万が一の場合
4日目と5日目に関しては、座学を中心としてその後外に出かけるという流れだった。
まず座学では毎晩読み聞かせのように……強制的にインプットさせられているコンラート様の情報を、更に日中にも追加で教え込まれて、ついに絵姿を強制的に見せられた。
普通絵姿は美化して描くものなので美形になっていて当然なのだが、アルベルト曰くコンラート様は元より絵姿並みの美形らしい。流石ファンクラブが存在するだけある。
(何故アルベルトがコンラート様の容姿を知っているのかしら?)
不思議に思ったがそれよりも重大な新事実の方に、私の意識は集中してしまう。
「え!? コンラート様、動物が不得意なの!?」
「はい。しかし全ての動物が駄目という訳ではないようです」
なんという事だろう。うちは通称「犬屋敷のレーベンシュタイン」だというのに。
(でもこれは有名な話だから、コンラート様だってうちが犬屋敷だと分かっているはずよね?)
きっと犬は平気なのだろう。私は安易にそう考えていた。
そして2日とも外に出かけたのだが、内容はまさかの乗馬での遠出と観劇。まさに男女が仲を深める為に行きそうな場所で、前日までの散歩から一気にグレードが上がったような気がした。
……あ。犬が馬に乗れるの? というツッコミは無しにしてください。アルベルトは私の神犬なので、それくらいお安いご用だったのです。……はい、流石に飼い主の私も信じられない気持ちでいっぱいです。
「こうするのが流行だから」とアルベルトの腕の中に抱えられるような形で馬に乗ったり、観劇でも「こういう内容が流行りだから」と王道な恋愛物を見たり。
私は自分で馬に乗れるし、観劇だって動物モノが一番好きなのに……自分の好きなものばかりではなくて、流行や相手の好みなども良く考えなくてはならないという当たり前かもしれない事を、私は今更学んでいた。
(確かに、アルベルトの情報によるとコンラート様はロマンチックな物がお好きなようだから……きっとこのようなチョイスをしてくるのでしょうね)
アルベルト相手ならどちらも難なくこなす事が出来て合格と言ってもらえたし、結局楽しめたから良いのだけど。
……相手がコンラート様になっても私は大丈夫だろうか? 動物が苦手という話もあったし……正直、男性恐怖症が治っても性格が合わないのでは? という気持ちが、私の中で渦を巻くようになっていた。
「ワォンッ」
アルベルトの声でハッと我に返る。私の部屋のベッドの上。いつものように夜アルベルトと寛いで一緒に寝る時間。私はルーティーンでネックレスを握り締めて考え事をしていたのだ。石が割れてしまっているのに握り締めていたせいか、少しだけ手のひらが痛い。
「あ……ごめんねアルベルト。ちょっと考え事してぼーっとしてたみたい」
アルベルトに謝ってから、ネックレスを再度首から掛け服の中に仕舞う。そしてアルベルトの頭から背中にかけてを大きく撫でた。
「ねぇアルベルト。コンラート様がダメなら他の人を探したらいいって言っていたよね。……もし私がそうしたいって言ったら、こうやって沢山特訓してくれたアルベルトに迷惑は掛からない? せっかく協力してあげたのにって悲しくならない?」
仮に万が一の事があった場合。私は大勢の人に迷惑をかけてしまうことになるが……私の愛犬でかつ執事のアルベルトがどう思うのかが気に掛かった。
きっとアルベルトがここまで私の男性恐怖症の克服に協力してくれるのは、この婚約話に賛成だからなのだろう。それなのに、恩を仇で返すような行動は……したくない。
「ワン!」
アルベルトは元気よく返事をして私に抱きついてきて、頬をぺろぺろと舐め回す。相変わらずその口周りの毛がくすぐったくて思わず笑い声が溢れた。
「――くすぐったい! ありがとう……気にしないよって言ってくれているのよね。でもそれ、むしろ喜んでない?」
また人間の姿の時に、答え合わせをしてみよう。そう思いながら一緒に戯れ合って、夜は更けていった。
婚約者との対面まであと――4日。
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