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エンジェル

 ついにこの日がやってきた。婚約者である――コンラート様と初めてお会いする日が。


 ここはレーベンシュタイン伯爵家の応接間。婿入りだという事情もあるが、極力私が慣れている場所で顔合わせした方が良いだろうという配慮から、この場所が選ばれた。



「初めまして、ユリア・レーベンブルク伯爵令嬢。こんな天使様のような人が私の婚約者だなんて夢のようです」


 美しい金の髪に鮮やかな青の瞳。まるで絵本に出てくる王子様のような風貌のコンラート様は優雅な仕草で私に挨拶の礼をとる。肩のラインで揃えられた、男性にしては少し長めのサラリとした髪が目立つ。


「あ……初めまして。ユリア・レーベンシュタインと申します」


 ガッチガチに固まってしまっているけど、なんとか挨拶はできる。大丈夫、私はあんなにアルベルトと練習してきたじゃない。

 コンラート様は優しくて身長170.3c mで! ファンクラブもあるような人物なのだから、私に乱暴なことはしない。絶対にしない!

 そう自分に対して言い聞かせる。


「そう固くならなくとも大丈夫ですよ。レーベンシュタイン伯爵から、ユリア様が男性が苦手である事は知らされております。慣れるまではこうして距離を保って接するつもりですのでご心配なく」


 その言葉でほっと胸を撫で下ろす。アルベルトの情報通り優しそうなお方でよかった。


「あの……コンラート様。今日は宜しければお茶でもどうでしょうか? 実は庭の方に、既に準備させておりまして」


 私の方から次を切り出す。実はこの作戦は元々アルベルトが考えてくれていたもので「自分が練習したシチュエーションに持ち込む」ことによって、緊張してしまう可能性を減らそうという作戦である。


「まだそこまで暑くない時期ですし、お花も綺麗なので」

「男性恐怖症だというのに、わざわざそのような気を使っていただいたのですか? 私の婚約者はなんて健気で可愛らしいのだろう」


 コンラート様は自らの胸を押さえつつ、表情を崩した。

 よく分からないが、お茶会作戦はコンラート様には受けたようである。流石アルベルトが考えた作戦だ。





 場所をレーベンシュタイン伯爵家の庭園へと移して、使用人にお茶を注いでもらう。

 因みに。何故か今日はアルベルトは対応してくれないらしい。「私は側にいると苦しくなりそうですから」と言っていたので、やっぱり風邪を引いていて悪化してしまったのかもしれない。コンラート様がお帰りになられたら様子を見にいかなくてはと考えながら、たわいも無い話をコンラート様と続けていく。


「それにしても美味しい紅茶ですね。ユリア様の趣味ですか?」

「えっと、私も好きですが……コンラート様がアールグレイがお好きだと聞きましたので、それでこの銘柄を。夏はスッキリとしたお味の紅茶が美味しいですよね」


 と言っても、これもアルベルトが特訓中に教えてくれた事なのだけど。


 コンラート様はカップを持っていない方の手で口元を隠しながら、目線を逸らし伏目になる。そして……


「私のエンジェルはなんて良い子なんだ!」


 謎のセリフを発した。


(エ、エンジェル!?)


 そのセリフに驚きすぎて言葉が出ない私。『エンジェル』が脳内にこだまする。


「男性恐怖症だというのに、必死に私の事を知ってくれたのですね? なんて素敵な人なんだ。姿だけではなく心まで清らか、まさにエンジェル」


 ぽかん……と呆然としてしまう私。


 そういえば、コンラート様はロマンチックなものが好きだとアルベルトから教えてもらっていた。まさか発言までそっち系の人?


「それ程までに私を望んでくれているなんて。私はファンクラブから『王子』とも称される人間ですが、結婚したら当然妻一筋ですよ。心配しないでください。私のエンジェルを寂しさの涙で濡らしてしまうことはありませんから」


(とにかく普通の人ではなさそうな気がするのだけど……!?)


「……ありがとうございマす」


 動揺から思わず語尾の所で声がひっくり返って変になってしまったけど。気が付かれて無いようなので、私はフゥと軽く息を吐きつつ……その後も無難そうな返事を返し続けたのだった。


 ◇◇◇


「という訳で私、気絶もしなかったし、なんとか切り抜けたの! 凄いでしょう?」


 エンジェル連発のコンラート様がお帰りになった後。私は馴染みの使用人達と、成功の喜びを分かち合っていた。じいやなんて涙ぐんでしまってるし、皆大歓喜のお祝いムードとなっていた。


「コンラート様、ユリアお嬢様の事を大層気に入っておりましたねぇ。よかったですわ」

「恐怖症なのにっていうのが逆に健気で受けたようですね」


 皆が口々に褒めてくれるので。私はアルベルトにも褒めて欲しくなって、キョロキョロとその長身を探した。

 だってアルベルトはずっと私を特訓してきてくれたのだから、私の成長を喜んでくれるはずだ。


「ねえ、アルベルトがどこに行ったか知らない?」

「先程庭園の方で片付けをしているのを見ましたよ」


 侍女から情報を得た私は、先程までコンラート様と一緒にいた庭園へと走った。



 アルベルトは目撃証言通り庭園にいた。先日一緒に散歩した時に立ち止まって見た花――ベゴニアの前に佇んで。何やら考え事をしている様子である。


「ねぇアルベルト! 私頑張ったのよ、褒めてくれる?」


 長身の彼に近寄って。下から見上げるようにして問いかけたのだが。


「私のユリアお嬢様は素晴らしいです」


 いつもなら優しく微笑んでくれそうなものなのに、アルベルトは表情一つ変えずに言葉を紡ぐ。負の感情を表に出してはいないが、いつもより不機嫌なのは明白だった。


「これもアルベルトが毎日特訓してくれたおかげよ? 本当にありがとう」

「……いいえ。私は執事として当然のことをしたまでですから」


 交わされた言葉はたったそれだけ。執事らしく礼をして、執事らしく距離を取って。アルベルトは私の前から去る。


「――アルベルト?」


 その日の夜も、アルベルトは仕事があると言って一緒に寝てくれなかった。

 昼間の違和感に、2日連続で終わっていない仕事。それどころか日中の態度もそこはかとなく他人行儀で、必要最低限の接触しかしてこない。


(絶対に何かおかしい。私、アルベルトに何かしちゃったかな)


 その直感は、愛犬の飼い主としてか、完璧執事の主人としてか――それとも。


 私はベッドの上でペンダントを握り締めて、窓から月を見上げた。



 私の知らないX DAY まであと――4日。

ユリア……!(´・ω・`)

アルベルトごめん:;(∩´﹏`∩);:


いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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