売れないんですよ」
そういえば先ほど檻から差し出された手は白に近い灰色だった。
「じゃあその子はどうするの? 仕入れたからには誰かに売るのでしょう?」
「実はブリーダーが毛を黒染めして売ってきましてね? 私は騙された側なんですよ。 仕方がないから野生に返すか、かわいそうだけど処分してしまうか……」
処分という言葉を聞いた瞬間、先ほどの小さな鳴き声が脳裏に響いた。……私は、この子を見殺しになんて出来ない。
「じゃあ私が買います!」
「え!? しかし、本日ユリア様は小型犬をご希望だったのでは? 大型犬がよろしければまた後日犬種を揃えてお持ちしますが」
「ユリア。ジャイアントシュナウザーは超大型犬だぞ。もしかするとユリアより大きくなってしまうかも知れぬが」
商人もお父様も私を心配してくれるが。私はもう決めたのだ。私に手を出して助けを求めてきたあの子犬の手を取ると。
「絶対にあの子にしますわ。お父様がよく仰っているように、『運命』を感じたの!」
そうしてアルベルトは私の元へやってきた。
◇◇◇
「私はユリアお嬢様に命救われて、一生をこの人に捧げると決意しました。だから私は人間になり、ユリアお嬢様と通じ合える言語を持って、サポートできる今が……これ以上は無いくらい幸せなのです。だから精一杯お手伝いして、ユリアお嬢様を幸せにして差し上げたい」
二人の間を初夏の爽やかな風がサァッと通り抜けた。伸ばしてある長い前髪が揺れるので押さえるようにして耳に掛ける。同様にアルベルトの黒髪も……風が犬の毛並みを撫でた時のように揺れていた。
「幸せに……なれるかな」
男性と一緒に暮らす幸せが想像出来ない私は、ぽつりと不安を漏らす。
「大丈夫です。六年間、ずっと隣で見てきた私が保障しましょう」
「そうね。……ありがとうアルベルト」
アルベルトがそこまで言ってくれるのなら。……信じて頑張ってみようと思えた。
婚約者との対面まであと――8日。
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