今日は街歩きデート 2
よく分からない感情を抱いたまま街に出て。ひとまず私は安心感で胸を撫で下ろしていた。ずっとあの肩を抱いた超至近距離で歩くのかと思ったら、そうでは無かったからだ。
それでも恋人らしい距離での横並びだが、うるさかった心臓の音も控えめになったし、これなら大丈夫。
せっかくのアルベルトとのお出かけだもの、不正脈やら体調不良やらで台無しになんてしたくない。
屋敷に引きこもっていた私だが、犬達の散歩で時々この街を歩く事はあった。勿論アルベルトと一緒に歩いた事もあるので、今こうやって人間同士として横に並んで歩いているのは不思議な感覚がする。
「そこの美人のお嬢ちゃんや。アクセサリーはいかがかな?」
突然露天商のお婆さんに声をかけられた。
「私?」
返事をすると、お婆さんはそうそうと頷く。
お婆さんの目の前に沢山並べられている、可愛らしいリングやネックレス。値段も質も、頑張ればなんとか平民でも手に届くランクだ。
伯爵令嬢として装飾品の類は質の高いものを沢山買い与えられているけど……
「わあ、可愛い!」
私が目をつけたのは、キラキラと光るアクセサリーの横に並べられていたハンカチだった。
「犬の刺繍入りだわ! あ、こっちのワンちゃんの模様はトイプードルのリリィに似てる。お父様が好きそうね」
「はは、光物より犬が好きなのかい? 後ろにいる恋人に買ってもらいなさいな、お貴族様のお忍びデートなんだろ?」
なぜバレてしまったのか。驚いて目を丸くしていると。
「ユリア。普通平民は『お父様』とは言わないですから」
アルベルトが後ろから私を抱きしめながら耳元で囁く。感じた事のない甘い感覚に肩が跳ねた。
「ひゃぅっ……あ、そうか。言葉遣い……」
「それにこんな美人、長年この街を見て来た私が見間違える訳が無いさぁ。犬屋敷のお嬢ちゃんだから犬が恋人かと思ったら……年上の恋人がいたんだねぇ? 大事にされてるかい?」
正面にいるお婆さんの「恋人」発言で照れて顔に血が昇ってしまうし、後ろからアルベルトが抱きしめたまま離してくれないので火照りがおさまらない! まるで両面から強火で炙られているような感覚に陥って、たじたじになってしまう。
「……恋人を大事にするのは当然でしょう? 私は何年も前からずっとユリアだけを愛してるのですから」
お願いアルベルト、もう許して!? もう照れどころか顔から火が出ちゃうから!!
……落ち着くのよ私。これはシチュエーション……恋人のフリなんだから、落ち着いて私!!
「お熱いねぇ。じゃあそんな二人には、ハンカチ二枚買ってくれたら一枚おまけしてあげるよ。どうだい?」
「え! お婆さん、よろしいのですか?」
頷く露天商。アルベルトも「お金なら持っていますから心配なさらないでください。ユリアの好きなだけどうぞ」と……もう! お願いだからこれ以上耳元で甘く囁くのは辞めて!?
「――アルベルト、そろそろ離して欲しいのだけど?」
「駄目です。私がユリアの好きなハンカチを買うのですから、その対価として……選んでいる間はこうやって抱きしめます」
まさかの理屈に思わず呆然としていると、露天商のお婆さんがワハハ! と大声で、さも面白いものをみたといった風に両手を叩き笑った。
「お嬢ちゃん諦めな。離して欲しいのならさっさと選んで買ってもらうんだね」
「うぅ……じゃぁ、これと。あとは――」
本日はあと1話更新予定です
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