今日はお茶会です 1
1日目。アルベルトとティータイム訓練。
「まずは自分のテリトリー内に異性がいる事に慣れていきましょうね」
アルベルトと一緒に特訓するのが決まった翌日の午後。今日は自宅の庭園で男性と一緒にティータイムを楽しむというシチュレーションで訓練しつつ、コンラート様がどのような人物かを学ぶ。……らしい。
私の目の前には既にお茶とお菓子が用意されており、今日の紅茶はミルクティー。ミルクたっぷり多めの、普通の紅茶より少しぬるめ。昨日に引き続き私の好みをバッチリ押さえたチョイスだ。
(しかもこのチョコタルト……私がお気に入りのパティスリーの、先月からチェックしてたのに売り切れで買えなかったやつ!)
確かにあの日はアルベルトの散歩ついでに寄ったので、売り切れでしょんぼりしている私をアルベルトは見ていたはずだ。自分の愛犬(?)の優秀さに思わず舌を巻く。
「ユリアお嬢様申し訳ございません。執事という立場ですが、同じテーブルにつくのをお許し下さいね。」
アルベルトは一言断ってから、自分の分のお茶を用意して私が座っている席の正面の席に腰掛けた。
「ううん、アルベルトは私の特訓に付き合ってくれてるんだもの。むしろ私がお礼を言わなきゃ」
ありがとうと素直にお礼を口にすると、アルベルトは少し垂れ目の目を細めつつもう少しだけ下げて。口元に白い手袋をはめた手を当てて、コホンと一つ咳払いをしてから話始めた。
「ではコンラート様についてですが、ユリアお嬢様はどのようなお方だと認識されていますか?」
「ヴェルリッツ伯爵家の次男よ」
「……他には? まさかそれだけですか?」
「えっと、優しい人だとは聞いたけど」
生憎、他の情報は持ち合わせていない。
「……ユリアお嬢様は、思ったより重症でございます」
「もう手遅れかしら」
うん、手遅れかもしれないとは私自身も思っていた。だって顔合わせ直前なのに、届けられた絵姿すらまだ見ていない。……だって見る気にならないんだもの!
それでもまさか開始早々にアルベルトが眉間を押さえて苦悩してしまう展開は想像していなかった。
「いえ……そうですね。ここは私がしっかりとサポートして差し上げなければ! まずはこちらをご覧ください」
スッと出てくる厚さ2cmほどの書類の束。私はそれをアルベルトから受け取って、中をぱらぱらと斜め読みした。
「まさかこれって」
「そう、こちら全てコンラート・ヴェルリッツ伯爵令息のデータでございます。身長体重から性格・趣味・趣向・性癖・好みの女性のタイプまで網羅した完全版ですよ」
思わず頬が引き攣りそうになる。そんな詳細が盛りだくさんな書類なんて、正直気持ち悪くて手に持ってすらいたくない!
……という気持ちを必死に押さえつけて、引き攣りそうな頬を誤魔化す。
(だってこれ、昨日見たアルベルトの字だったもの。きっと全て自分で書いてくれたのだから無下にする訳には……)
「あ……リがトウ」
でもお礼は挙動不審全開なカタコトになってしまう。そんな私を見てアルベルトは何かを言うことも無く、ヒョイっと私の手元から書類を回収した。
「え? 私にくれるのではなかったの?」
「まだ無理そうでしたので。大丈夫ですよ、私が毎日少しずつ、寝る前に読む童話のようにして読み聞かせて差し上げますから」
その言葉に私の犬好きセンサーが反応した。
「じゃあまた一緒に寝てくれるの?」
もう4日も愛犬アルベルトと一緒に寝ておらず愛犬ロス状態続行中の私は、つい自分の都合の良いセリフだけを聞き取って脳内で改変し問いかける。流石にこれはアルベルトも少しだけ戸惑った表情を浮かべて。きっちり五秒後に答えが返ってきた。
「読み聞かせた後に、犬の姿に戻ってからでよろしければ」
「ありがとう! わぁ楽しみ、絶対に今晩から毎日よ? やっぱり辞めたって言うのは無しだからね!」
やっとあのもふっとした毛並みに抱きつくことができる! その喜びから、今が特訓中だという事もすっかり頭から飛んでいってしまった。
「そこまで喜ばれるとは思ってもみませんでしたが。ユリアお嬢様が、犬の姿の私をそこまで可愛がってくれているのは大変ありがたい事です。……ユリアお嬢様は私がこの家に来た時の事を覚えていらっしゃいますか?」
アルベルトは人間顔負けの所作で紅茶を一口飲み、音も立てずにカップをソーサーに戻す。
「もちろんよ。アルベルトが家族になった時のことを忘れる訳ないじゃない」
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