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嫉妬?

「どうしちゃったのかしら。あれからずっと他人行儀だし、全くもふもふさせてくれないし。寂しい……」


 コンラート様と初めて顔を合わせた3日後。私はソファーの背もたれに身を沈めつつ、馴染みの侍女に愚痴を漏らしていた。


「あれじゃないですか? 嫉妬」

「嫉妬?」


 予想もしなかった言葉が侍女の口から飛び出してきた。


「だってアルベルトは人間になったといえども、ユリアお嬢様の愛犬ですもの。ずっとユリアお嬢様の愛情を一身に受けて育ってきたのに、それを誰かに取られると思ったら堪らなかったのでは?」


 確かにお父様の100匹の犬の中でも、そういう嫉妬深いタイプの子は何匹か心当たりがある。そういう子の前では、他の犬とベタベタする姿を極力見せないように、私もお父様も心掛けているのだが。


「なるほど……確かに。アルベルトは聞き分けの良い子だったけど、日常的に多頭飼いはされていないから慣れてないのかも」


(コンラート様は犬ではないのだけど、アルベルトと共存して生活していけるようにどうにかしなきゃね)


 アルベルト無しでの生活なんて考えられない。どうすれば良いか考え込んでいると、コンコンと部屋のドアがノックされた。……ノックの仕方で分かる、これはアルベルトじゃない。


「じいや? どうしたの、珍しい」


 声をかけるとドアが開いて、初老の執事が現れた。最近ではすっかりアルベルトが執事としてつきっきりで一緒にいてくれていたので、久しぶりのじいやだった。


「ユリアお嬢様はもうアルベルトに取られてしまったかと思ったのですがねぇ。このじいの出番もまだまだ有ったようで嬉しいですよ」


 カラカラとティーワゴンを押しながら部屋に入ってきたじいやは、冗談を言いつつも丁寧な所作でお茶を注いでくれた。

 私はソファーに座ったままじいやにお礼を述べて、そのティーカップを手にとる。――アルベルトが入れてくれるのと変わらない、レモンバームのハーブティーだった。


「ねぇじいや。アルベルトはどうしたの?」

「あいつは今忙しいのですよ。旦那様と少し……なぁに心配は要りません。ユリアお嬢様はご自身の事だけを考えていれば良いのです。明日はコンラート様と出掛けるのでしょう?」


 アルベルトが私の元に姿を見せない理由がお父様なのであれば、おそらく心配はいらないであろう。だってお父様はアルベルトの能力を知って私の執事につけてくれた張本人。愛犬家でもあるお父様がアルベルトに酷いことをする訳がない。きっと優秀なアルベルトの事だから、何か難しい用事でも頼まれているのだろう。


「そうなの。街にデートに行きたいってコンラート様が仰って」


(アルベルトと予習しておいて本当に良かった。練習済みだから、後ろから抱きしめられても大丈夫だし、耳元で囁かれても大丈夫だし……)


 ……いや、大丈夫じゃない。あの日アルベルトに対してドキドキしてどうしようもなかった記憶が蘇ってきてしまい、カーッと顔が熱くなってしまう。


「そんな顔を赤くされて。ユリアお嬢様はコンラート様がお好きなのですか? 確かに王子様みたいな外見でしたからね」


 侍女にそんな事を言われてしまうが。


「……え? うーん、別にコンラート様にはそこまでの感情は……無いかな」


 優しそうな人ではあったけど、なんせ顔よりも『エンジェル』の印象が強い。


「王子様みたいな外見ではあったけど、変わった人だなぁって。それに見た目も、正直に言うとアルベルトの方が格好良いと思うわ」


 私の発言に、侍女は「まぁまぁ」と笑うが、どうして笑われているのかは分からない。


「フォッフォ。あいつに聞かせてやりたいですなぁ……しかしユリアお嬢様。来月の婚約者お披露目のダンスパーティーをお忘れではないですかな? 主役な訳ですが練習はお済みで?」

「実は熱を出してしまったから、結局ダンスの練習は出来ていないの」


 ダンスの得意な侍女たちに男性パートを踊ってもらうことで、なんとか自分のパートは踊れるようにはなっているが。なんせ男性恐怖症ゆえ男性と踊った経験は皆無。更にコンラート様と長時間接触するので、気を失ってしまわないかとの不安が大きい。

 しかも周りには知らない男性が山のようにいるし……正直に言うと恐怖しかない。


 ――それでも今までアルベルトが懸命に私を特訓してきてくれたのだから。その成果を見せる為にも頑張らなければ。


「アルベルト……は、忙しそうなのよね。兵士の中に、ダンスがお得意な男性はいらっしゃるかしら」

「では最後の練習ではこのじいが、一肌脱ぎましょうかね」

「わぁ! じいや踊れるの?」


 初老の執事が踊れるなんて思ってもみなかったので驚いてしまうが。確かに身長はコンラート様と似ているし、幼い頃から接してきたじいやなら、私も全く緊張せずに触れられる!


「こう見えても若い時はぶいぶい言わせて――」

「そうと決まれば早速練習しましょう。ピアノが弾ける侍女を呼んでくれるかしら? じいやは早く準備してね!」


 じいやの昔語りは始まると長いので、割り込むようにして中断させて……私はダンスの練習を始めたのだった。


 私の知らないX DAY まであと――1日。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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