今日は街歩きデート 3
ハンカチを選び終わった後。強火で炙られすぎてすっかり熱を持ってしまった体を冷まそうと、私達はベンチで座って話をしていた。
「ありがとうアルベルト。おかげでお父様へのお土産と、アルベルトそっくりの刺繍入りハンカチが3枚も手に入ったわ」
ハンカチが入った紙袋をぎゅっと抱きしめながらお礼を言う。私の横に座っているアルベルトは、優しい微笑みを携えたまま軽く横に首を振った。
「いいえ、そんなハンカチくらいで。それよりもあちらでデザートを売っているようです。甘いものお好きでしょう?」
アルベルトが指差した方には美味しそうなスイーツを扱っている屋台が出ていた。可愛らしい綿菓子や、良い匂いを漂わせるクレープ、冷たいソフトクリームまで。様々な甘味が売られているようだ。
「ふふ。今の気分はソフトクリームですね?」
「……なんで分かるの?」
どうせまた、6年間ずっと一緒にいたからと言い出すのだろう。流石に何日も一緒に暮らしていれば、そろそろ人間のアルベルトが言い出しそうな事も想像がつく。
「好きな女性の好みは全て把握しておくのが、紳士としての嗜みですよ」
「な……!」
その一言で、やっと落ち着き始めていた私の火照りは再復活しまう!
アルベルトは「買ってきますね」と言い残してベンチから立ち上がり、屋台の方へ歩いて行く。私はアルベルトが完全に向こうを向いているのを確認してから、大きな溜息をついて血の昇った顔を両手で隠した。
「なんで今日……こんなに格好良いのよぉ」
私の愛犬が格好いい。それは良いことだし飼い主として誇り高いのだが、この感覚はそれとはちょっと違っていて……。
今までは人間のアルベルトには、どちらかと言えば父性に対する親しみに近い感情を抱いていた。格好良いと感じても、好ましいと感じても、それは家族への愛に近い。
なのに今日は、まるで……本当の恋人と一緒にいるような感覚に陥ってしまって。これじゃあまるで……
「……髭? まさか口髭無いからなの!?」
頓珍漢な解答を導き出し苦悩しているとアルベルトがソフトクリームを持って帰ってきた。
「アルベルト、ありがとう! ……あれ? アルベルトは食べないの?」
その手に握られているソフトクリームは一個だけだった。
「私はユリアが食べている姿を見逃したくないので。ほら、どうぞ? 今日は昨日よりも暑いですから、溶けないうちに」
そう言われると、もう急いで食べるしかない。体が暑くてしょうが無かったのもあって、私はハンカチの入った紙袋を脇に置いて、素直にソフトクリームを受け取った。
「アルベルトが……今日はいちいち格好が良いせいで、暑さ倍増だわ」
「……だって今だけは夢にまで見たユリアの恋人ですからね。ユリアの恋人は優しくて包容力があって、真綿で包むように愛して差し上げるような男でなければ」
アルベルトが何やらぶつぶつ言っているが、それより私は早くソフトクリームを食べなくては。そう思ってはむっとクリームの先端にかぶりつく。少し風が出てきたので髪にクリームがつかないように気を取られていると、横に座っていたアルベルトが小さく笑った。
「ふふ、ユリア。鼻についてる」
いつもは白い手袋に隠されている長くて形の整った指が私の頬を捉えて。近づいてきた唇が、まるで鼻を咥えるかのようにしてクリームを……
「え……な、舐め!?」
ペロリと舐め上げられた鼻。まさに犬がしてくるようなその行動に、私の思考回路はもうショート直前。爆発三秒前くらい!
「失礼しました。抑えが効かず、つい犬の時と同じように……」
完璧なアルベルトにしては珍しいが、私の脳内はそれどころじゃない。恋人とはなんてハードルの高い関係なのだろう。私はコンラート様とこんな甘い関係を築けるのだろうか。全く自信がない!
それに……なんだか頭がくらくらしてきた。
「む、無理……ごめんなさいアルベルト。なんだか心臓がドキドキして痛いし、暑くて頭が……くらっと」
「――ユリアッ!」
婚約者との対面まであと――3日。
本日更新はココまでとなります。読んでくださった皆様ありがとうございます♪
明日からは不定期更新ですが、次回は3/21日中の予定です(〃ω〃)
◇◇◇
いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡
閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪