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X DAY 4

「ユリアの飼い犬……? それでも、こんな危険な犬はユリアには似合わないよ。飼うのをやめた方がいい」

「でもこの子は私が6歳の時からずっと一緒にいる大切な家族で」

「それはユリアが母親を亡くして、その寂しさを犬で埋めようとしたからだろう? 君の父上は仕方がないが、ユリアは私との婚約で心救われるはず。だから動物なんて穢らわしいもの要らないよね」


 ――無理だ。


 その言葉だけで、私の心のシャッターはガラガラと音を立てて降りてしまった。

 確かにコンラート様は優しくて、王子様のようだったかもしれないけど。……私にとって一番大切な価値観が、一致していない。

 私は、犬屋敷のレーベンシュタインの長女として……この人を婿に取るわけにはいかない。


「動物は可愛らしいものです、穢らわしいなんて事ありません! ……それでも、私のせいでご不快に思わせてしまったのは事実ですからそこは謝罪します。申し訳ございませんでした」


 私の飼い犬であるアルベルトがコンラート様に吠えてしまったのは事実なので、そこに関しては謝罪する。


「ユリアは婚約者の私が要らないと言っているのに、まさか結婚後も犬を飼いたいなんて言うつもりだったのか? ペットに依存し続けなければならない程、王子とも称されるこの私が夫として力不足だと言いたいのか!?」


 違う。そうじゃないのに「この人とは分かり合えない」という思いからつい黙り込んでしまう。コンラート様は大変自分に自信があり「自分さえいれば」との思いが強いようだが、大切な家族の穴をぽっと出の人物が埋められる訳がない。


『仮にコンラート様が怖くて駄目なら他の人を探せば良いのです。お嬢様が怖くないピッタリ合う男性を』


 一緒に散歩をした時、私の手を引いて一緒に歩いてくれたアルベルトはそう言っていた。怖くてどうしても駄目というわけでは無かったけれども、価値観の不一致で無理だと思ってしまった場合にも……これは適用されるのだろうか? でもそれは私の自分勝手な我が儘で……



 そんな事をぐるぐると考えていた、その時。

 ――ドドドドドドッと何か大量の足音がこちらに走ってくるのが聞こえる。


「何? ……え!?」


 大量にこちらに走ってくる犬達。トイプードルからチワワ、シェパードからラブラドールレトリバーまで、ありとあらゆる犬種の犬達がこちらを目掛けて走ってくる……!


「うわああぁぁあッ!? 何だよ、こっち来るな!」


 そしてその犬達は皆コンラート様に向かって突撃していく。


(あれ? これって全てお父様の犬……!?)


 この間アルベルトと一緒に散歩したリリィやマロンなど、名前も知っている見知った犬ばかりが、地面に座り込んでいたコンラート様に襲いかかるようにして群がる。そしてもう私の位置からではコンラート様の姿は見えない。まさか100匹全員いるのだろうか。


「何だよ、このッ! ――くそ、動物なんて大っ嫌いだ!!」

「キャウンッ」

「――やめてください!!」


 鳴き声で分かる。これはトイプードルのベリーが痛がっている時の声!!

 きっとコンラート様に何かされたんだ! そう思って助けに入ろうとするが……


(どこに誰がいるのか全然分からないし、アルベルトを離したら離したでコンラート様に襲い掛かりそうだし、どうしたらいいの――!?)


「誰だね。私の愛犬に手を上げた馬鹿者は」

「お父様!?」


 私は突然現れたお父様に驚き目を見張る。チャリティーイベントの最中だったのだろう、格好がピエロで全く締まりがない。

 そして私が必死で抱き止めていたアルベルトはこの混乱に乗じて人の姿となって、お父様に話しかけた。


「そちらのコンラート・ヴェルリッツ伯爵令息です。トイプードルのベリーが、汚い足裏で蹴られたと怒っております」

「違……おいお前、その声は先程ユリアに声を掛けていた奴だろう!!」

「それで、私の娘の婚約者である君が、私の大切な家族を蹴ったらしいのだが本当かね」


 まるで「本当だ」と言うかのように、コンラート様に寄って集っている犬達が煩く吠えまわる。


「そんな、婚約者の家の犬を蹴るなんてしませんよ……お義父上」

「キャンキャンッ!!」

「……そうか。しかしベリー自身が蹴られたと言っている。おいでベリー」


 お父様がそう声をかけると、コンラート様の周りに集まっていた犬団子の中から一匹のトイプードル――ベリーが飛び出してきた。そしてその腹横には蹴られた際に付いたと思われる泥が付着している。お父様はベリーを愛おしげに抱え上げて、コンラート様を軽蔑するような視線で睨んだ。


「そんな……お義父上は人間である私より、言葉も発しない犬を信じると仰るのですか?」

「君にとってはただの犬だろうけどね、私にとっては家族なのだよ。愛する家族の言葉を信じるのは当然ではないかな? 皆、ありがとう。もうイベント会場へ戻って大丈夫だ」


 お父様が声をかけると元来た方向へ向かって駆け出す99匹達。統率の取れ方がすごい。


「コンラート・ヴェルリッツ伯爵令息、私の娘との婚約は破棄させていただく。家族を大切に出来ない人間は、レーベンシュタインには必要ない。お断りだ」


 巷で流行りの恋愛小説では、可哀想なご令嬢が威張り散らした婚約者に婚約破棄される展開があるらしいが。……まさか目の前で、『婚約者が、令嬢の父親から婚約破棄を告げられる』展開を見る日が来ようとは。


「……ユリア! 君は私のことが好きなのだろう!? 君の寂しさを埋めてあげると約束するから、どうか」

「ごめんなさい、コンラート様。私も、ペットは家族だと分かってくれない人は無理なのです」

「嘘だ! どうせその長身の男やお義父上に言わされているのだろう? だってユリアはずっと私の事を想ってくれていたエンジェルで……」


 コンラート様は私を買い被りすぎだ。変わった人ではあるが、動物嫌いな点以外は良い人だったと思うので……余計に申し訳なくて、コンラート様に向かって頭を下げた。


「男性恐怖症の私に優しくしてくれたのに、恩を仇で返すようなことをして本当に申し訳ございませんでした。……今日は帰らせていただきます。」

次回最終回です(๑>◡<๑)

20時更新ですよ!


いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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