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20/23

X DAY 2

本日4回投稿で最終回まで掲載です!

最終回は夜20時になります(๑>◡<๑)

 そうして訪れた屋台で、私は呆然としていた。


「やはりユリアなら来ると思っていましたよ」

「な……! なんでアルベルトが!?」


 なぜ私の執事であるアルベルトがこんな場所にいるのか。いつもの執事服ではなくて普通の平民のスタイルに黒のエプロンをしており、その姿は完全に屋台の店員だった。

 しかも『お嬢様』抜きのユリア呼び。この街で特訓した時の恥ずかしい記憶が蘇ってきてしまうが……そうか。私が平民を装ってコンラート様とデート中だから敬称抜きで呼ぶしかないのだ。


「ユリアなら真面目に習った事を活用しようと林檎のメニューがある店を探すはず。だからこうやってイベントという形で店を出しているのですよ」

 

 もしかしてアルベルトは、イベントまで利用して私のデートが上手く行くように協力してくれているのだろうか? 忙しいはずなのに、なんて有難い!


「ありがとうアルベルト!」

「本当にユリアの勘違いは……いえ、なんでもありません。アップルパイは二つでいいですね?」

「え? 大きいから半分こして食べてはダメなの?」

「絶対にダメです一人一個買ってください。……あーんして食べさせる展開や、二人で端から齧り合う展開になるのは避けなければ」

 

 最後にぶつぶつと何か言っているが、確かに林檎好きのコンラート様は沢山食べたいかもしれないと思って、忠告通り二つ購入する。そしてパイが乗った紙皿を二つ手渡され両手が塞がってしまった私。


「あ、お財布が出せない……!」


 困ってしまって視線でアルベルトに助けを求める。お皿を持っていて欲しかったのだが、アルベルトは私の右横で片膝を地面についた。

 

「いつもスカートの右ポケットでしたよね? 私が出しますから少し触りますよ」


 私の腿に長い指先が触れる。お財布を抜き出しで精算してもらうだけ。たったそれだけなのに久しぶりに至近距離で見るアルベルトの姿に心臓が早鐘を打った。

 人の姿をしたアルベルトを斜め上から見下ろしている図が新鮮で、その少し毛先に癖のある黒髪に――触れたいと思ってしまう私は、おかしいのかしら?


「あの……最近忙しそうだし、機嫌悪いよね? もしかしてまだ体調悪いの?」

「別にそんな事はありませんよ。ユリアの気のせいです」

「でも侍女に聞いたら嫉妬だって」


 アルベルトがポケットに戻そうとしていたお財布が、グイッと太腿にめり込んだ。


「……申し訳ございません。動揺しました」

「え……別にたいして痛くもないから良いのだけど、本当に嫉妬していたの?」


 視線は逸らされたままポケットにお財布が仕舞われ、アルベルトは立ち上がる。返事は無い……ということは、それが正解なのだろう。


「嫉妬なんてしなくても、私にとっての一番はいつだってアルベルトなのに」


 お父様とどちらが大切かと聞かれたら少し迷ってしまうけど、他のどんな犬よりも、どんな人間よりもアルベルトが大切。それは自信を持って、胸を張って言える。


「……本当に?」

「本当よ! 私がアルベルトに嘘ついたことある?」


 アルベルトは視線を逸らしたまま少し考え込んで。不意に私との距離を詰める。そして紙皿を両手に持ったままの私の両肩をふわりと捉え、私の耳元で低く怒気の込められた声で囁いた。


「――なら、私以外の男の視界に入らないでください。嫉妬で相手を噛み殺しそうですから」


 いつも心地よい低音で穏やかな声質のアルベルトが、かつてない程怒りと憎しみを乗せて囁くので。……私は驚き呆然として、何も言い返せなかった。


 アルベルトは執事としてずっと、私が男性恐怖症を克服する為に協力してくれていて。

 だから、コンラート様との婚約にも賛成してくれているものだと思っていた。


 だけど。本当は嫉妬していて――?

 そしてそれは、あんなに賢くて大人しい私の愛犬が、人を噛み殺したくなる衝動に駆られる程。



「ユリア? 時間が掛かっているようだから見にきたのだけど……大丈夫?」


 コンラート様の声がした瞬間、パッと私の肩は解放された。目の前に立っているアルベルトの顔はいつも通りの表情で、いつも通りの声色で「お買い上げありがとうございました」なんて言ってくる。まるで先ほどの囁きが……幻聴だったかのように感じてしまう。

 私は戸惑いからその場から動けずにいたが、それに勘づいたかのように眉を顰めたコンラート様が強めの口調で私を呼んだ。


「ユリア! 早く行こう」

「あ、ちょっと待ってコンラート!」

 

 今度は私の肩にコンラート様の腕がまわされて、まるで腕の中に捉われるようにしてそのまま連れて行かれる。指が肩に食い込んで痛い。そしてその痛みが、すっかり姿を顰めていた男性への恐怖心を少しずつ引き摺り出してくる。


「ねぇユリア。あの男とは知り合い? まさか私という美しい婚約者がありながら、恋人がいるのではないよね?」


 少し歩いた先にあるベンチ。待ち合わせ場所として予定していた所からも遠く離れた場所で無理やり座らされた私は、まるで尋問されているかのように問われる。座った事で肩は解放されたが、まだじんわりと痛みと熱を持っていた。


「――違います! そんな、恋人なんかでは……」


 ただ飼い主と愛犬の関係で……と説明したいが。どこからどう見ても人間なのに、愛犬だと言っても信じてもらえないだろう。どう説明したものか。


「あいつ、私のユリアに気がある。……ユリアだって、私のファンクラブの人間が私にベタベタ触れていたら嫌だろう?」


(コンラート様のファンクラブのお方がベタベタしていたら……?)


 想像してみるが……別に何も思わない。ファンクラブ凄いなぁと思う程度だ。私が困った末首を傾げていると、コンラート様は「そうだった、男が苦手なんだった……」と顔を片手で隠し大きなため息をついた。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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