今日は街歩きデート 1
6日目。今日はアルベルトと街歩き訓練。
「先日も似たようなことをいたしましたが、今日は実際に貴族の間で流行っている『恋人同士の平民を装ってのデート』というシチュエーションで特訓しましょう」
「デート……!」
男性恐怖症の私もついにここまできた! 昨日までは『デート』という名目では無かったが、今日の設定は恋人同士。それだけでなんだかハイレベルになったような気がしてしまう。
ここ数日の特訓のおかげで、アルベルト相手なら手や体が触れても大丈夫になったし、伯爵家を守ってくれている兵士達なら以前のように緊張せずにいられる。少しの間なら手が触れたって問題無い。それに、初めこそ不安でいっぱいだった私も回数を経るごとに、アルベルトと何かをするという事自体が楽しくなってきていた。
アルベルトのおかげでかなりの進展があった私を、使用人や兵士達は両手あげ喜んでくれていた。
やはり、相手を知り自分に危害を与えるような人物でない事が理解出来て、さらに特訓して予習を繰り返し慣れていけば大丈夫なのだ。
「しかし今回の場合私の外見年齢がネックでして……側から見ると、恋人にもデートにも見えないかもしれません」
「大丈夫! 私、出来るだけ年上に見えるように工夫して行くから」
メイクと髪と服でどうにかこうにか……と言っても、所詮18歳。見た目40代のアルベルトとは下手すれば親子レベルの差がある。
「……ひとまず、この執事服では行けませんから着替えて参ります」
執事服以外見たことないから楽しみだなぁとコッソリ考えながら、部屋を退出していくアルベルトを見送って私も準備を進める。出来るだけ大人に見えるように侍女に髪を巻いてもらって、低めの位置でのまとめ髪に。用意してもらった平民風のシンプルなワンピースを纏ってルンルンと鏡を眺める。
手伝ってくれた侍女は楽しそうにする私を見て微笑ましいものを見たかのように優しい笑みを浮かべた。
「どうかしたの?」
「いいえ。こんな恋する女の子のようなユリアお嬢様を見る日が来るなんてと……感慨深かっただけです」
「嘘ッ……」
着替えた後私の部屋に戻ってきたアルベルトを見て、思わず絶句してしまう。服自体は普通のシャツにズボン、身長を除けばいたって何処にでも居そうなスタイルなのだが。
「ひ、髭! 口髭が……無い!?」
平民の服に着替えて来たアルベルトには、ジャイアントシュナウザーらしい口髭が消失していた。
「はい、少しでも若く見せようと」
「そんな……!」
思わず両手両膝を床につけて項垂れる。ジャイアントシュナウザーだけでなくシュナウザーの類は立派な口髭のような毛が最大の特徴でチャームポイントで愛すべきモフモフ! それを剃られてしまうだなんて……トリミングサロンならクレームものでは!?
「わ、私のもふもふが……」
もうショックが大きすぎて倒れそうだ。既に床とお友達になりかけているのに、もはや床と結婚しなければならない程のショックが……
「……ユリアお嬢様? 人間の時に髭を剃ったからといって、犬の時に毛が無くなるわけではありませんから」
そういってアルベルトは親切にもその姿を犬に変えてくれる。顔を上げてよく確認するが、その外見は前となんら変わりなくて……
「よかったああぁぁ! もふもふのアルベルトがツルツルになってたらどうしようかと思った……本当に心臓に悪いわ!」
「ワフッ」
アルベルトは未だ床にペタンと座りこんでいる私の腹にすりすりと顔を擦り付けて。まるでヒゲのようなシュナウザー系統ご自慢の毛の存在をアピールしているかのようだ。
「あはは、ありがとう。ちょっと気が動転しちゃったわ」
「ワンワン」
アルベルトはそう返事して人間の姿に戻る。
密着した状態から戻ったせいか、床に座りこんでしまっている私の肩を抱くような状態で人間に戻る。
「では安心した所で、街に向かいましょうか。私のユリア」
いつものアルベルトのはずなのに、立派な口髭がないだけでいつもと違って見えてしまって。心臓がドクンと大きな音を立て始める。
でもその原因は緊張でも恐怖でも無くて……?
「わ、わたしの、ゆりあ?」
いつものアルベルトらしくない言葉で、一気に顔が火照る。
「何か違いますか? 今日は私たちは恋人という設定ですから、精一杯その役目果たさせていただきます」
「ひぇ……」
この感情は何なんだろう。ドキドキして胸が高鳴って、少し苦しい。アルベルトになら触れられたって平気になっていたはずなのに!?
(もしかして風邪か不正脈かしら?)
アルベルト頑張って……
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