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16/23

甘美で夢のような、幸せな思い出

 翌朝。私はぼんやりする頭で朝を迎えた。

 風邪を引いて熱が出て辛かったはずなのに、何故か寝起きから幸せで。よく覚えていないけど、なんだか幸せな夢を見ていたような気がする。



 コンコンと部屋の扉がノックされ、私の執事であり愛犬でもあるアルベルトがティーワゴンを押して部屋に入ってくる。どうやら朝のお茶を入れて持ってきてくれたようだ。


「おはようアルベルト。昨日はごめんね?」

「……な、何がでしょうか」


 いつでも完璧な対応をしてくるアルベルトにしては、珍しい返事の仕方だ。


「何がって……風邪を引いてしまったから、一緒に特訓出来なかったでしょう? 昨日はダンスのはずだったのに……今日は熱下がったから特訓する?」

「あぁ……そういう事ですか」


 何故かアルベルトと視線が合わないし、そこはかとなくその頬は赤い気がする。


「どうかしたの?」

「……いえ。さてはユリアお嬢様、熱で何も覚えていらっしゃいませんね?」

「え? 何のこと?」

「覚えていないなら好都合です。私だけの甘美で夢のような、幸せな思い出といたしましょう」


 そう言ったアルベルトの表情が妙に哀愁に満ちていて、違和感を覚えた私はベッドから降り立ち上がる。昨日一日寝込んだせいか背中も腰も痛いし、熱で汗をかいたのか体もベタついて気持ち悪い。あとでシャワーを浴びようと思いつつアルベルトに近寄った。


「秘密にしないで教えて? 甘いって……もしかして私、ご飯も食べずにケーキ食べさせろって騒いだとか?」


 熱が出た時に我儘を言ってしまう事がある――そうじいやから聞いていたので、きっと私は何かしらやってしまったのだろう。しかし当の本人である私は毎回何をやらかしたのか、熱のせいで覚えていないのである。


「ええまぁ……そんな所です。さて、今日は特訓はお休みしてゆっくりしましょうね。なんたって明日はコンラート様と初めてお会いする日なのですから」

「もう明日なのね……なんだか緊張してしまいそう。今からシャワー浴びてくるから、その後に犬の姿で抱っこさせてもらってもいい?」


 朝のお茶を準備していたアルベルトの手から、カップが滑り落ちてカシャーンッ! と大きな音を立てて割れた。


「――失礼しました。」

「アルベルト怪我してない? どうしたの、珍しい……あ! まさか風邪が移って?」


 だから頬が赤かったのだろう。心配になって近寄ろうとするが、割れたカップの破片が危ないからと止められてしまう。


「ユリアお嬢様のご心配には及びません。今からこちらを掃除させていただきますので、危ないですからどうぞユリアお嬢様はシャワーに……」

「でもアルベルトが」

「お願いですから、今すぐに行きましょう! ……自分の匂いが混じっているのが耐えられないので」


 最後はゴニョゴニョと誤魔化されたけど何故か強く勧められるので、不思議に思いながらも私は自分の部屋から出た。


「アルベルトどうしたんだろう?」


 ふと思い立って自分の腕をクンクンと嗅いでみる。……もしかして、ちょっと汗臭い?


「あ! 元々犬だから人間の時にも鼻がきくのかも」


 私の汗臭さに耐えきれず、でもそんな事言えないから強めにシャワーを勧められたのかもしれない。

 申し訳無さを感じながら、私は急いでシャワーを浴びに向かうのだった。



 ◇◇◇



 全身しっかりと綺麗にした状態で、大好きなモフモフの体をギュッと抱きしめる。


「――好き。やっぱりこの感触大好き!」


 私がシャワーを浴びている間に、割れたカップが片付けられていただけでなく、ベッドのシーツ類も全て取り替えられていた。どうしてもアルベルトの毛が落ちるのでシーツ類は頻繁に取り替えられるのだが、うちの使用人達はそれ以外……汗をかいた時などにも、こうやって気をきかせてくれるから有難い。

 そして私は綺麗になったベッドの上、定位置で愛犬のモフモフさを堪能していた。


「ねえアルベルト。破片で怪我してない? 大丈夫?」

「ワン」


 どうやら怪我は無いみたいだし、抱いた感じ熱も無さそうだ。執事の姿の時に顔が赤かったので心配していたのだけど……。


「アルベルト、なんだか今日遠慮してない? もっといつもみたいに私の上に乗っていいのよ?」


 アルベルトの体調が悪いのか、私が病み上がりなのを気にしてくれているのか。いつもはもっと顔を擦り付けて甘えてくれるアルベルトが、ぴっとりと寄り添い座っているだけだ。……少し寂しい。


「アルベルト調子悪いの?」

「……グルル」

「あ、誤魔化したでしょう。いいのよ、アルベルトも風邪っぽいのなら一緒に寝ましょう?」


 アルベルトから来てくれないのなら私から抱きしめるまで。鼻先にキスをしてからゴロンと横になり黒の毛並みに顔を埋める。


「こうやって寝ていて『サボりだ!』ってじいやに怒られたら、私が我が儘言って離してくれなかったんだって言うのよ?」

「クゥン……」

「ふふ、じいやはアルベルトには厳しいのかしら? 私、毎日沢山頑張ってくれているアルベルトが大好きよ」


 私のその言葉に返事は無かった。




 その日の夜。「今日は沢山仕事がありますので」と、初めて一緒に眠るのを断わられてしまった。朝から一緒に朝寝してしまったせいで仕事が終わらなかったのかと、特に不審に思う事も無かったのだが。


 ……この日を境に、私の愛犬が夜に一緒に寝てくれる事が無くなるのを、私はまだ知らない。



 婚約者との対面まであと――1日。


 ついに明日、私は婚約者と初めて出会う。

ユリアよ……(´・ω・`)ヒドイ


いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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